いま、農の現場は…「家畜排せつ物新法」によせて(上)JA全農技術主幹・非常勤/小川政則『家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律』が、七月に成立、十一月一日より施行された。畜産経営の大規模化により排せつ物が増え、一部で環境汚染が問題とされていることから、家畜ふん尿の素堀り貯留や野積みの解消と、堆きゅう肥の流通利用促進がねらいである。
法では、家畜排せつ物の処理、保管施設の構造などに国の管理基準が定められ、農家は施設整備計画の策定と管理基準の尊守が義務づけられる。また県知事による指導、勧告、命令が行われ、改善が認められない対象者に五十万円以上の罰金が科せられる。 政省令は骨子しか明らかでないが、管理基準の対象は牛十頭以上、馬十頭以上、豚百頭以上、鶏二千羽以上の飼養農家。管理施設の基準はふんの場合、床を不浸透性材料(コンクリート、防水・遮水シート等汚水が浸透しないもの)で築造し、適当な覆い及び側壁を設ける。また尿は不浸透性材料で築造した貯留槽とするなどである。施設整備に時間が必要なため、適用猶予期間があり構造設備は平成十六年から行う。また、これらの支援措置として施設等の所得税、法人税の特別償却を実施すると共に、機械施設整備や環境整備の補助事業(十一年度公共事業四十八億円、非公共事業三十四億円)を実施するなどがその概要である。
内容が明らかになるにつれ、処理施設への多額な投資を心配する農家の声や、一部に便乗した関係企業の機械値上げなども聞こえる。環境問題への対応はこれからの農業にとって避けられない課題であるが、今回の法律は現場を含めた議論が十分行われない中で、唐突に出された感じが強い。
畜産の環境問題は根が深く、堆肥などの循環利用も多くの問題をかかえている。今回の法律の「資源循環型畜産の確立」も、現場では農水省が「新農基法」や「新たな酪農・乳業大綱」でしめした「市場原理の活用」「農業保護の削減」でいっそうの規模拡大、構造改革をすすめる路線とどう整合するのか不明である。畜産のあるべき方向がないまま、出口の規制だけ強化されている。 また、我が国の畜産はWTO下の自由化で、畜種を問わず飼養戸数、飼養頭数の減少、停滞に推移し、経営者の高齢化、後継者難、負債問題など多くの経営問題をかかえている。 現場では今度の法律が、畜産農家の離脱を加速化させないか心配している。環境保全型畜産への転換は、畜産全体の振興策と一体化して推進する慎重な施策が必要である。次回に具体的対策をあげる。 (つづく)
(新聞「農民」1999.11.8付)
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[1999年11月]
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