「農民」記事データベース20021104-561-05

動き急、企業の農業進出

カゴメが和歌山市で計画

 大手食品加工メーカーのカゴメが、和歌山市に大規模なトマトの養液栽培温室を建設する計画が進んでいます。背景にあるのは、小泉内閣が、株式会社の農地取得と本格的な農業進出を認めようとしていること。来年の通常国会での農地法の大改悪を前に、臨時国会で法案を提出する「構造改革特区」で先取りしてしまおうという策動が緊急です。


「特区」で株式会社の参入容認

 40ヘクタールの強大温室

 カゴメが建設しようとしているのは、東洋一の規模で、世界でも三番目といわれる四十ヘクタールのハイテク温室。年間の生産量は六千トンで、和歌山県内のトマトの全生産量(八千トン)にも匹敵します。

 進出予定地は、和歌山市の郊外で、淡路島に向けて突き出た岬の突端の地、加太(かだ)。ここには、関西国際空港の建設のために土砂を取った跡の二百六十ヘクタールにおよぶ広大な草原があります。

 県は、この土砂取り跡地を、「コスモパーク加太」と呼び、工業団地などを建設する予定でした。しかし、進出を計画していた企業は全部撤退。残ったのは、約四百三十億円の巨額の借金でした。

 こうした事情に目をつけたのが、カゴメです。「阪神地域という大消費地の近くで、これだけまとまった土地は他にない。非常に関心がある」といい、「初期投資やランニングコストを低く抑えられれば」と、税制面などでの優遇措置を当てこんでいます。

 木村良樹・和歌山県知事は、七月三十日の記者会見で、コスモパーク加太へのカゴメの進出について、「かなり具体化していく可能性のある話」と意欲を見せ、同席した部長は「建設を前提に平成十六(二〇〇四)年早々に一期工事に着工できれば」と述べました。いま、県と開発公社、カゴメの三者は、研究会を立ち上げて、どうやって進めていくか、会合を重ねています。

 「特区」で加速

 こうした動きを強力に後押ししているのが、地域限定ながら大企業のもうけのために規制を緩和し、自治体を開発に駆りたてる小泉内閣の「構造改革特区」構想です。

 県は、コスモパーク加太にカゴメのハイテク温室とともに市民農園や菜園付き住宅をつくる計画を、「食と緑の工場特区」(起業促進タイプ)として国に提案。小泉首相が自ら本部長を務める「構造改革特区推進本部」は、和歌山県からのものも含めて各地の自治体、企業から寄せられた約九百の提案をもとに、十月十一日、八十項目の特区構想具体案をまとめました。

 そのなかにある農業分野での規制緩和は、(1)株式会社の農業参入の容認、(2)市民農園の開設者の拡大、(3)保安林の解除要件の緩和の三項目。カゴメも、和歌山県も、これで「一つの条件がクリアーされた」ととらえて、計画が加速するのは必至です。

 そして、小泉内閣は、十八日に開会した臨時国会で、構造改革特区推進法(特区法)の成立をねらっています。同法案は、これまで株式会社の参入を厳しく制限してきた「医療」「教育」「福祉」「農業」の四分野のうち、「農業」「福祉」の分野で株式会社の参入を認めるもの。日本経済の不況をここまで深刻にした張本人、経済担当大臣が口を開けば株価が下がると言われる小泉内閣の“ヤケクソ目玉法案”です。

 全国農業会議所も、「『農地の無法地帯』を生み出す恐れがあり、将来に大きな禍根を残すことになりかねない」と、強い懸念を表明しています。

 家族経営を駆逐

 もともとトマトの加工が専門だったカゴメは、五年前から生鮮トマトの仕入れ・販売を始めました。ハイテク温室によるトマトの養液栽培は、その「本命」と位置づけています。茨城・美野里町、広島・世羅町にはすでに一〜二ヘクタール規模の温室があり、現地の農業生産法人との契約栽培を行い、世羅町の法人には一〇%の出資もしています。

 そのカゴメの企業理念は、「自然の恵みへの感謝」。しかし、美野里町の温室を視察した農民連の会員の感想は、「温室の中は、上下に伸縮自在の電動の台車がレールの上を縦横に走る、まさにトマト工場だった」。これで、なにが「自然の恵みへの感謝」でしょうか。

 さらに、カゴメ同様に株式会社が次々と資金力にものを言わせて農業に参入したら、大地と太陽の恵みと、自らの労働で農地と自然を守ってきた家族経営農家が蹴散らされるのは、はっきりしています。カゴメが今やろうとしていることは、その先鞭をつけることに他なりません。

(新聞「農民」2002.11.4付)
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2002年11月

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