狂牛病問題と食の安全性全農技術主管(嘱託)小川政則さんに聞く〈下〉
イギリス発の牛海綿状脳症(BSE)、口蹄疫の欧州への蔓延は、消費者に根深い政府不信を植えつけるとともに、グローバル化した世界食料システムへの批判を高めました。世界貿易システムの維持に貢献しているIPC(国際農業・食糧・貿易政策協議会)は、貿易自由化を一層進める立場から「消費者の信頼を回復しないと、自由貿易体制は危うくなる」という提案をしています。
安全への不安高めた行政の怠慢フランスのマクドナルドの解体や、成長ホルモンなど自然に逆らう食品への農民の抵抗を綴った『地球は売り物じゃあない』(紀伊国屋書店)、同国の伝統的手法を守って天然塩を再興させた『ゲラルドの塩物語』(岩波新書)、イタリアの田舎町を発信地にハンバーガー文化に立ち向かう『スローフードな人生』(新潮社)などを読むと、食の安全性を求めて、グローバル化に反対するヨーロッパの消費者の運動がわかり、感動が伝わってきます。日本でも、BSEが家畜と人の共通伝染病であることから、消費者の牛肉に対する安全性への不安は、かつてないほどです。とくに政府がWHO(世界保健機関)の勧告を受けても万全の対策を行わずに怠慢行政で発生を許し、その後の行政の不始末も重なって、政府不信が強いのは当然です。
輸入依存で不安は解消しないところがマスコミの論調は「海外からの食品や飼料の輸入に伴うリスクの流入は、豊かな食生活を享受するうえで当然のこと」として、グローバル化の枠内での情報公開や検疫強化の提案にとどまっています。WTO閣僚会合についての報道も「今こそ前に踏み出せ」といった論調ばかりです。しかし現在の食の不安は、グローバル化による農産物の自由化、市場原理による効率や利潤の追求が原因です。輸入に依存したままでは食の不安が解消されないのは、一九六五年の輸入骨粉による五六頭もの炭疽病の発生、昨年の輸入ワラによる口蹄疫発生、そして今年の輸入肉骨粉によるBSE発生などの経緯でも明らかです。 畜産物価格の低下によって、畜産経営はますます厳しくなっています。九〇〜二〇〇〇年に、乳牛の飼養戸数は四七%減、頭数も二五%減です。肉牛の戸数も五〇%減、頭数は横ばいという状況です。 家畜排せつ物法が施行されて、来年から発生量などの記録が義務づけられ、二〇〇四年からは構造設備基準が適用されることになります。新たな投資が必要な畜産農家のなかには、廃業を予定する人もいます。 そのうえに今回のBSE発生による価格暴落や出荷制限が重なり、廃業に拍車がかかる心配があります。損害の全額補償や無利子融資など手厚い経営支援策を、防疫対策とあわせて政府に要求するのは当然です。
効率追求の歪みただす運動必要しかし、これらの対策だけでなく、食の安全を破壊してきた輸入依存・効率追求による生産の歪み、アグリビジネス支配への規制など、より根源的な対策を求める国民的運動を大きく発展させることが重要になっています。「身土不二」や「地産地消」の運動が、韓国で進んでいます。日本でも、内発的に、安全で持続可能な農業の実践が各地で展開されています。これらの運動を点から面に、個別から地域に発展させるために、農産物の価格保障制度や直接所得補償制度の確立が必要です。 また、埼玉・所沢のダイオキシン問題や、茨城・東海村の臨界事故に見るように、持続可能な農業の成立には、農業だけでなく他産業も含めた地域ぐるみのとりくみが必要です。地域環境が守られてこそ、「地域安全ブランド」になります。すでに大規模化している畜産経営でも、地域資源と調和した循環型に改めて、再興することも必要です。そのための条件整備も重要な課題になっています。 (おわり)
(新聞「農民」2001.11.26付)
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[2001年11月]
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