農民連・食健連代表団報告集会からWTO閣僚会議を破綻に追い込んだ二つの力真嶋 良孝(農民連事務局次長)
シアトルで開かれたWTO第三回閣僚会議は、今後の交渉について何の方向も示せずに決裂しました。 アメリカ側は「会期が短いうえに議題が多すぎた」と弁解しましたが、議題が多いのは最初からわかっていたこと。 そうではなく、アメリカと多国籍企業の利益を優先するWTOの枠組みを強化するという思惑の前に、世界の世論と運動――とくに非同盟諸国を中心とする途上国とNGO(非政府組織)がたちはだかったというのが実際の姿です。
世界中のさまざまな運動が合流しシアトルの人口の一割近く、約五万人のNGOが世界から集まり、食糧・農業、環境、労働、森林、知的所有権などなど実に広範囲な課題で、連日、朝から夜までフォーラムや集会・デモが行われました。塩ビ製バケツなどの“鳴り物”にあわせたリズミカルなシュプレヒコールにのって整然と進むデモに身を置き、英語のプラカードをながめていて、世界中のさまざまな分野の運動が大河に合流していることと、WTOの部分的な手直しでは、この流れを押しとどめることはとうていできないことを実感しました。 その実感を裏付けてくれたのは、皮肉なことにWTOそのものでした。十一月二十九日に開かれたWTO主催のNGOシンポジウムの開会スピーチで、ムーアWTO事務局長は「シンポの会場の外にいる人々は“WTOが民主主義的でない”というが、WTOは、世界政府でも、世界の警官でも、企業の利益の代理人でもない」と述べました。 「語るに落ちる」といいますが、この弁解は、逆にWTOが「世界政府」であり「多国籍企業の利益の代理人」であることを当事者が“証言”したものとして妙に説得的でした。また、世界中の「WTOノー」という国際的な世論を、かれらがどんなに恐れているかを示してあまりあるものでした。
数量でも大きな力示した途上国ウルグアイ・ラウンドが始まった一九八六年のガット加盟国は九十二。現在のWTO加盟国は百三十五。その大部分は途上国で、八割近くを占めます。しかも、九八年九月には非同盟諸国首脳会議が四年ぶりに開かれ、八〇年代のアメリカによる分断と逆流を巻き返し「二十一世紀に向け、民主的で世界全体を代表する新しい国際経済関係を樹立する」ことを宣言しました。途上国は数のうえでも、力量のうえでも、ウルグアイ・ラウンドのときとは比べものにならない存在になっていたのです。 しかし、アメリカのふるまいは、途上国を完全になめきったものでした。 バシェフスキー通商代表は十二月一日に各検討グループの議長を集めて「議論はどうでもいいから、二日正午までに議長案を出せ」と迫り、案文が出そろうと途上国を排除し、十八カ国の“秘密グループ”での検討に持ち込んだのです。 しかも、反ダンピング協定見直しなどアメリカに不利益になる分野を交渉から除外しようとしたり、農業分野では「多面的機能」を一切無視して完全自由化にレールを敷こうとしたりで、まさに「世界はアメリカのためにある」といわんばかりです。 「新ラウンドはアメリカや先進国だけのものなのか」という途上国の反発は猛烈で、私たちが入手したかぎりでも、アフリカ、ラテンアメリカ、カリブ海諸国などが、それぞれにアメリカの身勝手に対する「怒り」と“秘密グループ”が作る案への「拒絶」「不同意」を表明するという厳しい調子の声明を発表していました。おそらくウルグアイ・ラウンドのときには考えられなかった事態でしょう。
世界と日本は変えることができる一部の報道は、日本政府の“奮闘”ぶりを提灯記事よろしく持ち上げていますが、どんな“奮闘”をしたのか。――閣僚宣言草案から「農業の多面的機能」が落ちたとき、玉沢農相は「表現にはこだわらない」と言ったそうです。しかし、日本政府の要求はWTO農業協定の「枠組み維持」を大前提に、ミニマム・アクセスの撤廃も要求しない、中身のない「文字面」だけのもの。これを「表現にはこだわらない」といってしまったら、何も残らないではないかと猛烈に腹がたちました。 深谷通産相は十月に行われたムーアWTO事務局長との会談で「反自由貿易NGOについては懸念している」と述べていました。 途上国とNGO=世界の民衆が歴史を変える時代に入ったことなど眼中になく、ひたすらアメリカ政府の後から世界を見るだけ――自自公政権の無能力と限界は明白です。 私たちは、全米家族農業経営連合と初めて会談し、それぞれの国でたたかうことと、国境を越えて力をあわせることを確認しました。アメリカと日本という二つの資本主義大国の農民組織がこういう会談を行ったことの歴史的意義は、今後大きな力になるでしょう。
(新聞「農民」1999.12.20/27付)
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[1999年12月]
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