一農学研究者の感想食品分析センターを見学して元農水省農業技術研究所長・元明治大学農学部教授/江川 友治
かねてから注目していた農民連食品分析センターで、遺伝子組み換え食品の分析が開始され、その見学会にお招き頂き感謝しています。今回は一農学研究者としての率直な感想を書いてみたいと思います。
狭い研究室での苦労を思って私は大学では生物化学を専攻し、就職後は長年にわたって土壌化学の研究と教育に従事して来ました。この度、分析センターを見学して、かつて土壌コロイド粒子の電気泳動や電気浸透などの研究に夢中になっていた頃を思い出して久方ぶりに研究者に戻ったような気分になりました。石黒所長はじめ杉田君や八田君などの説明も簡潔明快で感心しました。ただ、率直な感じを申しますと、研究室がいかにも狭い、ということです。これは私が国の研究機関から私立大学へ移った時にも感じたことです。一台の実験台に蒸留フラスコなどの実験器具が置かれ、窓際にこの度購人された遺伝子組み換え食品分析装置が置かれていました。ここで朝から夜まで分析に当たっている若い研究者諸君はどこで休憩したり、お茶を飲んだりするのだろうか、また今後購入を予定されている、というガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィーなどの機器をどこに置くのだろう?などと考えたりしました。 また当日、見学会に参加されていた女性などからも出されていましたが、今後、分析依頼が殺到したら、対応できるのだろうか?、八田君などは、徹夜の分析に追われて倒れてしまうのではないか、などと考えていました。 こういうことを書けば、傍観者の余分な心配だ、と怒る方もいるかもしれないと思います。この敷地を借りて研究室を建て、当面必要な最小限度の装置を購入し、分析に当たる人材を得て、今回の発足に至るまでのご苦労は察するにあまりあります。この分析センターはまだスタートしたばかりです。そのことを知りながらも、私は上記のような心配を感じました。
安全確認は罰則つきで義務制に本来、このような情報開示は国が責任を持って行うべき事だと思います。しかし一九七九年から始まった遺伝子組み換え食品導入に関する国の行政的対応、特に、アメリカから我が国に大量に輸出される大豆、トウモロコシが遺伝子組み換えの対象になってきたこの数年間の国の対応、特にGM食品の安全性に対する国民の不安が高まる中で、それに対する国の責任ある対応が行われて来たかどうか、というと、残念ながらイエスとは言えないと思います。遺伝子組み換え食品の検査体制を確立することが大切だと思いますし、安全性に関して科学者の間でも国際的に論議されている食品を、どうしても輸入する、と言うなら、安全性をどのように確認したか、ということを含めて、安全性の確認を現在の任意の届け制ではなく、罰則をともなった義務制に改めること、消費者の知る権利、選択する権利を保証するために表示を義務づけるのは極めて当然のことだと思います。
活動発展へ息の長い支援が必要最近の新聞報道によると、これまで輸出を拡大するために表示は必要ないという立場を取って来たアメリカでも、安全性に対する世論の高まりによって、FDA(食品医薬品局)も表示を検討する動きが出て来たことを伝えています。またわが国の厚生省でも、先に述べた安全性の確認を義務づけることを検討し始めたことも伝えられています。ただし、このようなことが本当に正しく行われるかどうか、は保証の限りではなく、今後の動きを見守る必要があります。また遺伝子組み換え作物の輸入の問題はこの十一月から始まるWTO(世界貿易機関)の新ラウンド(多角的貿易交渉)でも大きな焦点となることが予想され、これに対して我が国がどのような対応をするのか、を見守ることも必要です。 このように考えますと、この度の分析センター設置とその活動の意義がいかに重要か、ということが改めて認識される必要があると思います。また、それゆえにこそ、このセンターのこれからの活動と発展に対してさらに幅広い、息の長い支援が重要だと思います。冒頭に書いた私の感想が杞憂に終わることを期待しています。またそのために農学・農業技術の研究者の協力が重要であると考えています。
広範な参加を得てシンポの開催をかつて、私は、日本学術会議の第六部(農学部門)の部長をしていた頃、有機農業をめぐるシンポジウムを企画し、農民、消費者と農学者の合同の討論の場を用意したことがあります。その時には有機農業を実践している農民と農薬の専門学者との間で激烈な討論が行われました。遺伝子組み換え食品の問題がこれだけ社会や政治の世界と深くかかわりあって来た現在、例えば、農民連、食健連と日本科学者会議などの共同主催で、消費者や女性団体などの参加も得て、シンポジウムを計画してみたらどうか、などと考えながら夜の祝賀会にむかいました。(小見出しは編集部)
(新聞「農民」1999.11.8付)
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[1999年11月]
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