農業不況と自殺(上)秋田県十文字町・前町長、医師 西成 辰雄
自殺が増加している。年間自殺者は昨年、全国で三万九千人余、その六割は中高年であるという。そして負債や失業など経済、生活問題による場合が増加の傾向にあると報道されている。 秋田県でも昨年の自殺者は四百六十四人(男性は女性の二・四倍)、今年に入ってからも上半期で経済、生活問題が原因による自殺者は六十六人で昨年より十六人多いという。 私はかねて自殺は農村に多いと実感してきた。秋田県は全国平均より高い自殺の状態が続いてきたが、自殺率(人口一〇万対)では三七・五で全国の二五・七に比して約一・五倍となっている(九九年)。 秋田県の自殺は昭和三十五年頃まで全国より低かったが、その後逆転した。経済地帯別にみると、中山間地(山村そして農山村)が最も高く、都市近郊の二倍はある。これらは当時からの農業の再編成、農業政策の中での苦境が大きい原因と考えられた。昭和初期にも秋田県では全国よりやや高い数値を示した時期があるが、当時の不況が反映していたとみられる。 新聞報道や身近に知る中で自殺に追いやられる人で農業の状況との関わりも少なくない。例えば十年程前、県南地方で強まる減反、米価の引き下げを歎いていた中年の人は自殺の直前までその事を話していた。妻子と両親、そして農機具代などの借金が残されていた。当時(一九八七年頃)の記録をみると、減反は前年より七%増(二〇・一%)、県中央会調べの農家の固定化負債は一戸五百二十八万円であった。 私が身近に相談を受けた人は、出稼ぎの墜道工事で珪肺になったが、疾病を悲観して自殺している。この人は当時、結局労災にはならず残念なことであった。 最近(九九年)、秋田県の統計でも四十〜六十四歳の自殺者が五〇・四%で、六十五歳以上の高齢者二七・四%の倍に近い。また、男性は女性の二・九倍となっている。最近強まる農業不況の中で壮年の自殺者の話を聞くことも少なくない。(つづく)
(新聞「農民」2001.9.24付)
|
[2001年9月]
農民運動全国連合会(略称:農民連)
本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224
Copyright(c)1998-2001, 農民運動全国連合会