私の日本改革論「二十一世紀は農林水産業の時代」―上―松川康夫
いま、わが国はあらゆる分野で破綻をきたしている。財政赤字、農林水産業・中小企業・商店街の衰退、不景気・失業・労働条件の悪化、老人・少年・子供の悲惨、出生率の低下、環境問題、文化的退廃など、一つの時代の終わりを告げている。これまでのような工業中心の社会から農林水産業中心の社会に、最終的には「地域自立型社会」に移らなければならない。この将来展望は農民連のそれと一致するのではないか。そのことを物質収支(物資の出入り・使われ方)という一風変わった切り口から明らかにしよう。
膨大な物資の輸入と排出平成九年版『環境白書』によれば、わが国は海外から毎年七・五億トンもの物資を輸入する。その主要品目は石油、石炭、鉄鉱石、木材、穀物である。輸出は、主要品目が鉄鋼、セメント、機械類、自動車、電気製品で、一億トンである。その差六・五億トンが国内に残り、生産・消費の過程で水を含み、八・七億トンもの不用排出物となる。(1)不用排出物八・七億トンのうち、四億トンは石油・石炭・液化ガスがエネルギー用に燃やされた排気ガスで、大気汚染・酸性雨・酸性霧と地球温暖化の元凶である。 (2)残りのうち三億トンは廃棄物(産業廃棄物二・五億トン、一般廃棄物〇・五億トン)で、有害物汚染の元凶である。不法投棄は別にして廃棄物は脱水・乾燥・焼却で一億トンに減量される。この過程でも炭酸ガス、ダイオキシンその他の有害物質が発生する。減量された廃棄物一億トンの比重を一とすれば、JR山手線の内側(六十五平方キロメートル)に積み上げると一・五メートルにもなる。 (3)一億トンは人の糞尿で、産業廃棄物の家畜糞尿などとともに水域の富栄養化の原因となる。 (4)〇・七億トンは農薬散布、化粧品・有機溶媒のスプレー、フロンの逸散といった散布・揮発で、高濃度ではもちろん毒物だが、低濃度でも環境ホルモンやアレルゲンの働きをするものが少なくない。
膨大な砂利採取と建設残土この他に年間十二億トンに及ぶ建設用の川砂利採取や採石がある。これらはダム、堰、道路、トンネル、橋、ビル、護岸、テトラポットなどのコンクリート構造物として累積する。大型コンクリート構造物自体が自然破壊となる例も多い。しかも使用期限が過ぎれば厄介な廃棄物と化す。これを毎年十二億トンも累積させて良いはずがない。上流のダムと下流の河口堰にこの砂利採取が加わって、海浜への砂の供給がなくなり、白砂青松とうたわれた美しい砂浜海岸は年々後退している。また、各地で採石によって里山がむき出しにされ、無惨な姿をさらしている。 さらに建設残土十二億トンがある。要するに、土木建設事業を行えば、投入した砂利と同量の残土が発生する。この行き先は海面や里山渓谷の埋立である。
限界にきた廃棄物と残土の処理処分神奈川県は、三浦半島の自然度の高い里山渓谷(長さ約二キロメートル、幅百メートル、深さ五十メートルぐらい)を産廃五十六万立方メートル(約五十万トン)と覆土二十三万立方メートルで全面的に埋め立てる計画を発表した。神奈川県で一年間に発生する産廃は四百万トンなので、このような里山渓谷を毎年八カ所も埋めることになる。全国の産廃処分は一億トンだから毎年二百カ所、残土はその十二倍だから毎年二千四百カ所づつ埋めることになる。このままだと健全な里山渓谷は早晩なくなってしまう。海面の埋立も限界にきている。当面する内湾の水質浄化や渡り鳥の保護、あるいは将来の人口・食料問題に備えて、海面の埋め立ては止めるべきだ。(つづく) (農林水産省中央水産研究所)
(新聞「農民」2000.8.14付)
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[2000年8月]
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