「ふろふきダイコン」から「ホウレンソウのおひたし」まで…台所を占領する輸入冷凍食品鶏肉入り和風野菜(筑前煮)、ふろふき大根、大根おろし、白髪ネギ…などなど「エッ、こんな物まで!」というものから、コロッケや唐揚げのような「お馴染み」のものまで、いまありとあらゆる食べ物が「冷凍食品」として日本に流れ込んでいます。おかげで国内の農産物価格はガタ落ち、日本の農家は悲鳴を上げています。一方で食べ物の安全は危機にさらされ、「国産の農産物が食べたい」という国民の声はますます遠のくばかりです。ところが食品メーカーの鼻息は、まだまだ荒く、「次の獲物は米だ!」「夕食だ!」「おやつだ!」冷凍のフライ物に冷凍のグラタン、冷凍ホウレンソウのお浸しにレンジでチンしたパックご飯…将来、こんな食べ物しかなくなってしまったら、私たちの食生活はどうなってしまうのでしょう?
「手軽に調理」売り物にモーレツ開発輸入“20年後には家庭から炊飯器なくなる―”豪語する業界中国山東省。冷凍業界第二位の(株)加ト吉は、ここに「中国フローズン・フーズ・タウン」という冷凍食品の一大生産工場を展開しています。工場数は六、従業員総数六千二百人、年間生産量五万トン。千人が働く冷凍野菜専用の工場もあります。他にも焼き鳥、寿司ネタ、水産フライの工場…港には巨大な冷凍庫や、日商岩井と共同で設立した貿易会社もあるという念の入れようです。「海外生産の強化と米飯市場への進出は全社の夢とロマン」という加ト吉。本社広報課によると、さらに広東省や浙江省にも進出する予定だそうです。
アジア進出ねらってひしめく冷凍業界第一位のニチレイのインターネットのホームページをのぞくと、「食材産地巡り、海外編」と名付けた世界地図が登場。アメリカ、中国、タイ、ブラジルと世界中から鶏肉を仕入れているのをはじめ、オーストラリア産豚肉、アメリカ産牛肉と華々しく宣伝しています。さっそく取材を申し込んでみましたが、「食材調達はわが社にとっても“核心的な部分”ですし、“微妙な問題”も含んでいてお答えできません」と取材拒否されてしまいました。しかし食品メーカーの開発輸入は、二社ばかりではありません(地図参照)。特に多い進出先が中国とタイです。中国では日本の百分の三という低賃金で原材料の野菜を栽培し、工場でも人海戦術で加工。保存のきく冷凍食品となって、日本の食品メーカーや商社によってどんと輸入されてきます(グラフ右)。低賃金を追って、安上がりに作るという開発輸入の目的はただ一つ。企業の利潤追求のためです。
家庭用を新たな標的にしてウナギのぼりに成長してきた冷凍食品ですが、最近伸びが鈍化しています。市場の七割をしめる業務用が減ったためです。品質面では国産に劣る輸入ものは、コロッケ一個十四円、オムレツ十八円などの激安価格で業務用に仕向けられていました。ところが長引く不況で業務用が後退。かわって家庭用が新たなターゲットにされています。海外工場に若い労働者が集まってくるようになったこと、作業水準が上がったことなどから、輸入製品の品質もメキメキと向上。高品質を求められる家庭用も開発輸入で増産できます、というわけです。 冷凍野菜の輸入も激増しています。冷凍野菜と組み合わせれば“本格的な夕食が整う”という調理用のソースなども売り出され、企業はあの手この手で商品を買わせる策を練っています。
五年間で急増した冷凍米飯しかしここ数年でもっとも急成長しているのは、主食である米飯や、冷凍麺、軽食(お好み焼きなど)の分野です。冷凍ピラフや炊き込みご飯、焼きおにぎりなどの冷凍米飯は、九三年から九八年までの五年間で二〇%、レトルトや無菌パックなどの加工米飯全体では三〇%も増加しています。無菌パック米飯の技術を開発し、この分野で急成長している加ト吉の広報課は、「私たちは五年ほど前から“あと二十年もすれば家庭から炊飯器がなくなる”といってきました。これからは米を制するものが食品業界を制するのです」と言います。 しかし、おかずも冷凍、味付けもできあい、はては主食のご飯まで、食卓のすべてを企業がつくり、素材はすべて輸入食材。「本当の豊かさ」ってなんだろう? これが本当に豊かな食生活だろうか?冷凍食品を通して、今あらためて問いなおす時ではないでしょうか。
(新聞「農民」2000.12.25付)
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