「農民」記事データベース20000828-461-05

私の日本改革論「二十一世紀は農林水産業の時代」―下―

松川康夫

関連/私の日本改革論「二十一世紀は農林水産業の時代」―上―


工業中心から農業中心への転換

 この「異常な物質収支」を生み出したものは、自己増殖のために他のすべてを犠牲にして省みない我が国のむき出しの資本主義である。これを改めなくてはならない。

 工業が農林水産業を犠牲にして肥大している。農林水産業を保護し食糧・飼料・木材の国内生産を最大限に上げて輸入を減らせば、その分の工業製品の輸出を減らすことができ、その生産と輸送のために必要な物質の輸入を減らすことができる。物質収支改善のためには一石二鳥である。

 また、最近では工業製品の輸出による貿易黒字が年間十兆円以上にも及ぶ。これも工業の余分な肥大で、他国の工業の発展と雇用を侵している。発展途上国から労働者が押し寄せるのも当然である。この不要な輸出を止めればその分の生産と輸送に必要な物資の輸入を減らすことができる。

 さらに、公共事業も大半は血税に寄生した余分な工業の肥大のためで、これを見直せば砂利採取・採石と残土を減らすためだけでなく、建設や資材輸送に必要な物資の輸入も減らすことができる。

 それだけでなく、最近では国内の生産と物流と消費が異常に資源浪費型となり、その分だけ余分に工業が肥大している。露地農業から施設農業への転換、農産物の特産化と全国配送、スーパー・コンビニ・自販機の全国進出と商品の全国配送、これに付随した過剰包装や各種容器の蔓延、耐久消費財の使用年数の減少、廃棄物の輸送・処理・処分、過密都市における冷暖房・昇降機、モータリゼーションなどを見直さなければならない。

「地域自立型社会」への移行

 結局、最終的な転換の方向は「現状の対局にあるもの」、つまり「環境保全型農林水産業と地場産業・地場流通を基本とした適当に分散的で自給的な地域自立型社会」とならざるをえない。この「地域自立型社会」のイメージは「一九六〇年代まで全国各地にあった伝統的村落共同体を民主主義と科学技術で裏打ちした新しい地域共同体」である。基本的な生活物資の生産は地域に根ざし、自給的で、循環型である。ただし、情報や人の往来は開かれている。量産と広域流通が避けられない物資の生産も残るが、耐用年数の延長やリサイクルによって物流はずっと減り、今とは大いに様相が異なるだろう。

 転換のためには、巨額の公共事業費と大企業の内部留保を農林水産業の保護と振興に回せばよい。この転換によって人口を地方に戻すことが可能になり、「地域自立型社会」への関門が開かれる。また、自由貿易至上主義の転換によって産業全般がいたずらに国際競争力にこだわる必要がなくなり、生産性至上主義を緩和できる。その結果、環境保全型農林水産業への転換が可能になる。新しい技術と農林水産業就業者の増加は環境保全型農林水産業における労働の苛酷さを緩和できる。工業においても競争の呪縛が弱まり、企業は労働条件の向上、省資源、廃棄物処理・処分などの面で社会的責任を果たすことが可能になる。これらは相乗して農林水産業と地場産業の再生を促す。こうして「地域自立型社会」が各地に形成されるだろう。

おわりに

 いうならば、「地域自立型社会」建設の事業は、わが国の気候風土に根ざした伝統文化の良きものに近代文化の良き物を結びつけて、人間と自然を大切にする新しい文化を創造することであり、人間社会における螺旋的発展の新しい段階を切り開くことに他ならない。また、この事業は、地球上の人口増に伴う食糧・資源問題と炭酸ガス増加に伴う地球温暖化を回避するために、二〇五〇年までに達成しなければならない全人類的課題でもある。まさに二十一世紀にふさわしい挑戦というべきではないか。農民連はこの挑戦を担う重要な団体だと思う。
(農林水産省中央水産研究所)

(新聞「農民」2000.8.28付)
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2000年8月

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