B.今年の運動の基本と重点新聞「農民」を先行した拡大が前進し、世論に影響を与えました。しかし、いまの情勢に応える課題からみれば、ようやく第一歩を踏み出したにすぎません。この二〇〇〇年を、情勢に見合った運動と組織の飛躍の年にするために、これまでの実践のうえにたってみんなで討論することがこの大会の大きな眼目です。 そのための運動の基本や重点課題の主要な内容については、決議案に示されています。報告では、方針を実践するうえでの強調点、何が問題なのか、どのようにして問題を克服するのかを提起し、大会の討論に付したいと思います。
【1】運動の基本について1.要求にもとづく運動と政治の転換という二重の取り組みを今こそ握って放さないこと切実で多様な要求を実現し営農と暮らしを守るとともに、農業危機を根本的に打開するための政治の転換の二重の取り組みは、農民連行動綱領にあるように、農民連の運動の基本です。あきらめかけている農民――これが多数ですが、この人たちに何らかの実利で誘いをかけるところで止まってしまうのでは、農民の自覚は高まりません。農民連と一緒にやればどんなメリットがあるのかを具体的に話すとともに、農業の展望、農業を大事にする政治に変えることを語ることで、目の輝きが変わり運動への共感、賛同、共同が急速に広がったというのが全国の実践が教えているところです。 一俵六百円問題のように「誰が、どうしてこんなことをするのか。どうしたらこんなことをしないで済むのか」と対話しているうちに怒りが共有され、米の販路を何とかして欲しいという要求とともに、アメリカにものを言える政治に、WTO協定の改定を主張できる政治に変えなければだめだ、という共感が広がり、新聞「農民」を読んで一緒にやろうという気概を起こしてくれました。 いま、この二重の取り組みを改めて強調するのは、新農基法が実施され、あきらめがさらに強要されること、今年の総選挙が政治を転換する好機となっているからです。総選挙で農業を大事にする勢力を大きく前進させれば、要求の実現も一気に進み、農民を励ますことは間違いありません。 二重の取り組みを握って放さないことがとりわけ重要なときです。
2.運動の原点に立ち返り、農民の多数者結集を(1)地域農業全体をみて、あらゆる要求に取り組める農民連に「学習テキスト」は「要求こそは運動の自発性の源泉であり、大衆運動の生命である」(14ページ)と指摘し、農民の多数者結集のために「『この指とまれ』でなく、要求を全面的に取り上げる運動を」すること、農民連が地域の農業全体を見て、あらゆる要求に取り組めるようになることをよびかけています(52ページ)。今の情勢はこの原点に立ち返った運動を強く求めています。 (1)農民の多数を農民連に結集する大志をもっているかがまず問われています。数十万農民連の建設をめざして多数を結集しなければ、運動が大きく前進できるチャンスを逃し、「手の届く問題だったのに」という悔しい思いを続けることになります。 (2)忙しい日常の生活や業務、活動に追いまくられて今でさえ手一杯なのに全面的に要求をとりあげるなど「分かっちゃいるけどやれない」という幹部や専従者がいます。そうであれば、一部の農民しか農民連には結集できず、多数者結集はできないことになります。 専従者の手が足りなければ、要求をもっている仲間を中心に手分けし、活動を援助して、自転できるようにすること、請け負いをやめることが重要ではないでしょうか。 会員の中には、いや幹部の中にさえ、地域農業全体の視点など自分にはかかわりあいのないことだと思っている人がいます。確かに自分の営農と暮らしをよくするために農民連に入って良かったと思えることに力を注ぐことは大事です。 しかし今の程度の広がりと力では、悪政の前にこの成果がいつ奪われるかわかりません。集落ごと、自治体ごとの締めつけを跳ね返せないで、悔しい思いを経験している仲間はたくさんいるのではないでしょうか。 減反の押しつけや土地改良、固定資産税、産業廃棄物、鳥獣被害など、どれ一つとっても農業を続けられるかどうかという課題であり、身近な要求です。どれ一つとっても、集落や自治体単位の地域全体の話し合い、力の結集が必要な課題です。こういう課題や要求が地域全体の農民にとっては、価格保障や農用資材、産直や税金よりも切羽詰まっている場合も少なくありません。要求を全面的に地域農業全体の視点から見ること、その要求を実現するために農民の多数を農民連に結集することなしには、自分の要求も実現しないし、産直や税金の運動も尻つぼみにならざるをえないのです。 (3)これら多様な要求を実現する運動の蓄積や政策はほとんど農民連にはあります。新聞「農民」や雑誌『農民』、「学習テキスト」に詳しく紹介されています。 (4)苦悩している農民はまわりにはたくさんいます。要は「分かっちゃいるけど」とか、「狭い視野」のままでいいのかを絶えず念頭に置き、まわりの農民との対話を重視し、よく話を聞くことです。要求や地域農業の現状を出し合い、課題ごとの要求の一致点を農民連の全国の経験や政策に照らしながら、役員会や班の寄り合いで話し合うことが打開の一歩です。 (2)多くの人が参加して運動が続くようにするために 「学習テキスト」は「多くの人が参加して運動が続くようにするために、会費を基礎とした財政の確立とともに、会員の自覚的・自発的・積極的な運動への参加が不可欠であり、現在の農民連の運動と組織建設の最大の課題がある」ことを強調しています(33ページ)。 役員や専従者が、会員だけでなく、農民を自立したともにたたかう仲間としてみることができなければ、大きな運動に発展させることはできません。要求を解決してやるのでなく、関係農民とともにたたかうことを堅持することで農業の展望を実践の中で分かち合えるのではないでしょうか。 このためには、保守主義の考え方を改め、請け負いをやめることが不可欠の課題ですが、この点は昨年の大会決定(雑誌『農民』NO50)や「学習テキスト」で詳しく解明されています。
3.全国いっせいの運動を重視し、決めたことをやりきる組織に要求にもとづく地域のたたかいは農民運動の基本です。今年から畜産施設やハウス施設の固定資産税が農地並みに取り扱われるようになりました。静岡などのたたかいが重要な役割を果たしました。これは、地域のたたかいとともに、農畜産物を生産する土地の固定資産税は生産物の収益に見合うものであるべきだという根本的なたたかいと、それによる全国的な世論が高まった成果です。 畜産の糞尿処理問題、ダイオキシンなど産業廃棄物問題、鳥獣被害問題、ムダな公共事業をやめ農民の利益と地域の自主性にまかせる土地改良問題などの前進と成果は、すべて地域のたたかいとともに、全国いっせいの運動を重視してたたかったことによるものです。 一俵六百円問題、大豆・小麦を転作から「本作」にするという問題、中山間地の所得補償問題、今年の通常国会に提出されようとしている一連の価格保障廃止と株式会社の農地取得を認める農地法改悪などは、農業再生の根幹にかかわる国政上の全国的な課題であると同時に、大半の農民の営農に直接かかわる身近な問題です。それだけに全国的な方針を真正面から受けとめ、全国いっせいに取り組むことが大事です。 一俵六百円問題を中心とする新聞「農民」号外は、四十六都道府県で百五十万部近く活用され、今でも活用できるものです。この運動の教訓はるる話してきましたが、全国的な課題であるだけに、なおさら全国的方針にもとづいたいっせいの取り組みが必要でした。これを重視し、学習や話し合いだけではなく、足を踏み出した多くの県連の仲間は、情勢や仲間や農民に対する見方を変え、保守主義や請負主義の考え方を変えたのではないでしょうか。 この取り組みの影響は、運動だけでなく、見方や考え方、組織の改革にまで影響を及ぼしたのです。 初めて「決めたことをやり切る組織」になったという報告をいくつもの県連からいただきました。新聞「農民」号外を全農民規模で活用しところほど、決めたことをやりきることを役員会で合意しています。 五千部を支部すべての会員と読者にまで手伝ってもらって一軒一軒まいたという新潟の弥彦支部をはじめ、毎日のように新聞「農民」拡大の報告が届きました。ことの重大性と意義は活動すればするほど分かり、組織が活性化し、さらに大きな目標と運動へと発展するという典型です。
4.新聞「農民」号外による大量宣伝の重視を一連の新聞「農民」号外による大量宣伝は、世論への影響を急速に広め、農民や農業団体、業者・消費者団体、国民から農民連への信頼をかちとりました。この取り組みは、われわれの予想を超えてこれからの運動に多大な貢献をすることになるでしょう。 十アール当たり千五百円を取り上げる問題、後で話をする九八年度の食料自給率のごまかしや、農業者年金の改悪は、大量宣伝を必要とするものではないでしょうか。次々に出てくる悪政の一つの特徴は、国民に知られないうちに、考える時間を与えないで進めるというやり方です。この攻撃を機敏に跳ね返すならば、自自公政権はどんどん墓穴を広げることになるでしょう。 あらかじめ号外の予定や予算を組んでおくことは無理があります。いつ、どれぐらい必要なのかは政府の出方によるからです。財政が大変ですが、農民一人一人からのカンパ、団体カンパに大いに取り組みましょう。一集落六十軒でも二百四十円たらずです。新潟の経験でも、一人百円かと思ったら千円くれたそうです。積極的に訴えましょう。
5.日本と地域の農業、食糧・健康の将来を心配する広範な人たちがいるこれまでの運動を基軸におきながらもう一つ視野を広げれば「日本には農業と農村が必要だ」という世論を作る輪が大きくなる条件がたくさんあります。なぜなら、農業・国土・郷土・健康・農村文化を破壊する悪政が執拗に進められているなかで、関心を高めているたくさんの人が多様な要求をもっているからです。 森林を守ろう、国土・環境を守ろうという要求と関心の高まりは、若い人の中でも農村・都市部に限らず増えていますし、町村の自治体関係者には熱い要望をもたれています。郷土を守ろうという郷土史研究家や郷土芸能、民話を守る各種のサークルや郷土の祭りへの参加者もいます。現に農民連の仲間にも芸達者や郷土史に詳しい人もたくさんいます。 大企業の横暴なもうけ主義、政府が主導するリストラ、労働法の改悪によって、六千万人を超える労働者が労働強化やストレスに泣かされ、危険な輸入農産物による子供のアトピーも増大するなど、肉体的・精神的な健康への関心は高まるばかりです。連合の労働組合や未組織労働者、社会福祉団体、子供会、PTAなど、まだ働きかけの弱い多くの団体があります。 グリーンツーリズムへの関心の高さも、昨年、民宿組合が労働組合回りをして、大変喜ばれたことでも証明されています。 以下次号(2月7日号)につづく
(新聞「農民」2000.1.24/31付)
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