セーフガード暫定発動は決まったが抜本的な解決の道は…
政府は四月十日、長ネギ、生シイタケ、畳表(イ草)の暫定セーフガード発動を決定しました。政府が史上初めてセーフガードを発動したことは、農民はもとより広範な国民の運動と世論の大きな成果です。 同時に、暫定セーフガードの発動だけでは、輸入急増と価格暴落の根本的な打開は不可能です。三品目の本格発動と、これ以外の野菜や果実にもセーフガードを発動することがどうしても必要です。 また、この歴史的な成果をWTO協定の抜本的な改定を求める運動の確かな一歩にすることが大切です。
日本の大商社と中国に「配慮」しすぎて暫定セーフガードの発動期間は四月二十三日から十一月八日までの二百日以内。輸入数量を制限することはできず、取りうる手段は関税を引き上げることだけ。今度、政府が決めたのは一定数量までは現行の低関税率で従来通り輸入を認め、一定数量を超えた場合に国内卸売価格と輸入価格との差額を関税として徴収する「関税割当」方式。国産と輸入ものの価格を同じにすれば、輸入が止まるだろうというわけです。 焦点になったのは「一定数量」をどう決めるかでしたが、「なるべく輸入を減らしたくない」(財務省)という思惑から、九七〜九九年の三年間の平均輸入量までは低税率で輸入するという決着に。 しかし、一番「配慮」すべき日本の農民よりも、農産物の開発輸入にうつつを抜かす日本の大商社や「国策」として野菜などの輸出攻勢をかける中国に対する「配慮」を最優先したため、せっかく発動しても事態の打開には役立たない可能性大です。
「野菜暴騰」どころか価格回復効果は薄いマスコミは、暫定セーフガードを発動すれば、野菜価格が暴騰するかのような宣伝をしていますが、実際はネギで五千三百八十三トンも、シイタケで八千三トンまでは、これまでとまったく変わらない低関税が適用されます(二〇〇〇年の輸入実績で見ると、シイタケで九月一杯、ネギで六月一杯)。それでも暴騰するとすれば、それは大企業の便乗値上げ以外のなにものでもありません。しかも五〜八月はシイタケやネギの「需要が一服する時期。大きな打撃はない」というのが大手スーパーの見方。セーフガード発動の影響が最も小さい時期に暫定発動し、参院選挙がすんだら打ち止めにする――これが政府・自民党のねらいと見るのは、決してうがちすぎではありません。 いずれにせよ、低関税のままでは国産のネギ・シイタケ、畳表の価格が回復する可能性は極めて小さいといわなければなりません。
本格発動と他品目への拡大こそさらに、輸入量が割当を超えた場合にはどうなるか――。農水省は「関税割当量を超える輸入はあまり想像できない」(田原官房長)と極楽トンボのようなことを言っていますが、大商社は中国産野菜を買いたたいて「高関税」を乗り切る意図を広言しています。「中国側に輸入価格の一層の引き下げを要請し、コスト(関税)負担を回避する」というわけです(「日経」四月十日夕刊)。現在でもネギ一キロ七円、白菜一キロ三円という中国産野菜をさらに引き下げる公算についても「中国では対日本向けの増産体制を敷いているうえ、すでに秋口に向けた作付も始まっており価格交渉は有利に運べる」(同紙)。要するに「開発輸入」を進めてきた強みを発揮し、中国側の足元を見て価格破壊をさらに進め、日本の野菜農家に打撃を与えることを何とも思わない――これが日本の商社や大企業のやり方です。 こういうやり方に対して実効ある輸入規制を実施するためにも、セーフガードの本格発動と、他品目への拡大が求められます。
他の野菜でもトマト農家 群馬・木村君江韓国からのトマトがドッと入ってきたため、一箱(四キロ)の平均単価が二百十八円も下がりました。私の家では一万箱以上を出荷しており、売り上げが二百万円以上減ってしまいました。ところが、ハウスに使う重油は三割も上がるなど、経費が増えているのです。このままだったら採算がとれません。トマトなどの野菜にもただちにセーフガードを発動してほしいという切実な要求をもって、三月二十二日には上京し、農水省に要請しました。三品目を正式に発動させ、さらにその他の品目にも広げ、急増する輸入をやめさせなければなりません。
発動時期遅いネギ農家 埼玉・南 三郎高く売れた時もあったが、三年前と比べ半分以上もの大減収だ。マスコミは安くなるから輸入も必要だという論調を流しているが、どんな農薬が使われているかわからない。中国のネギ産地を視察した人は、どんな農薬を使っているのか、その現場は見せてもらえなかったと言っている。 サラリーマンの方々が、厳しい生活の中で、少しでも安いものを求める気持ちはわかる。私たち日本の農家は、残効性のない農薬を使って、消費者にも安心して食べてもらえるように作っている。 ネギの暫定セーフガードが発動されたが、五月半ば頃にはネギの出荷が終わってしまう。六月〜七月に出る早生ネギを作っている農家は少ない。二百日間というのは短い。しかも発動の時期が遅れている。正式なセーフガードの発動が必要だ。ほかの野菜にもセーフガードを発動するようにすべきだ。
私には効果ないシイタケ農家 福島・佐藤 佐市シイタケは以前、原木でしたが、将来に不安をいだき三年ほど前から菌床栽培に切り換えました。五〜六年前には一パック百二十円から百三十円していましたが、今では六十円〜七十円に下がっています。 三千〜五千パックを栽培していましたが、値段も下がり二千〜三千パックにしました。冬中の仕事だと取り組んだものの、手間賃にもならず、現実は遊んでいるような状態です。 今回のシイタケの暫定セーフガードが発動されても、私にはなんの効果もありません。 激増する輸入野菜へのセーフガードの発動をしなければ、野菜作り農家はやめてしまいます。
正式発動はやくイ草農家 熊本・本田繁幸親の代からすると、四十年以上も栽培し、私自身は二十年になる。十一月から十二月にかけてイ草を植え、六月から七月にかけて収穫する。品質は良くなっているのに、輸入のために価格が下がり、五〜六年前には千四百万円ほどの収入であったが、今では千万円と三割以上の減収だ。イ草の農機具は高く、そのうえ畳表にする糸代などを含めると、その経費が毎年八百万円ほどかかる。このままでは、とてもやっていけない。 畳表(イ草)の暫定セーフガードが発動されるが、二百日間という期間は短すぎる。正式な発動をしてほしい。そうしなければ打開はできない。
(新聞「農民」2001.4.23付)
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[2001年4月]
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