「農民」記事データベース20011119-517-08

狂牛病問題と食の安全性

全農技術主幹 小川政則さんに聞く〈上〉

関連/狂牛病問題と食の安全性(下)


 「狂牛病問題と食の安全性」について、全農の技術主管を務め、『環境保全と地域農業の振興』(筑波書房)などの著書がある小川政則さんに話を聞きました。

 肉骨粉が、牛海綿状脳症(BSE)の感染源であることは確実です。著名なジャーナリストであるリチャード・ローズ氏は、『死の病原体プリオン』という著書のなかで、「化成工場の経費節減で、肉骨粉の処理方法が簡略化されたため、病原体が不活性化されずに感染源となった」「イギリス・ポンドが下落し、大豆や魚粉が高騰したため、肉骨粉の使用割合は一%から一二%になった」と、その背景にふれています。

 食の安全性もつまるところ、経済の動きや市場への対応に左右されるのかと、妙に納得させられます。

 わが国の肉骨粉給餌が増えたのも、魚粉と比べて肉骨粉が安いためでした。乳業会社は十年くらい前、牛乳の取引基準を、乳脂肪率三・二%から三・五%にグレードアップさせ、あわせて高泌乳の追求が市場から要請されました。この頃から、放牧や自給飼料が減り、輸入乾草、肉骨粉などの栄養強化飼料が増え、牛の事故の多発や短命化が進みます。

 ほんらい酪農は、よい土、よい草、健康な牛を、経営内か地域の循環で育てる産業です。それがいつしかグローバル化して、濃厚飼料だけでなく、輸入ワラ、輸入骨粉に依存するようになり、さらに牛の体機構を無視して“共食い”までさせて牛を生き物として扱わなくなった罪が、BSEだという気がしてなりません。

 ちなみに現在、飼料の可消化養分自給率は二五%。輸入依存率は、ワラ二〇%、動物性飼料二五%、肥料用肉骨粉四九%になっています。

 牛を自分の経営の中に無理なく組み入れ、自然の摂理にかなった生産の仕組みが当たり前ですが、現実は基本に従えば経営が成り立たないのです。これは市場や政策がゆがんでいるからで、このしっぺ返しがBSEや口蹄疫であり、食の安全性への不信・ゆらぎではないでしょうか。

 いま安全性に疑問のある食品が増えています。O-157、遺伝子組み換え食品、環境ホルモン、硝酸塩、残留農薬や、食品・飼料に使われる添加剤など、狂牛病だけではありません。

 こうした食の輸入依存、効率性の追求を推し進め、食の不安を作り出してきたのは、グローバル化したアグリビジネスです。生産者と消費者を分断し、国内生産者を豊かにしない食べ方を普及しました。その結果は今、リストラ合理化の嵐となって消費者に返ってきていると思います。

 それとともに、日本農業はますます困難になり、耕作放棄地は、この五年間に三割も増え、農業従事者の深刻な高齢化をもたらしています。

 安全な食料を生産する持続可能な農業をどう構築するのか、そういう農業経営が成り立つような環境をどう作るのかが、いま問われています。

(新聞「農民」2001.11.19付)
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2001年11月

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