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東京・町田市に手作りミルクプラント誕生

良い牛乳を搾って消費者に届けるのが夢なんです…

酪農家5戸 都市農業守ろうと手をつないで

 「新鮮な地元の牛乳を消費者に届け、東京の農業を守りたい」――十月二十九日、東京で唯一の酪農家手作りのミルクプラント「東京みるく工房ピュア」(五戸の酪農家が共同出資する農事組合法人、北島一夫代表理事)が産声をあげました。大手乳業メーカーの工場統廃合・大規模化が進み、添加物を加えた“混ぜもの牛乳”が横行する中で、本物の牛乳をつくり、都市農業を守ろうというこのとりくみを、自治体も後押ししています。


味もさわやか 「ピュア」と命名

 「自分の舌で納得できる牛乳ができました」と話すのは、代表の北島一夫さん(搾乳牛三十五頭の酪農家)。飲んでみると、さっぱりした中に、ほのかな甘味を感じ、後口がとてもさわやか。「東京みるく工房ピュア」の牛乳は、搾りたての風味をそのままに残す、六五℃の低温で殺菌(三十分)されています。高温で殺菌した普通の牛乳と比べると、焦げた臭いがしないので、さっぱりした味になるとか。

 「二一世紀目前のいま、私がしなくてはならない事は、この牧場を守り続けていくこと。良い牛を作り、良い牛乳を搾ることが、私のピュアな夢です」。こう話すのは、共同出資者に名前を連ねる一夫さんの息子の隆さん(31)。工場の名前には、こうした思いが込められています。

 「ピュア」があるのは、八王子に程近い町田市のはずれ。雑木林に囲まれたモダンな建物は、木目と緑を基調にし、牛乳工場というよりはロッジ。テラスにはベンチが並び、十月三十、三十一日のオープンを記念した無料試飲サービスには親子連れが次々訪れ、秋空のもと新鮮な牛乳の味を楽しむ姿が目立ちました。

 一日にできる量は、大瓶(九百ミリ)、小瓶(二百ミリ)とも約四百本と、低温殺菌のため量産できません。今は、すぐ隣にある姉妹工房「町田あいす工房ラッテ」のみの販売ですが、いずれは五〜六戸を担当する配達員を組織し宅配を中心に、いくつかの店舗でも販売を予定しています。「牛乳の味は酪農家ごとに違います。そのことを消費者にも分かってほしい」と北島さん。

自治体も応援 育成へ補助金

 この計画の実現に、地場産業を育成しようと、自治体が手を挙げました。工場建設に、東京都が五千万円、町田市が二千五百万円の補助金を出し(「活力ある農業経営育成推進事業」)、起工式には町田市長があいさつ。「かつて三百戸あった市内の酪農家が、今は九戸。ほっといたら無くなってしまう」と、町田市が都に熱心に働きかけました。また議会では、日本共産党の斎藤勇市議が「大手メーカーに乳を出せば買いたたかれる。相続・固定資産税が高い東京で、行政が援助しなければ農業は守れない」と強く主張しました。

もうけ本位の乳業大手とは逆に

 一方、都も町田市も口をそろえて「初めから当てにはしていなかった」と言う国は、「(牛乳工場の)再編・合理化による体質強化を強力に推進」(「新たな酪農・乳業対策大綱」)すると、まったく逆の姿勢。融資の対象は、一日の生産量が十トン以上、「二工場を廃棄して一工場に集約した場合」などと限定し、酪農家が自ら搾った牛乳を製品にすることなどは、まったく眼中にありません。

 もっとも、大手乳業メーカーはこの制度も利用しながら、明治・守谷工場(生産能力十万トン以上)、雪印・京都工場(同二十万トン)などを建設。労働者のリストラと合わせて、もうけ本位の体制整備を着々と推進しています。これには「脱脂粉乳など安い輸入原料を使って、さらにもうける狙い」(明治乳業争議団)と指摘する声もあります。

 「このままいったら日本の農業はダメになる。自分が搾った乳を自分で売りたいというのは、すべての酪農家の夢。これを起爆剤に全国に広がってほしい」と北島さん。「二一世紀は環境の時代。東京の農業を守ることは、大都市・東京を守ることだと思っています」と続けます。東京農民連の武山健二郎事務局次長は、「いま東京の農業は、高額な相続税が一つの大問題。それとともに、販路の拡大など、『ピュア』の試みをバックアップしていきたい」と語っています。

(二瓶/新聞「農民」1999.11.15付)
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1999年11月

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