「農民」記事データベース20031006-605-02

三上満さんが語る賢治と農業〈1-2〉

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  /農業実践から詩や童話・文学作品を生み出す


農業実践から詩や童話・文学作品を生み出す

 地域の田んぼ知り尽くしていた賢治は…

 いずれにせよ、酸性土壌の田を切り開き、そこにさまざまな知恵を生み出した。例えば深水灌漑もその一つです。いま深水灌漑がどの程度やられているか分かりませんが、水はあらゆる物質の中で熱容量は最大です。水は熱をため込む一番素晴らしい性質を持っている。深水にすれば外気温が下がっても、水の温かさで冷害から免れる。そのために開発された灌漑のやり方を普及したり、カリや燐(りん)とかを組み合わせて、この田んぼならこうですよと指導した。賢治は、地域の田んぼを知り尽くしていた。その知識をもって農村をかけずり回っていた。その訴えたものは何だったんだろう。

 東北の農村は、何年かに一度は凶作を覚悟しなければならない。凶作があっても、それを乗り切っていけるのは、土に根ざしている農民だからこそできるのだと思います。企業や株式会社ではそういうことはできない。その年その年の利潤を上げていかなければならないからです。

 長い先を見通して水路の開発とか、堤防の管理だとか、いますぐに必要というわけではないが、何年かのうちにはそれが立派な水利になるとかを見通した共同の仕事をしなければならない。しかも、一つの村の中で協力しあってやる。そいう中で労働はつらいが、行事とか、あるいは祭りとか地域の文化が育つ。賢治もそういう農村にあって、労働が喜びである筋道を探ろうとしました。今こういう時代だからこそ、賢治を呼び起こして、「これこそ農ではないか」「これこそ日本ではないか」「これこそ大地ではないか」と叫んでいく必要があると、私は思うんです。

 賢治がやってきたことからいまの情勢を見るならば、日本の農政は、反賢治的といえます。その象徴が今年の凶作の中で、小泉首相の口から農民に対して一言も見舞いもなければ、激励もない。こんなところにも小泉首相の反農民的な態度が現れているのではないでしょうか。

 農は社会や文化、あるいは自然、環境など、あらゆるものの基である。そのことを賢治のやってきたこと、賢治の思想などを基にして、国民全体に広めていく必要があるのではないかと思います。農業破壊が進んでいる中で、宮沢賢治を呼び起こしていきたい。

 賢治の思想の集大成したものに――

 賢治の思想を集大成したものに「農民芸術概論綱要」があります。これは「おれたちはみな農民である ずいぶん忙がしく仕事のつらい/もっと明るく生き生きと生活をする道を見付けたい」。そして農業労働がそれこそ楽しいものとなり、芸術の創造となるようなそういう道をお互いに見付けていこうではないか。さらに「世界に対する大なる希願をまず起せ/強く正しく生活せよ/苦難を避けず直進せよ…なべての悩みをたきぎと燃やし なべての心を心とせよ」と続きます。「なべて」というのは賢治独特の言い方で「すべて」という意味です。しかも「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という思想です。あの時代にこれだけのことを賢治は主張しました。

 「本当の苦労を知らない能天気だ」と言う人もいるかも知れません。現にその時代の賢治は「道楽百姓」と言われたり、「おれたちの苦労などわかりっこない」と言われた。しかし、そういう状態で、賢治は農村を中心に自ら耕す人たちで協同組合的な共働労働で結ばれて、しかもその中から文化を追求し、農業と学問とを結びつけて、豊かな実りを得る、そういうことを夢見て、書くだけでなく、実際に農村の中に飛び込んで実践しました。そういう実践の中から、賢治の詩や童話・文学作品をいろどるいろいろな表現が豊かに生み出されていくわけですね。

(つづく)


三上満著『明日への銀河鉄道』

賢治賞受賞を記念してお話と演奏

ほんとうの幸いもとめて――お話しと、宮沢賢治ゆかりの音楽がクロスする90分――
三上満著『明日への銀河鉄道』〜わが心の宮沢賢治〜岩手日報文学賞 賢治賞受賞を記念して
▼日時=10月16日(木)午後7時30分開演▼場所=東京・文京区・文京シビックホール(小)、地下鉄丸ノ内線・南北線後楽園駅、JR中央・総武線水道橋駅下車▼お話しと音楽へのナビゲーター・三上満、ヴァイオリン・松野迅、チェロ・瀬越憲、ピアノ・曽我尚江▼参加費=2200円(当日2500円)全自由席▼問い合わせ・申し込み先=松野迅後援会・東京(電話03―3237―0113)

(新聞「農民」2003.10.6付)
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2003年10月

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