「農民」記事データベース20011022-513-03

破綻した路線さらに深化させる

米政策の改悪検討(1/2)

農水省 8割の稲作農家排除も

関連/米政策の改悪検討(2/2)


 農水省は「食糧法による“政策装置”の破綻が進行しつつある実情を自ら認め」(「商経アドバイス」九月十三日)、「新食糧法以来の大改革」(同省幹部)の検討を進めています。

 農水省は、破綻の具体的なあらわれとして(1)米価の大幅下落と稲作所得の激減、(2)大商社・スーパーによる価格支配、(3)減反政策の限界などをあげています。

 破綻の原因は、第一に、新食糧法で大企業の米流通支配を“解禁”し、さらに自主流通米入札の値幅制限を撤廃して、米の買いたたきを野放しにしてきたこと、第二に、ミニマム・アクセス米輸入を“聖域”にしたまま、百万ヘクタールの大台を突破するほどの減反拡大を押しつけてきたことにあります。

 農水省は「我が国の農業・農村の維持存続自体に影響を与えかねない事態に至っている」と嘆いてみせますが、その原因が自分たちの政策にあったことについては一言の反省もありません。

 それどころか、破綻した路線をさらに深化させる――これが農水省の「米政策の総合的・抜本的見直し」(検討素案)の特徴です。

 ねらいは財政削減と自由化

 どう深化させるのか――。結論を先にいえば、この抜本改革は(1)手始めに米生産の六四%、稲作農家戸数の八二%を占める兼業農家(副業的農家や準主業農家)を稲作から排除し、(2)「この対策を実行しても米価は上がらない」とウソぶいて主業農家自体の経営を成り立たなくさせるとともに、“減産すればするほど金を出す”システムにして米自給体制を突き崩し、(3)単位農協や米卸・小売の経営も成り立たなくさせて巨大企業の米流通支配を貫徹させるものです。

 米に対する財政支出の徹底的な削減と、米輸入の完全自由化に備えた体制作り――これこそが「抜本改革」のねらいです。

 一ヘクタール稲作はガーデニング?

 具体的な中身については農水省は「検討中」と逃げの一手ですが、「検討素案」の抽象的な表現から“衣の下の鎧(よろい)”が透けて見えます。

 第一の問題は、食管制度廃止・値幅制限撤廃後、唯一の米価下支え制度になっている稲作経営安定対策から、「主業農家」(稲作農家のわずか一八%)以外の農家を排除することです。

 「検討素案」は「稲作経営安定対策を……真に稲作所得に依存し、米価低落の影響を受けている(主業)農家の経営安定に資するよう、より有効に活用する」と述べています。

 「副業農家を排除するのか」という私たちの質問に対し、農水省は「まだ決めたわけではない」と言葉をにごしていますが、武部農相は小泉改革「大本営」というべき「経済財政諮問会議」で、次のようにアケスケに言い放っています。

 「米は一ヘクタール未満が八割。これは健康生きがい型の農業、ガーデニングに近い……。稲作経営安定対策として副業農家に(出している)四百億円(を)別のものに使うと抵抗があるが、断行しなければならない」(八月三十日)

 「もの作り」の対極、減産奨励

 第二の問題は、減反政策を再編し、兼業農家排除の手段にするとともに、“強要すれども、金出さず”という方向をいっそう強めることです。そのため“減反をやらなければ米価は八千円に下がる”と脅迫する念の入れようです。

 *減反配分は面積ではなく数量で
 減反の面積目標を達成しても、作況が良ければ減反効果はないため、数量配分に切り換えるとしています。豊作になったら、農家は政府の助成や農協の指導なしに「主体的に」(!)計画数量オーバー分を青刈りしろというわけです。

 しかも「基準数量からの減産量に応じて助成する仕組み」に変える――要するに減産・生産放棄すればするほど金を出すというのですから、「ものを作ってこそ農民」の対極にある“モラルハザード”(道徳破壊)ではありませんか!

 *兼業農家排除・転作奨励金削減を一体で
 また「とも補償」を廃止するとともに、「水田農業再編計画」(三〜五年計画)を全集落に立てさせ、一集落当たり七十五万円を交付する新事業が「抜本対策」の“目玉”です。

 しかし、これは(1)主業農家への生産の集約、つまり兼業農家の排除が計画の主な内容であり、計画を達成しない場合「違約金」が取られる、(2)一集落平均の水田面積は二十二ヘクタール、七十五万円の「つかみ金」は十アール当たりでは三千四百円程度、(3)しかも三〜五年で打ち切りの「手切金」にならない保証はない――などなど、“目玉”どころか“毒エサ”に等しいものです。

 大企業の米流通支配を促進

 第三に農水省は、大企業による価格・流通支配や米のインチキ表示を問題にしながら、“どうせ規制をかけても効かないのなら、規制を抜本的に緩和すべき”というアベコベの結論を出しています。

 とくに問題なのは、中小卸が大手「小売」の値引き強要などで苦境にあえいでいることを百も承知のうえで、「卸・小売の役割分担を見直し、垣根を取り払う」と称して、大手スーパーや商社の支配をますます促進しようとしていること。

 また米集荷業者についても、経済連・全農の合併が進むなかで「第一種」(単位農協)と「第二種」(経済連)の垣根を取り払うことを検討しています。

 これは、流通規制を完全になくすることに等しく、中小卸・小売、単位農協の事業に対する重大な打撃になることは必至です。

 外米「聖域」にし国産米備蓄半分に

 最後に、米輸入の問題です。「検討素案」は減反拡大と価格暴落の根源であるミニマム・アクセス米輸入には一言も触れず、「聖域」扱いです。

 さらに食糧庁の備蓄運営研究会は「中間とりまとめ」(八月三十日)で、国産米の備蓄を従来の最大二百万トンから百万トンに半減させることを提案し、備蓄水準を設定する際に考慮すべき事項として「輸入米の存在」をあげています。

 これは「ミニマム・アクセス米を非常時における備蓄手段として位置づけ」、「主食用需給から隔離扱いされてきたミニマム・アクセス米の見直し」を意味するものです(「米穀新聞」九月六日)。

 つまり、国産米の備蓄を半分に減らし、不作によって非常事態になれば、外米を食わせればいい――というわけです。

 WTO農業交渉に対する日本提案は、ミニマム・アクセスの「見直し」を提案していますが、まったく及び腰です。各地の説明会では農協幹部から「まずミニマム・アクセスの廃止を」という声が相次いでいますが、ミニマム・アクセス米輸入をやめさせることを大前提にした二十一世紀の米政策を検討することを強く要求しましょう。

 米を守る政策要求しよう

 農水省は、米政策について国民の意見を募集しています。おおいに意見を提出し、こういうバカげた政策の立案を断念させ、国民の主食・米を守る政策の確立を要求しましょう。

 連絡先

○郵送の場合
 〒一〇〇-八九五一
 東京都千代田区霞が関一-二-一
 食糧庁計画課「米政策」パブリックコメント係
○電子メールの場合
 comme-syokuryo@syokuryo.maff.go.jp
○ファクシミリの場合
 〇三-三五〇八-二四六七

 *主業農家農業所得が主で、六十五歳未満の農業従事六十日以上の者がいる農家(稲作面積四・二ヘクタール)。
 *準主業農家農外所得が主で、六十五歳未満の農業従事六十日以上の者がいる農家(稲作面積一・七ヘクタール)。
 *副業的農家六十五歳未満の農業従事六十日以上の者がいない農家(稲作面積〇・七ヘクタール)。

(新聞「農民」2001.10.22付)
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