「大綱」は農業切り捨てだ大規模稲作農家の座談会(上)
小泉内閣は三月七日、食糧法改悪案を国会に提出しました。これは、日本を「米をつくらない国」にすることをねらった、昨年十二月の「米政策改革大綱」(以下「大綱」)にもとづくもの。
「大綱」に強い危機感白石 北海道の水田地帯、岩見沢市の十三・五ヘクタールの水田で、水稲と、転作は主にタマネギを作っています。いま北海道の稲作は、米価の暴落でギリギリのところまで追い込まれている。 そうしたなかで「大綱」は、転作奨励金も、稲作経営安定対策(稲経)も廃止。新しく「産地づくり推進交付金」をつくるというが、予算をバッサリ削られることがわかっているので、北海道の稲作農家は、農協も含めて強い危機感を持っている。 とくに、二十〜三十ヘクタールという大規模農家は、転作奨励金を経営のベースにしているので、これが減額されるともろに響く。なかには全面転作して小麦を作り、奨励金と麦の収入で収支を合わせるといった農家もおり、自らの経営をどうしていくか、相当シビアな選択を迫られている。 安部 そのとおりだ。私は福島の浜通りで十五ヘクタールの水稲とともに、三人の共同で四十ヘクタールの大豆を作っている。仮に、いま最高で十アール当たり七万三千円の奨励金が二万円台に落ちれば、どんな農家でもやっていけないだろう。それに、〇四年度の転作奨励金がいくらになるのか、誰に聞いても明確な答えはない。 大島 私も、自作地と借地を合わせて十二ヘクタールの水田と、請け負いで二十ヘクタールの大豆を作っている。ここ三年ぐらいで大豆や麦の転作が急増した。 ところが今、自給率向上の花形と言われた大豆・麦が激しい産地間競争にさらされている。大規模農家の間でも、先行きへの不安が広がり、最近の農業切り捨て政治への怒りが強まっている。 原 確かに今の米価では、後継者が育つわけがない。私は息子と、都市化が進む埼玉県坂戸市で、米を十三・五ヘクタール、麦を二十七ヘクタール、合わせて約四十ヘクタール作っているが、麦が経営の主力になってきた。 埼玉県内を見渡しても後継者がいる稲作経営はポツポツとしかいない。「大綱」の担い手経営安定対策への期待もある。アメリカでは、一農家当たり八百万円くらい支出している。要するに「農業でもうけなくていいよ、農家の生活費は出しますよ」ということだろうが、果たして農水省はそれをやる気があるのか。
予算の削減が出発点横山 「大綱」の前文には「過剰米に関連する政策経費の思い切った縮減が可能となるような施策を行う」とある。つまり、いかに予算を減らすかが出発点だ。幻想を抱く余地はないと思う。 大島 大規模農家でも米価が下がることを前提にしたのでは経営は成り立たない。ところが「大綱」は稲経も改悪する。農家の負担を多くして、補てんの割合を切り下げる。これまでの稲経でさえ、経営を安定させられなかったのにさらに切り下げる。私は、米価を保障することがもっとも大事なことだと思う。 原 その国の農業を守るのにお金をかけるのは当然だ。ヨーロッパだって国が農家に直接支払いをしている。市場経済一辺倒では農業は弱体化してしまう。食料を粗末にする国に未来はない。国は本腰を入れて農業を育てることをしてもらわないと。 白石 担い手経営安定対策だが、府県で四ヘクタール以上、北海道で十ヘクタールというのが一つの要件だ。北海道の場合、それに該当する農家は全体の三割。さらに認定農家で、青色申告者でということになればほんの一握りだ。 こういう選別政策は、今までの農政にない。それで、いかにも「担い手」に光が当たるように見えるが、そうではない。だから「担い手」と言われる人たちも危機感を抱いている。 農業というのは、地域の何人かで担えるものではない。いろんな人の力が寄せ集まって一つの農業地域を形成する。地域の農業を一人で背負って水路から何から全部管理しろと言われたってできるわけがない。 大島 「大綱」では、国に替わって農協が転作の目標面積を決めて農家に割り当てるという。しかし、茨城や千葉では農協が集める米は五割を割っている。そんな状況で、農協が米生産をどうこうできるはずがない。「大綱」の方向は、どう推し進めようとも必ず破綻する。その時には、米の完全自由化に踏み切るというのが「大綱」の真のねらいだ。
米価暴落の原因はMA米安部 いま“米余り”なんていわれているけど、農家がいくら転作を増やしても、国がどんどん輸入を増やしている。飽和状態になっても輸入されるわけだから、米価が下がるのは当然だ。 原 そうだ。米の値段がここまで下がったのはミニマム・アクセス米の罪が大きい。「悪貨は良貨を駆逐する」ということわざがあるが、まさに外国産米が悪貨で、国産米が良貨だ。 白石 農民連が行った農水省交渉でそのことをただしたら、米価下落の要因は豊作だという。とんでもない! 大島 豊作のせいにして、失政の責任を何がなんでも認めないという態度だ。また、タイでも米が安すぎて農家がやっていけず、バンコクの郊外の優良な水田地帯が延々と荒地になっているという。世界中の家族経営農家がそういう状況に置かれている。食糧問題が二十一世紀の課題だといわれるが、そのときにボロもうけしようという国際メジャーの戦略も、同時に見ておく必要があると思う。 原 オーストラリアだって、干ばつで七〇%減産だというじゃないか。すさまじい事態だ。 安部 日本の政府は、BSEの問題でもそうだが、さんざん輸入を促進しておいて、問題が起きてから対策を考えようとする。そうではなくて、国内の農家を育成し、安全なものを大いに作らせる。そういう環境を作ってくれというのが、われわれ農家の願いであり、消費者の利益とも合致する。
出席者 (新聞「農民」2003.3.17付)
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[2003年3月]
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