「農民」記事データベース20031013-606-03

「米凶作」シンポでの各氏の発言

関連/緊急シンポジウム 凶作・米改革こめ一大事!


学ぼう米パニックの教訓 自給こそ真の国際貢献

主婦連合会参与 清水鳩子さん

 十年前の米パニックの時、消費者も多くの教訓を学びました。当時、主婦連合会にはたくさんの米の苦情が寄せられましたが、その中の一本に、「作況指数七四(当時)の日本が経済力にものを言わせて作況指数六〇のタイの米を買いあさり、タイの人々は米代が上がりとても困っている」というタイ在住二十年の女性の声がありました。足りない時は輸入すればいいという農政ではなく、自給こそ真の国際貢献なのだ、減反して作らないというのは国際的過ちだと私たちは感じました。

 消費者も、安ければよいではなく、生産者、業者や自治体・国などと知恵を出し合って、日本の農業を作っていく大切さを学びました。パニックの後から、産直が全国で起こりましたが、それは作っている人や売っている人が抱える事情を、消費者も知らなければと感じたからです。安心・安全への関心も高まり、生産者のわかる米を買い続けることこそ、もっとも強い保障なのだと学びました。

 米改革でも言えることですが、大資本が環境や食料に入り込んだら何でもできることを理解しておく必要があります。これは石油ショックなどいやというほどの前例があります。人為的な米不足もつくり出せるのです。

 ところがマスコミはWTOの決裂にしても、米改革の本質についても、本当のことをほとんど報道しません。国民として何ができるのか、消費者のなかに米改革の問題点を広げていきたいと思います。


生産者の顔が見える米が消費者の信頼うける

東京・武蔵野市精米店店主 高橋信一さん

 米屋を継いで三年目に、十年前の米パニックを経験しました。

 それまでは米卸から安定的に供給されていましたが、米パニックを境に米が入らなくなってしまいました。その半年後、世界各国の米が輸入され、ブレンドしたり、小袋に分けたり、米屋はたいへんな苦労をしました。米不足が報道されてからは価格も暴騰。でも高い価格で売った米屋さんは、今ではほとんどが閉店。お客さんは十年たった今でも、この店があの時どういう売り方をしたのか覚えています。

 現在は、北海道から熊本まで二十二の生産者、団体と取引いただいて、一般の消費者に売る米はすべて生産者の名前で販売しています。やはり生産者の顔が見える、安心できるというのが消費者のニーズですし、信頼も厚くなります。米屋も栽培基準に合わせて自信をもって提供できる、そういう体制作りが求められているのだと思います。

 八年前から地元の小学生に、稲作指導をしています。たった半年、八坪の田んぼ作りで、子どもたちはずいぶん変わります。朝食にご飯を食べる子どもが四十人中二人から三十人に増えるのです。こういうことを一つの運動として、起爆剤にしていきたいと思います。


米作農家の切り捨てをねらう危険な「米改革」

岩手県胆沢町職委員長 渡辺和也さん

 米改革で現場はきわめて混乱しています。集落で農家に説明会を開くと、「小さい農家はやめろってことか」という声が出ます。米改革は「担い手」を決めろと言いますが、その基準を胆沢町にあてはめてみると、一集落(五十戸程度)でたった一戸しか該当しない。あとは米価が下落しても補てんしないと言う。これを市町村で決めろというのですから、すごい矛盾があります。

 こんなことが始まったら、農村は成り立たない。受託した農家も五十戸分の農地は管理できませんし、外米輸入がどんどん拡大され米価が暴落するなかでは、どんなに規模拡大してもやっていけません。「担い手」になったとしても、苦労してたくさん取れば安く処理され、豊作をまったく喜べない、農民の神経を逆なでするものです。

 こういうなかで生産調整の数量配分をするのですが、かえって生産量を把握できず、実効ある生産調整にはならない。農水省は、それをあえて野放しにしておけば、六千円(六十キロ)という米価にまで下がると予想しています。その米価なら農家を「淘汰」できる、残った農家が米を作ればよい――これが農水省のねらいだと私は思います。

 私たち自治体労働者が向き合うのは、町民です。国や県が言っていることだけでは、情報は偏ります。農家が何を知りたがっているか、農家にとって米改革がどんな危険性があるのか、まじめに訴えていかなければと思っています。


安全な米作りのために再生産できる価格を

米作農家・秋田県農民連委員長 佐藤長右衛門さん

 秋田県の作況指数は九二となっているが、とんでもない上げ底数字だ、というのが実感です。データを見ると、米どころと呼ばれる東北、北海道、北陸は四〜五年に一回は不作。ところが政府は、輸入米を増やす一方で減反を押しつけ国産米の在庫を減らす――血も涙もない農政に心の底から怒りを感じています。

 私は「百姓は毎年一年生」という言葉が大好きです。農業は本当に奥が深い生産活動です。ところが経営は、減反、米価暴落という壁にぶつかり、困難を極めています。米価が生産費よりも低く、ここ二〜三年は米俵に五千円札を張って出しているようなものです。

 先日、米屋さんが秋田まで視察に来て、意見交換しました。再生産できる価格で、しっかりと供給していけるように、互いに納得できるまで話し合って、独自の供給ルートを作っていきたい。長年買い叩かれてきた農家にはここで一息つきたい思いもありますが、今年こそ農民もじっくり構えて、適正な価格で信頼に応えようと、仲間に呼びかけています。

 九割の農家を“淘汰する”米改革には、本当に腹が立ちます。淘汰された農民はどうなるのか。小泉内閣は農家経営を立ち行かなくさせ、タダ同然で農地を手放さざるをえない状況にした上、株式会社の農地所有を認める改悪を進めています。

 集落から一人の落伍者も出さずに、全員で農業を守り続けて、輸入米に頼らずに、安全でおいしいお米を作って消費者に届けていきたい。米は輸入できても農家、農村、農地は輸入できません。

(新聞「農民」2003.10.13付)
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2003年10月

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