「農民」記事データベース20010423-490-03

異議あり 暫定セーフガード発動でうごめく

マスコミの“農業たたき”

関連/抜本的な解決の道は…


 「消費者利益損なう懸念」「大手スーパーが割高な国内産品の調達拡大を検討」――暫定セーフガード発動でマスコミの“日本農業たたき”がうごめき出した。「輸入野菜は家計の強い味方」と尻馬に乗る消費者団体代表もいる。

 しかし、大事なことがいくつも見落とされている。

 生産者価格27円のキャベツが126円

 第一、えらく気楽に「割高な国内産品」というが、「割高」の原因には、まったく無頓着だ。

 農水省の調査(昨年七月)によると、農家が一個二十七円で売ったキャベツがスーパーでは百二十六円。同じくトマト百四十四円が五百五十九円……。農民連の昨年六月の調査では一袋二円のエノキが百円で売られていた。

 暫定発動の翌日のテレビを見て「悔しい!」と電話をかけてきたシイタケ農家がいるが、こういうところにメスを入れないで、農民に対してだけ「割高だ」と非難するのは、不当きわまりない。

 年収三万円の中国農民と「競争」?

 第二、暫定セーフガードの発動対象は、事実上中国産品ばかりで、アメリカからの輸入野菜は巧妙に避けられた。中国の野菜は、日本の百分の二〜十ぐらいで確かに安い。この価格差はどこから来るのか。

 中国の農家一戸当たりの平均経営面積は〇・六七ヘクタール、日本は一・五ヘクタール。一方、中国の農民の年収は兼業収入を入れても三万九百七十七円。月収ではない。普通は規模が大きいほどコストが低いはずだが、中国と日本は逆。価格差の源泉は、もっぱら中国の農民の「労賃」の低さによる。

 中国に日本産の種子と農薬・肥料を持って行き、技術者を連れて「開発輸入」に血道をあげている日本の大企業のねらいも、ズバリこの低賃金だ。中国経済や農民の生活を発展・向上させることなど眼中にない。

 もともと日本の大商社は低賃金を追って、韓国→台湾→タイ→フィリピン→中国・ベトナムと“渡り鳥”をやり、産地と農民を“使い捨て”てきた。経済が発展し、中国の人々の生活が向上したら、今度は「宇宙人」を使って「開発輸入」をやるのだろうか。

 「構造調整」「国際競争」というが、日本の農民の年収を「三万円」にしろとでもいうのだろうか。

 “家計か安全か”は不毛の選択

 第三、なぜか「安全」や「栄養価」「おいしさ」が無視されている。農民連食品分析センターの分析では中国産ゴボウや冷凍ホウレン草から、基準値の三倍を超える残留農薬がゾロゾロ検出されている。

 ビデオ「あぶない! あなたの食と健康」にあるように、収穫直前のホウレン草畑で農薬をばらまいているのだから、当然といえば、当然だ。

 “リストラ不況”“消費不況”で、消費者(もちろん農民を含め)の家計は厳しい。しかし“フトコロ”の苦しさを、命と健康を犠牲にしてカバーしろというのは、不毛の選択だ。消費者運動も日本の世論も、両立を追い求めてきたはずだ。

 「国内価格は多少上昇するかもしれないが、国内生産の維持につながり、消費者として基本的に歓迎する……政府には、セーフガード発動までにかかる期間の短縮や、国内で安全な野菜の生産を増やし自給率を高める政策を求めたい」(日本消費者連盟)

 私たちが依拠できる運動は健在である。

 アメリカの新聞は30円 日本の新聞は130円

 最後に蛇足。無神経かつ単純に「国産農産物は高い」と書く「国産の新聞」の値段は「安い」のか?

 昨年三月にワシントンを訪れて驚いたことの一つは新聞の値段だった。アメリカの“高級紙”「ワシントン・ポスト」(ウイークディ版)は一部二十五セント(三十円)。ためしにページ数を数えてみたが、三月二十二日付は百八ページ。一方、朝刊四十ページの「朝日」は百三十円、「日経」は百四十円。ページ数を無視しても四倍強である。

 日本の農民に対し、年収三万円の中国の農民と「競争しろ」というなら、せめてアメリカの新聞と競争してみたらどうだろうか。

(M)

(新聞「農民」2001.4.23付)
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2001年4月

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