「農民」記事データベース20021111-562-01

遺伝子組み換え食品

全世界の消費者が警戒・反発(1/2)

日本はGM稲の作付目前

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   ブックレット『遺伝子組み換え稲』

 遺伝子組み換え稲の日本での作付けが、いよいよ目前にせまろうとしています。遺伝子組み換え(以下GM)食品をめぐる世界の動きを、科学ジャーナリストの天笠啓祐さんにインタビューしました。
(満川暁代)


 科学ジャーナリスト

     天笠 啓祐さんに聞く

〔プロフィール〕 あまがさ けいすけ 一九四七年東京生まれ。早大理工学部卒。現在、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン代表、市民バイオテクノロジー情報室代表。著書多数。『食品汚染読本』(緑風出版)を十月に出版。


 まず、遺伝子組み換え食品に反対する運動がこれだけ大きくなった原因が、三つあると思います。一つ目が環境への影響、二つ目が食べ物としての安全性の不安、三つ目がモンサントのような多国籍企業によって種子が支配されてしまうという問題です。

 環境への悪影響が顕著に

 まず環境への影響ですが、これが最も顕著になってきたというのが最近の傾向です。

 たとえば花粉が飛んだりして組み換え遺伝子が在来種や雑草などへ広がってしまうという“遺伝子汚染”が出てきました。

 現在は、GM農業、従来型農業と、有機農業の三つの農業がありますが、いまヨーロッパではGM農業と有機農業が両立しないという事態に直面して大きな議論になっています。隣にGM作物を植えられてしまうと、花粉が飛んできて、有機の作物のなかにGM作物ができてしまう。ちょっとでも混入していたら認証されず、有機にならなくなってしまうわけです。

 またアメリカでもトウモロコシで従来型農業に遺伝子組み換えが入り込んでしまって非常に問題になっています。そうすると日本の商社がアメリカから分離流通などで非GMトウモロコシを選んで輸入しようとしても、実際には難しくなってくる。有機とも両立しないけれども、従来型にも組み換えが高い割合で混じってしまうわけです。

 また除草剤耐性の花粉が飛んで野性種と交雑し、除草剤が効かない“スーパー雑草”が出現しています。とくに近縁の雑草が多いナタネで大きな問題になっています。

 それからもう一つ重要なのは種子が汚染されてしまう問題です。日本も種子は圧倒的にアメリカに依存していますから、遺伝子組み換えを作付するつもりがなくても、知らないうちに作付してしまう。種子のアメリカ依存体質も変えていかなければいけないですね。

 殺虫性作物に関しては、殺虫毒素が害虫だけでなく益虫も殺してしまうなど標的以外の昆虫や生物に影響を及ぼすことがかなりはっきりしてきました。コーネル大学の実験では、野生の蝶の幼虫が殺虫毒素のある花粉がかかった葉を食べて高い割合で死亡することが確認されています。言ってみれば無差別攻撃ですから、当たり前といえば当たり前のことです。

 また遺伝子汚染によって、生物の多様性が失われる可能性も指摘されています。在来種や野性種にGM遺伝子が広がってしまうと、そこで住みにくい性質に変わってしまうかもしれない。在来種が滅びてしまうと、多様性が奪われ、自然そのものが脆弱になってしまいます。

 たとえばメキシコでは、トウモロコシの原生種への遺伝子汚染が確認されています。メキシコの南部は暖かい地域ですが、暖かい所で生息できないような品種に変わってしまうと、そこでは滅びてしまいます。メキシコはGM作物を認めていない国ですが、その国でも遺伝子汚染が広がっている。世界中で作付けされれば、世界中で起こる事態です。

GM作物の作付状況(万ha)

国別作付面積(2001年)
米国
アルゼンチン
カナダ
中国
その他
3570(68%)
1180(22%)
320(6%)
150(3%)
40(<1%)

 計

5260(100%)
参考:日本の国土の広さは3780万ha
作物別作付面積(2001年)
大豆
トウモロコシ
綿
ナタネ
その他
3330(63%)
980(19%)
680(13%)
270(5%)
  (<1%)

 計

5260(100%)
*天笠啓祐著「遺伝子組み換え稲」より

 食べ物としての安全性の不安

 食べ物としての安全性は、一番難しい問題です。安全ならば食べてもよく、危険なら食べなければいいわけですが、安全か危険かわからない不安な状態をどう評価するかという問題です。消費者として「不安だから食べたくない」というところが大切だと思います。

 最近では、イギリスのニューキャッスル・アポン・タイン大学の研究で、大腸を切除した人にGM大豆食品を一回だけ食べてもらい、大便を調べたところ、GM大豆食品の遺伝子が腸内のバクテリアに移行していたという結果が出てきました。

 もともとGM食品の安全性評価では、食べ物の遺伝子は胃液や腸液で分解されてしまうので、腸内のバクテリアには移行しないという前提条件があります。しかしこの研究結果で、その前提条件が崩れたのですから、安全性評価全体を考え直さなければなりません。

 私たちは最初からこの可能性を指摘していたのですが、それが今回立証されたことは大きな問題ですね。抗生物質耐性菌になったり、除草剤とか殺虫毒素を作るバクテリアができてしまって、それがバクテリア同士の遺伝子交換で広がっていってしまうなど、何が起きるかわからないという状態が考えられます。

 またローウェット研究所(英)のプシュタイ博士の動物実験も有名です。ラットに組み換えジャガイモを食べさせ続けたところ、免疫細胞や内蔵の表面に異常が起きたという実験です。準備実験を綿密にやった厳正な実験ですが、推進企業は事実を歪めてまで、この実験結果を否定しようとしました。

 推進企業はこのような安全性試験はする必要がないという考え方です。各国の政府が指示している安全性評価の方式に従って試験をしているのだから企業としては問題ないと言うわけです。しかし国が定めた安全性評価にはプシュタイさんのような実験がありません。

 それで政府は何をやるかというと、企業から出された書類をチェックするだけで、中身を再実験したりは一切しません。何か問題が起きた時は、企業は「国の言う通りやった」、国は「その時点ではまだ科学的知見が定まってなかった」といって、誰も責任をとらない体制があるのです。

         □ >>〔次ページ〕

(新聞「農民」2002.11.11付)
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2002年11月

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