二十一世紀へ、広範な仲間とともに、WTO協定改定、農業と農山村の復権を!農民連第12回大会報告2000年1月12日/農民連常任委員会
代議員のみなさん、評議員のみなさん、大きな前進を生み出した昨年のご奮闘に、常任委員会を代表して心からの敬意を表明したいと思います。 新聞「農民」の目標を一番先に達成した秋田県連から「われわれの代表は一人もインフルエンザにかからなかった。段取りと心構えが違う」と言われましたが、昨年は大会出席者の九割かたが会場でインフルエンザにやられました。今年はそういうことのないようにガラリと会場を変えました。レセプションも四百坪の広さで、出される食べ物もすべて農民連の仲間が作ったものです。 厳しい農業情勢のなかでたたかう農民連が毎年勢いを増していることをみなさんとともに喜びたいと思います。
A.情勢の特徴―たたかいで切り開いた情勢に確信をもって―さて、昨年のたたかいを通して今日の情勢の特徴を五点にわたって提起し、ともに考えてみたいと思います。
【1】豊作分を一俵六百円で投げ売りする問題が新たに起こしている矛盾昨年の作況指数は一〇一ですから、いわゆる豊作分は九万トンなのに、十七万トンをエサ用に回しました。政府は、今後このやり方を制度化するだけでなく、政府の助成はケチり、すべての稲作農民から十アール当たり千五百円を出させて埋め合わせることを決めました。これは新たな矛盾と農民との対立を生み出しました。 昨年十二月の交渉で食糧庁次長は「すべての稲作農民から十アール当たり千五百円を出させる法律的根拠はありません。農業団体(全中)が自主的にやることで、原則として本人の同意が必要です」と答弁しました。 法律の根拠もないのに人さまの懐に手を突っ込んで取り上げる(自動的に引き落とす)のは、世間ではドロボウというのではありませんか。「原則として本人の同意を必要とします」といいますが、一俵六百円問題自体が農民に知らされたでしょうか。それさえしない自民党や政府や全中が一人一人に同意など取って歩くわけがありません。 全中は全国の単位農協の組織討議の結果、賛成が過半数だったから一俵六百円の制度を推進したのでしょうか。反対、不同意の単位農協に、この同意を取って歩けと強制すれば、もう全中に未来はありません。 政府の態度は「全中がやることで、知ったことではない」というものです。しかし、決めたのは米の自由化を押し切って以来の泥船に乗ったこの三人組です。一番大きな責任を持つべきは政府です。 農協に財布を握られている人はたくさんいます。いよいよこの問題は、農民みんなが自分の手の届く問題どころか、自分の問題になったのです。 「WTO協定では外米(ミニマム・アクセス米)全量を輸入しなければならないという規定がないのだから、日本が自主性を発揮して外米を削減すれば、一俵六百円で投げ売りするようなことはしなくても済む。現に韓国は外米の削減を事情に応じてやっているではないか」と言ったら、政府は「韓国も年間を通せば約束量を輸入している」と強弁し、通関統計を示して言い訳しましたが、昨年十一月に韓国に出向いたときにはっきりしたことは、韓国の米年度は一月〜十二月だというのですから、その通関統計によっても年度単位でみれば全量輸入しているのではなく、韓国が自主性を発揮して外米輸入を削減していることが明白になりました。 それでも政府は「政府統一見解で全量輸入することを決めたから、米が余ろうが、消費者が食べたくないと言おうが、加工業者がいやだと言おうが、どんどん輸入する」と言うのです。ミニマム・アクセス米の増加量をわずか四万トン減らすことを口実に、米の関税化を前倒しましたが、政府統一見解を撤回すれば、米の自由化という屋台骨を身売りするやり方をする必要はまったくなかったのです。 アメリカが恐ろしくてやれることもやらない、あげくのはては法律にもないことを押しつける――こういう自民党型政治を転換させる潮時ではありませんか。
【2】WTO(世界貿易機関)閣僚会議の決裂「決議案」に指摘しているように、閣僚会議の決裂が示したことは、多国籍企業やアメリカ政府の思惑どおりには世界が動かなくなってきているということ、「WTO協定を改定せよ」という主張こそ世界の流れだということです。立ちはだかったのはWTO加盟国の八割を占める途上国(この大半が非同盟諸国)と世界のNGO(非政府組織)です。閣僚会議の決裂に関連して面白い話があります。一つは、恥をかいた日本政府と失笑をかった日本の財界です。日本政府はもともと「WTO協定の枠組みを維持する」ことを基本に会議にのぞみました。ですから「農業の多面的機能を認めよ」という主張も単なる格好づけにすぎないものでしたが、この主張をひっこめろとアメリカに言われて、真っ先に「表現はどうでもよい」としてさっさと取り下げたのです。世界の国々から牛肉・オレンジの自由化に続いて、またもや見放されることは必至です。 しんぶん「赤旗」のインタビューで、アメリカのNGO組織のまとめ役であるマーク・リッチーさんは「アメリカと日本は対立などしていない。日本政府はアメリカと同じくもっと自由化を促進し、農業が潰れることを望んでいるのです」と断言しています。証拠があります。日本のNGOの一員である経団連代表が自由化促進の演説をやりました。自自公政権のスポンサーです。しかし、この演説は世界のNGOから失笑をかっただけでした。 もう一つは、昨年十二月の交渉の際の食糧庁次長の答弁です。閣僚会議の決裂の感想を聞いたところ「百三十五カ国にもなると、ますます改定はむつかしいですね」と答えました。アメリカの尻にくっつき、財界の後押しだけをし、自主的な外交ができないために先がまったく見えない可哀相な状況にあるのが日本政府の実態です。 政府の体たらくとは、まったく相反する話があります。農民連の代表はアメリカの全米家族農業者連合(NFFC)と懇談しました。日本の食料自給率の低さや四割近い減反の押しつけに怒りを共感したNFFCから、急遽、共同声明を出そうという提案が出されました。食糧主権を求めることともに「輸入禁止の権利」を求める項目が共同声明に盛り込まれました。また、輸出国のアメリカでさえ、農家の大半を占める家族経営農家は、輸出のために低農産物価格を強いられ、離農の増加と農村の崩壊、自殺が相次いでいる、何としてもWTO協定の改定が必要だと強調し、是非交流をしたいという申し入れがありました。詳しい話は別に報告があります。 イタリアを訪問したときFAO(国連食糧・農業機関)の事務総長代行は日本の食料自給率の実態と四割に及ぶ減反のことを聞いて驚いていたそうです。こんな基本的なことすら政府は話していないのかと、驚いたのは農民連・食健連代表の方でした。また九六年の世界食糧サミットのNGO会議で議長をしたオノラティーさんは「これまで食糧問題は途上国だけの問題だとしか考えていなかった。発達した資本主義国での食糧主権も重大な問題だ」と語ったそうです。 韓国の全国農民会総連合(韓国全農)の代表とも懇談しました。「韓国の農業の危機は日本の比ではない。輸出のための低農産物価格で負債が払えず、自殺者、夜逃げが相次いでいる。韓国は日本の農業政策の後追いをしており、ますますひどくなる。韓国全農は韓国で唯一のたたかう自主的な組織であり、労働者などとともにたたかっている。近い国なのだから大いに交流をしたい」と、四年前まで数年間、民主化と農民運動のために投獄されていた鄭議長が語っていました。 WTO協定改定の大きな転機を迎えたのです。国際交流の足場をかため、国内に世界の流れを知らせ、みんなの確信にし、政府とたたかう絶好の機会です。まず、二月の国際シンポジウムを全力をあげて成功させようではありませんか。
【3】点から線に広げた市場などとの共同の広がり上尾、名古屋北部市場から北足立、築地市場等々へ、話しあえば共感と共同の輪が広がるというのが実感です。政府の輸入拡大政策のため低価格で推移するなかで、いずれも農民連コーナーを市場に開設し、卸・仲卸や小売業者からの熱い期待に応え、出荷する品数も増え「昨年見本で出した生産物を今年は出してくれ」と要望されるなど、高い評価を受けています。野菜や果実だけではありません。米も始まりました。「共同は足を踏み出すことと、粘り、それにブロックで対応することだ」と東北・北海道ふるさとネットの仲間は語ります。卸を通して小売業者とのつながりも広がりました。 大豆トラストや醤油・味カイ、日本酒、ハムやチーズなど加工品も喜ばれ人気をよんでいます。農民連マークのシールもできました。信頼が一目で分かるシールです。それだけに新婦人産直や学校・病院給食など多様な産直にも活用し、「さすが農民連の作ったものだ」という、よりよいものを作り届ける努力をしましょう。 全国の八ブロックネットのうち、東北・北海道、関東、東海、近畿、九州が立ち上がりました。全国のブロックが立ち上がり、全国ふるさとネットがこれに応じてフル回転するようになったら、南北三千キロの日本列島の豊富な農畜産物が動くようになったら、全国の農家を励まし、消費者から喜ばれ、輸入農産物とのたたかいがどんなに大きく進むかしれません。 すべての農家に、あきらめずに物を作ることを真剣に呼びかけることなしに、この大事業は進みません。このことが運動の中心に座ったときに、農民連の運動の基礎が確立できることを強く訴えたいと思います。
【4】新聞「農民」は多くの人に受け入れられる昨年の暮れは毎日のように拡大の連絡が入り、全国四十四都道府県連が増紙を申請しました。増紙には至らなかったが拡大をした県連を含めれば、ほぼ全国で読者が増えたことになります。自主目標を達成した県連は今日現在で、八府県連(秋田・茨城・長野・新潟・石川・三重・京都・宮崎)となり、来年の府連大会まで一千部を目標に年内目標七百部を達成した大阪、県連大会まで五百部を目標に十一月までに三百部を達成した富山、三桁の拡大をした山形、埼玉、静岡、愛知など数々のエピソードをまじえて続々報告がありました。これまで二〜三年かかった分を一挙に増やしたことになります。どうしてこんな事態がつくり出せたのか。二つのことがあると思います。 一つは、一俵六百円問題が起きたとき、農民の中では「困った、困った」以外の話は出なかったそうです。新聞「農民」号外を持ち込み、対話と懇談を進めることで「どうしてこんなことになったのか、どうしたらよいのか」という農民の心の底にある疑問と不安に答え、農民連の信用を勝ち取っていったのではないでしょうか。共感を急速に広げたのではないでしょうか。政府のひどさ、全中のだらしなさに怒りが湧いたのではないでしょうか。 「もっと本当のことを知りたい。農民連の言っていることはためになる」と読者になったのは、農民だけでなく、単位農協や農業委員会、自治体関係者もそうでした。 ニセ新米問題、遺伝子組み換え問題などで消費者や業者の強い関心に応えました。国民の共同の財産として前進している分析センターは、動かぬ証拠をつきつけることで大きな役割を果たしています。 情勢が一気に変えられるときの何よりの運動は、まず、新聞「農民」を先行した拡大にあることに確信をもとうではありませんか。 ただ条件があるから増えたわけではありません。いま一つは、これが主な側面ですが、農民連が一丸となっての実践があったからです。「座して死を待つわけにはいかない」という秋田県連の言葉にその典型があります。農民連以外の農業・農民団体が黙っているなかで、誰がこの危機に立ち向かうのか。この決意が役員会の中で固まり、まず役員が足を踏み出したことで(1)農民も農業団体も自治体も、消費者や業者も、この呼びかけを待っていたことが実感できたこと、(2)単組の役員や会員とともに行動することで実感する仲間の輪が広がったこと、(3)全国連の数十号にわたる生き生きした活動を紹介したニュース、県連ニュースがさらにその輪を広げ、この動きに確信をもつことで、目標を、やりきる組織になろうという全国の方針に応える組織が生まれたことによるのではないでしょうか。
【5】年金改悪法の強行を止めた教訓国民にはやらずぶったくり、銀行や大企業にはやり放題、そのための悪法は素通り、これが自民党が支配する国会の実態でした。そこへ、公明党まで政権に参加し、衆議院で七割を占める巨大与党になりました。ところが、自自公政権が昨年の臨時国会の冒頭で通すと言った衆院比例定数削減も年金改悪法も通りませんでした。どうしてこんなことができたのでしょうか。労働者・農民・業者・女性・青年団体などを結集する国民大運動実行委員会をはじめ、大衆運動がたたかいを強め自自公政権を追い込んできたこと、野党にいて野党の分断を専門にしていた公明党が与党に移ったことによって野党の結束ができたこと、これが基本的な要因です。 公明党が野党の時、戦争法や盗聴法が強行されましたが、労働法改悪反対から戦争法・盗聴法反対、年金改悪法反対へと続けられてきた全労連と連合の連携や民主勢力のたたかいの広がりが、世論を動かす時代になっています。国会における自民党支配は弱まり自自公政権の混乱は深まる一方です。道理がなく党略だけを追求しているからです。 米関税化法や新農基法は、日本共産党だけの反対で強行されましたが、すべての大衆運動のたたかいと合流することで、農民の多様な要求を実現するたたかいと、総選挙で自自公勢力を少数に追い込んでいくたたかいに大きな展望を切り開くことができる情勢になっています。
(新聞「農民」2000.1.24/31付)
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