シンポ「農民と消費者のための種子とは」「農の会」が総会・定例研究会ひらく
シンポの内容「農民と消費者のための種子とは」をテーマに、「農の会」のシンポジウムが一月二十六日、都内で開催されました。遺伝子組み換えなどによって、種子が一部の巨大企業に支配されようとしているいま、「農の会」では、あらためてタネの役割を考え直してみよう、各地の風土条件に合ったタネを守り育てていこうと、このシンポジウムを企画。五十人を越える参加者で、このテーマへの関心の高さがうかがわれました。 「農の会」会長で東京農工大学名誉教授の柳下登さんは、「生き物にとってよい種(子孫)とは」をテーマに、生き物の一生と子孫を残す工夫を、動物を例に説明しました。たとえば水中生活者としては下等だった魚種が陸上に進出して両生類に進化したこと、恐竜のようには進化しきらなかった爬虫類から哺乳類や鳥類が生まれたことなどをあげ、一見“落ちこぼれ”の生物種が新しい生活環境に進出・適応して、今日のような多様な生物種のすむ地球になったことを紹介しました。そして「変異と遺伝をくりかえしながら、それぞれの生物がよい子孫(タネ)を残すのに精一杯の努力をしている。彼らの生活を謙虚に学ぶことがよいタネを残すことにつながっていく」と述べました。 長野県の石綿薫さんは、キャベツの品種改良の歴史をひもときながら、作物の多様化は農業の多様化であること、環境に適応しながら子孫を残そうとする作物の生物としての力を人間はうまく引き出すことで、それぞれの風土に合った、多様な農業を発展させてきたことを紹介ました。そして「作物品種(タネ)の進化が、農業と食文化とともにあるのが、タネ本来の姿。いまタネは買うものになっているが、自家採種、地場採種で農業の多様化の原動力をとりもどそう」と発言しました。 また「ストップ遺伝子組み換え汚染種子ネット」の山田勝巳さんは、トウモロコシの輸入種子から、人間が食べるとアレルギーを起こす遺伝子組み換えトウモロコシ「スターリンク」の遺伝子が検出されたことに関連させて、「日本で栽培されている種子の多くが遺伝子組み換え作物を作付けているアメリカから輸入されており、他家受粉によって自然界や非遺伝子組み換え作物にまで汚染が広がっている。農業・食料の根源である種子を私たちの手で守っていこう」と呼びかけました。 (財)自然農法国際研究開発センターで肥料・農薬に依存しないタネの育種・研究をしている中野聡さんは、自家採種(タネとり)の実際の方法をスライドを使って具体的に紹介。「作物の一生を見守る自家採種は、栽培技術全体を向上できるし、自分の畑に合ったタネにすることができる。F1種子でも花を咲かせて何世代か良いものを選んでいくことで、より作りやすいタネができる。まずは自家用から気軽にタネとりを」と呼びかけました。 討論では「私も昔はタネとりをした。タネとりは作物をよく観察するのが肝心だ。なにより自分で良い作型を選ぶタネとりは、ものづくりが楽しくなる」「自分でとったタネで作れば畑になじんでいるので病気にも害虫にも強く作りやすい」という生産者や、「自家採種の方法を紹介する本はないか」という生産者も。 また石綿さんはケールが結球した例を出して「タネはそれぞれの自然環境に適応して成長し、より優秀な子孫を残そうとしている。そういう時、遺伝子の中の眠った部分が目を覚まし、力を発揮する。ちょっと厳しいかと思うような環境で作物を育てると、生き抜くために作物自身が思いもよらぬ変化をみせる」と発言しました。 他にも「在来種はその地域の郷土食とも結びつきが深い。食文化の視点からも在来種を守っていこう」、「そうはいっても自家採種は農家にとって負担が大きい。地域ならではの個性豊かな農産物を育てていくためにも、地元の小さな種苗会社と協力して在来の種子を増やしてもらう運動も必要だ」などの意見が次々とあがりました。
6人から日頃の研究報告二十七日には、六人から研究報告がされました。「なぜ、いまヤロビか」と問題提起した柳下登さん。「ヤロビとはロシア語でヤロビザーチヤ(春化)という意味です。ヤロビは生物のごく若い(種子)段階で持ち前の成育条件と違った環境におくことで、生きる力を発揮させたり、鍛錬する内容を持つもので、薬を使わない丈夫な苗作りをする一つの方法」と「ヤロビ」の今日的意義を説明しました。 東京でトマト作り五十年の田中正直さんは、「トマトの多収穫について」と題して、二十数年の実験成果をグラフで示しました。 長野県の青木敬典さんのテーマは「農業機械のキャブレターの調整について」。青木さんはキャブレターの分解図で説明し、実用的な話を。 栃木県農民連の海老原恒夫さんは、「スーパースイートコーンのリレー出荷」について二年間の栽培過程を発表。最初の年はL、Mで、短稈のトウモロコシしかできず、収量も上がりませんでした。「種を冷蔵庫の中に入れて過酷な条件下におく『ヤロビ』も試したが、発芽は通常とあまり変わらなかった」と。それでも二年目は試行錯誤のかいがあって収量があがり、「さらに今年はいいものを作っていきたい」と意欲的に語っています。 塚平廣志さんは「遺伝子組み換えイネ」の現状を解説。組み換え稲が実用化寸前の切迫した状況にあると訴えました。モンサント社と愛知県農業試験場が共同開発した除草剤耐性イネ「祭り晴」を食用、加工原材料、飼料用として一般圃場での作付けを農水省が承認。「遺伝子組み換え食品いらないキャンペーン」が反対の署名運動を進めています。(別項) 長野県の高田実郎さんは「BSE(狂牛病)問題をめぐって現場で感じたこと、考えたこと」という内容で役場に勤め畜産農家と接する立場で発表しました。
農の会とは (新聞「農民」2002.2.11付)
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[2002年2月]
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