いま、農の現場は…「家畜排せつ物新法」によせて(下)JA全農技術主幹・非常勤/小川政則『家畜排せつ物の管理適正化及び利用の促進に関する法律』は、参院農林水産委員会で全会一致で付帯決議が採択された。
その主な点は、(1)管理基準や方針は地域実態を踏まえ定める、(2)指導・命令などはきめ細かい配慮をする、(3)県計画は地域や経営の最適なものにする、(4)整備支援を充実する、(5)自給飼料生産の拡大や堆肥流通促進支援などである。 この法律は、規制の強化や施設、機械への多額の投資、堆肥センターの利用料値上げなどがあり、農家には重圧感を与えるため、こうした付帯決議をつけざるを得なくなった背景がある。農家にこの内容を知らせ、実施にあたっては「地域の実態を踏まえ」「きめ細かい配慮」を要求していくことが重要である。 家畜糞尿は、いのちにかかわる激甚な公害を起こす鉱工業の廃棄物と違い、農耕の長い歴史を通しても地力維持に役立ち、環境保全型農業にとって重要な資源である。しかし、規模拡大で生態の許容範囲をこえた過剰施用がなされ環境汚染を生じて、社会的な共通利益を損なっている場合には当然適正施用の改善が必要である。
こうした点では、畜産を悪玉扱いではなく、地域で法律が背景として取り上げている畜産の硝酸性窒素汚染や胞子虫類の原虫による水質汚染などの負荷実態を具体的に調査して、科学的な根拠と実情に応じた対策を示す方が畜産農家の理解や納得が得られやすい。自治体に対して、こうした取り組みを要請することも重要である。 わが国の堆肥利用は、地域や畜種の違いはあるが、大半は自給や半商品的なかたちで行われてきた。経営内自給や農家間の連携、組織的な利用などだが、商品化した広域流通と比べ、優れた面が多い。素材の品質が多様で、施肥効果も土壌や作物などで違い、付加価値の少ない資材は低コストで利用するのが賢明である。
最近のこうした事例には、本格的な循環をめざすものや有機、特別栽培を行う意欲的なものが多い。また、新たな有畜経営を育成したり、地域複合で野菜の産地作りに取り組む事例も見られる(秋田県森吉町、大分県湯布院町など)。 堆肥センターには、集落や生産組織で取り組む事例(新潟県荒川町、奈良県当麻町など)、農協や法人で取り組む事例などがある。堆肥センターは、国の補助事業などで稼働しているものが約二千五百あるが、大半は赤字で黒字は一割にも満たないといわれている。赤字の原因は、過剰な設備投資、稼働率の低さ、副資材の値上がり、堆肥需要の不安定などが多い。成功事例は、施設に金をかけず、利用者が二次発酵を行うなど、利用農家と一体的に運営し、副資材も戻し、堆肥にするなど工夫したものが多い。現在の補助事業は畜産農家や利用者ではなく、プラント業者に役立っていると現場では見ている。
今回の補助事業は、こうした轍を踏まないよう猶予期間の五年間に各地の先進事例に学んで、主体的な対策を地域ぐるみで取り組みたいものである。各地の先進事例は、畜産開発機構や家の光協会の環境保全型実践事例集など、最近の数多い報告がある。
(新聞「農民」1999.11.15付)
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[1999年11月]
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