自由化 vs 飢餓根絶、対立鮮明に世界食糧サミット五年後会合 食糧主権触れずに閉会
FAO(国連食糧農業機関)の「世界食糧サミット五年後会合」(六月十〜十三日)と、これに並行して「食糧主権のためのNGOフォーラム」(九〜十三日)がローマで開かれました。
「五年後会合」とNGOフォーラムを通じて浮き彫りになったのは、飢餓の根絶と世界中の農業の持続的発展という課題に真っ向から背を向け、グローバリゼーションと自由化、さらに遺伝子組み換え技術の普及を最優先課題とするアメリカなどと、食糧主権を国際法上明確にし、持続可能で多様な家族経営農業の発展を要求する潮流の鋭い対立の構図です。 「五年後会合」は初日に「飢餓に対する国際的提携」と題する宣言を採択。この後は各国政府と国際機関代表の“マラソン演説”が続き、最終日は、サッカー・ワールドカップのイタリア戦があるため、二時間繰り上げて閉会しました。 「宣言」は九六年のローマ宣言と行動計画の実施の決意を改めて確認、各国政府や国際機関が協調した行動をとるよう求めています。 しかし、NGOや発展途上国が要求した「食糧主権」に触れることを避け、現状のままでは二〇一〇年までに飢餓人口を半減するとした九六年サミットの目標が「四十五年遅れる」というFAOの指摘にもかかわらず、具体的支援策が何一つ決まらなかったのが実情です。 宣言案の作成過程では多国籍企業や強国に対する国際的コントロールを意味する「食糧に対する権利のための行動規範」という表現がアメリカの反対で打ち消されました(FAOがバックアップして会合中に毎日発行されたニュース「テラビバ」六月十一日号)。 また、WTOによる貿易自由化とアメリカなどのダンピング輸出が農業つぶしと飢餓の最大の原因であるにもかかわらず、「貿易(自由化)が世界食糧安全保障達成のための重要な要素である」と「宣言」しました。 百五十を超えた参加国のうち、首脳が参加した国は六十四にとどまり、「先進国」からはホスト国のイタリアとEU議長国であるスペインだけ。先進国の冷淡さが浮き彫りになったといえます。
遺伝子組み換え農産物 売り込み最優先の米代表団大型代表団を送り込んだアメリカは、NGOや発展途上国の要求つぶしに奔走するとともに、サミットと並行してローマ市内で遺伝子組み換え技術をPRするフォーラムを開くなど、バイオテクノロジー、とくに遺伝子組み換え技術の重要性を徹底的にPRし、「宣言」に盛り込ませました。アメリカのアン・ベネマン農務長官は十日の記者会見で、遺伝子組み換えと有機農業の関係を問われ“アメリカやヨーロッパでは消費者の需要があるから有機農業もやるが、飢えた国々には遺伝子組み換え食料を供給すればいい”という趣旨の発言を繰り返し、サミット米国代表団の優先目標がバイオテクノロジーのいっそう広範な利用の促進であることを隠そうともしませんでした。 飢餓の根絶という人類的課題を討議する食糧サミットの場を、遺伝子組み換え農産物のPRとバイテク企業の新たな利益拡大の場にするこれほど不誠実な態度はないでしょう。
NGO・食料主権条約を提案これに対し、正規の代表七百人を含む四千人で十三日夜まで熱心な討論を繰り広げたNGOフォーラムは、最終日にFAO会合に提出した「政策声明」で、九六年行動計画の失敗の原因が「飢餓を招く政策や自由化、グローバリゼーションを『南』に押しつけたためである」と指摘。「五年後会合」の宣言は「失敗した薬をより多く調合」するものだと批判しています。こういう「破壊的な処方箋」に替えてNGOフォーラムは、次のような積極的な提案を対置しました。 (1)小農と家族農業を基礎にした多様な農業の発展、(2)農民に対する適切な価格保障、(3)生命特許の禁止と遺伝子組み換え技術の停止、(4)輸出のための農業ではなく国内消費を優先、(5)WTOから農業をはずせ、(6)すべての人々が食糧を得る権利と農民・漁民が食糧を生産する権利を尊重するための「食糧主権条約」を作れ――。
(新聞「農民」2002.7.1付)
|
[2002年7月]
農民運動全国連合会(略称:農民連)
本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224
Copyright(c)1998-2002, 農民運動全国連合会