農業不況と自殺(下)秋田県十文字町・前町長、医師 西成 辰雄
秋田県の自殺統計をみると四十代、五十代の働き盛りの男性が多い。秋田大学(法医学)の八五年〜九五年の統計で四十〜六十四歳の自殺は、借金苦が二三%を占めている。また、冬が終わりようやく気候の良くなる三月から五月の春季が多いという。 秋田県は、稲作依存度が六四%と高く、複合経営への努力が重ねられているが、低米価や減反の影響をまともに受ける可能性が高い。 最近、私が県北地方の山村で聞いたところでは、父は繁殖牛を経営し、牛舎の改築も行ったが、採算は難しく、また本人は認定農家として稲作の規模拡大を行い、大型機械を導入し、負債の返済が困難となり、見通しの立たないまま自殺に至ったという。四十六歳であった。合併農協では事務的な返済督促も目立つともいう。 また、県内の日本海岸に近いある農山村では、肥育牛を経営する五十歳代の男性は、負債の返済が滞納し、ついに自殺に追い込まれたと言う。飼料代の高騰の中で仔牛の単価が安く、一時は制度の利用もあり、五十頭の大型肥育に取り組んだ。その後、家族で四、五頭の飼育に切り換えたが、数年に及ぶ負債の滞納は多額となり、当然農協の督促も険しかった。この人はそれ以外に解決の方策はなかったのだろうか。 負債の連帯保証人にこのような立場に追われる人もあるという。農協合併後は広域になり、職員も事務的な対応に終始する人が多いという。地域の議員の方の話では、町には三百二十人もの戦死者がおり、年金生活を余儀なくされているが、農業経営は苦労の連続であったようだ。 稲作、果樹農家も多いが、果たして展望を持った経営が出来たであろうか。親身で打ち明け、話し合う隣人、仲間も必要であるが、基本的には農業不況のもと、農産物価格保障、とくに家族農業を尊重する農政が必要だ。それらに向けた運動が、対策として求められていることは言うまでもない。 経済のグローバル化、競争時代の中で最も歪みを受けたのは誰だろうか。この不況の中で、共同による農業への意気込みこそ求められているように思える。
(新聞「農民」2001.10.1付)
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[2001年10月]
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