「再生プラン」と農地制度「改革」―(7)――なにが問題なのか―
農業・農村の再興と制度の活用駒沢大学名誉教授 石井 啓雄株式会社でよいのか日本の農業・農村の再興をめざすうえで、農業構造の問題として、法人化、とりわけ株式会社の農業経営と農地取得の推進でよいのでしょうか。 もちろん、農民が戸別で、あるいは共同化のかたちで、法人化するもしないも、それは自由です。しかし、制度として株式会社の農地取得を認めるかどうかは、それとはまったく別の話です。 たしかに農・山村の高齢農家などの間には、生活のため「高く買ってくれるなら相手は地元の人でなくても仕方がない。先祖伝来の土地ではあるが処分したい」というような人が増えていますが、それでやむをえないのでしょうか。 一方、いま大銀行もその他の大企業も、八〇年代末のような元気はありませんが、農・山村の土地を安くまとめ買いして将来に備えるぐらいの力はあるでしょうし、かつて土地を担保としてバブルをつくりだして大儲けをしたような状況の再来も将来ありえないことではありません。 たとえば「農民」十一月四日号は和歌山でのカゴメの動きを伝えていますが、他方で日本タバコが野菜から撤退するという報道もあります(「朝日」十月三十日)。当面はこのような動きが交錯するのでしょうが、しかしそもそも、大企業・株式会社による農業が一般的にいって本当に成り立つのでしょうか。そんなことはありえないでしょう。そう言える理由は、たとえば次の通りです。 (1)農業は自然を相手としており、同じことの繰り返しではなく、スケールメリットが容易に貫徹するわけでもなく、また自然災害、家畜の出産や疾病への対応など、賃労働やサラリーマン的労働はなじみにくい。 (2)家族経営の場合には利潤が成立しなくても物財費と労賃さえ確保できれば継続できるが、株式会社の場合は、利潤が獲得できなければ本来続けられないはずである。 (3)資本主義的な農業経営にとっては、理論的には借地こそ合理的なはずなのに、なぜ土地購入に無駄な投資をしようとするのか。 (4)株式会社が未墾地を安く取得して開墾し、農業を経営することは、制度的にこれまでも自由かつ可能だったが、そういう例はほとんどなかった。それを今頃になってなぜ農業をするなどと言い出すのか。 (5)日本の大企業はこれまで最も熱心な国産農産物割高論者、市場開放論者だった。それが今になってなぜ国内で自ら農業生産を始めるなどと言い出すのか。株式会社農業で低コスト・低価格が実現できるなどと証明したことはないではないか。 以上、主な理由五つをあげましたが、株式会社・大企業が社会奉仕として農業を営むはずはなく、ねらいが優良な既墾地の取得にあることはまちがいありません。私たちが大企業性善説に立てないことは、雪印食品から日本ハムにいたる一連の事件、ムネオ・ハウスにかかる三井物産から三菱商事や兼松、そして原子力発電にかかる電力会社など、事例は目の前に腐るほどあります。
米問題と農地制度の重要性小泉・竹中流の新自由主義的「改革」論は、中曽根以来の「戦後政治の総決算」路線を発展させて、戦後改革の成果を根こそぎ否定しようとしています。その農政版の最も重要な一つが、国の米管理責任の放棄と大企業の米支配に新たな段階を画す「米政策改革大綱」(十二月三日発表)であり、もう一つ重要なのが株式会社の農地取得容認・推進論でしょう。 食管制度はすでに食糧法になってしまいましたが、米の価格と管理について国が責任をもつ制度と、耕す者だけに土地に関する権利を認める農地制度この二つこそは戦後の民主主義的な農政の柱でした。日本の財界と自民党中心の政権は、アメリカのご機嫌もうかがいながら、この二つをなくしてしまう方向を強めているのですが、私たちは逆にその成果を生かしながら、今日的に発展させることをめざす必要があるのだと思います。 いずれにせよ株式会社・大企業の農業参入・農地取得に道を開くことは、悔いを千載に残すものと私は考えます。
みんなの力で制度の活用をかりに株式会社経営であってさえ、実際に農作業に従事して生産を行うのは働く勤労者です。日本の農業生産を再生・発展させ、また農・山村地域を維持するために、最も容易に可能なことは、現に農・山村で暮らし農業をしている家族を励ますような政策を政府がとることです。 そのためには農民もまた、政治や行政にお願いするこれまでのようなスタイルを脱却して、自分たちの力で問題の解決をはかっていくようにしていくことが必要です。 そういう立場にたって考えてみると、現在の農地に関する諸制度とその行政による運用には、いろいろな不十分があり、また選別的な歪みを強めているのも確かですが、活用できる面はたくさんあります。農地制度が、まだ農作業常時従事義務を核心としていることがその根拠です。 利用権設定の制度、小作料や作業料金に関する制度、農用地利用改善団体の制度、農振・農用地区域に関する制度、特定農業法人の制度、交換分合の制度、農地保有合理化事業、中山間地域への直接支払い制度等々、さらには市民農園法や特定農地貸付法まで、一つひとつを詳しく紹介する余裕はありませんが、みな自主的・民主的・集団的に活用できる制度です。土地基盤整備についても、“申請させ主義”といわれるような実態を克服して、本来の「申請主義」に戻って活用することです。そしてさらに諸制度の改善をめざすのです。 (つづく)
(新聞「農民」2003.1.13・20付)
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[2003年1月]
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