「農民」記事データベース20010528-494-06

食健連シンポ「いまこそセーフガードの発動を!」

パネリスト5氏の報告

関連/セーフガードの本格発動と国産を広げる運動を両輪に

 「日本の食と農林漁業を守るために、今こそセーフガードを!」――国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会(全国食健連)は、五月十二日、東京・文京区の全林野ホールでシンポジウムを開催。消費者、労働者、農民など百五十人が参加しました。

 ネギ、生シイタケ、畳表(イ草)に暫定発動されたセーフガード。これを本格発動に結びつけよう、三品目以外にも発動させようと、開かれたもの。パネリストは、漁業者、林業関係者、消費者、自治体職員、農民の代表と多彩な顔ぶれ。会場からも「東京・中央区議会に出席してセーフガードの発動を求める決議をあげるよう訴えた。安全な食と日本の農業を守るためにできる限りのことをやりたい」(新婦人中央支部の若いお母さん)などの発言があり、活発な討論になりました。パネリストの発言(大要)を紹介します。


調査もとにセーフガード要求

埼玉県大里農林振興センター所長 林 繁雄さん

 埼玉県は昨年十一月、「輸入野菜に係る流通実態調査」を行い、農水省などにセーフガードの発動を要請してきました。

 調査に入る当時は、果たして発動にたどり着けるのか疑心暗鬼でした。現場からは発動要請が相次いでいましたが、国は“セーフガードはまだ機が熟していない”という態度でした。

 調査は、輸入と価格低迷の因果関係をつかむのに苦労しました。ネギ、キュウリなど十品目に対して、外食産業、量販店、加工業者まで広げて、輸入と本県産の出荷時期、価格、品質などを総合的に検討しました。

 ネギの輸入量は四万二千トンで、本県の出荷量とほぼ同じ量です。それによって日本一のネギの産地、深谷市の販売額は四割も減少。報告を受けた知事はすぐに電話で農水大臣に発動を要請しました。農民連、食健連からも要請を受けました。行政としても農家と一緒になって農業の発展に努力していきたいと思います。


木材の価格補償制度を

元・新潟県農林公社理事 関 裕吉さん

 日本の国土環境は健全な森林があって維持され、その森林は伐採されることによって健全性が維持されます。かつて木炭生産のために使われてきた雑木林は、それがなくなった結果、生態系が変わってしまい、夏鳥が減っているというようなことが起きています。

 人工林も、採算が合わないために手入れがされず、ひどい状況です。新潟県の林業収支を見ると、補助金がなければほとんど利益が出ないか赤字。林家の経営意欲は目を覆いたくなるほど失われています。

 高度経済成長期の木材需要のなかで始まった木材輸入は急激に増え、外材価格は八〇年が最高で、その後はずっと下がり続けています。とくにプラザ合意後の円高によって、ドル建てでは上がっても、円建てでは下がっています。

 地場産の木で家を建てようという消費者の運動もありますが、今の木材価格では林家は木を切らないでしょう。セーフガードはもちろんですが、木材自給率の目標を設定し、価格補償制度を創設するしか、日本の林業を再生する道はないと考えています。


水産業も輸入が増大

愛知海区漁業調整委員 坂口久巳さん

 政府にも、漁業団体にも輸入を制限して漁民を守ろうという発想がないまま、ついにここまできたというのが、今の水産業の状況です。まずは、秩序ある輸入にすること、豊かな漁場の環境を取り戻すことが不可欠で、一次産業を国の基幹産業にしっかり位置づけてほしいと考えています。

 愛知県は伊勢湾、三河湾があり、アサリ、うなぎは全国一の生産量です。かつて一〇〇%だったアサリの自給率は四〇%に下落。問屋は「実際は二〇%もない。輸入ものを一カ月育てて、『国内産』として出荷されるアサリが増えている」と言います。漁獲量が減っているにも関わらず価格は下がっています。

 うなぎの輸入も、ものすごい勢いで増えています。最初は台湾でしたが、中国が追い越して、九九年の自給率は一八%。一キロ千円に暴落し、養鰻業者は「このままでは続けられない」と悲鳴をあげています。

 水産物の全体の自給率もどんどん下がり五七%。日本は、世界の水産物貿易額の三割を占める輸入大国です。市民のみなさんに海や漁業の実態をもっと知ってもらい、一緒に漁業を守っていきたいと感じています。


暫定にとどめず他品目も

農民連事務局次長 真嶋良孝さん

 アメリカと財界のセーフガードに対する反撃が始まっています。アメリカは自分が発動したセーフガードは棚に上げ「日本のセーフガードは間違いで危険」と言い、マスコミは、弱肉強食の論理をむき出しにして「競争力のない産業・農業は潰れても仕方がない」という議論をもっともらしくやっています。

 また消費者団体の一部からは「セーフガードで価格が上がるのは消費者にとって不利益」という声が聞かれます。しかし食健連が作ったビデオ「あぶない!!あなたの食と健康」に、収穫間際のホウレン草に農薬を散布している中国山東省の輸出拠点の映像がありますが、「命と財布」を天秤にかけるのは不毛な選択ではないでしょうか。

 問題は、日本の商社や大企業が出かけていって、中国では食べないものを作らせて、大地と農民を収奪する開発輸入です。

 三品目のほかにも、タマネギ、ゴボウなどセーフガードを発動してほしい野菜は山ほどあります。どんどん輸入制限の発動を要求しましょう。同時に、事態を根本的に打開するうえで、WTO協定の抜本的な改定がどうしても必要です。ともにがんばりましょう。


“食べ方は生き方”

栄養改善普及会会長 近藤とし子さん

 政府は「食生活指針」を普及する国民運動を進めています。この運動が始まる前に、消費者団体が呼ばれて説明を受けました。そこで「国民がやるから国民運動。この運動の主体は誰ですか?」と聞くと、「農水省が主体」という答えが返ってきたので、この運動に参加しませんでした。

 「指針」の一番目は「食事を楽しみましょう」です。本来楽しいはずの食事が、なぜ楽しくないのでしょう。子どもの四人に一人は、一人で夕食を食べています。サービス残業などで親たちの帰りが遅いからです。食事の絵を描かせると、コンビニの弁当などで、体のことが心配になります。

 また「一日の食事のリズムから、健やかな生活リズムを」とありますが、これでは、健やかな生活を送れないのは食事が悪いからだと、国民が悪者にされてしまいます。“食べ方は生き方”。農業国だった日本が加工貿易国になり、一汁三菜の素食が“国籍不明食”に変わり、“国籍不明病”が流行するようになりました。

 最近、派手な横文字の料理講習会よりも、味噌を作りたい、豆腐を作りたいという声が聞かれるようになりました。二十一世紀は、農的な生活、人間らしい生活を送れる日本に作り変えたいと思っています。

(新聞「農民」2001.5.28付)
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2001年5月

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