臨界事故原子力行政、根本見直しを点検怠った科技庁の責任は重大農民連・茨城県連、徹底糾明と補償要求九月三十日に茨城県東海村のウラン加工会社「ジェー・シー・オー(JCO)」で起きた国内で最初の臨界事故。発生から一週間経って、二キロ先でも異常な放射線が観測されたことが明らかになり、被ばく者は十八人増え六十七人になるなど、その数は今後、調査が進むにつれ、もっと増える可能性があります。国内では過去最悪、国際的にも、チェルノブイリ原発事故に次ぎ、スリーマイル島の事故と同程度のレベル五の大事故が、なぜ起きたのか。
責任転嫁は許されない/危険を野放しにした科技庁「裏マニュアル」を作り、危険性を知らせずに従業員に違法の作業を続けさせてきたJCO。操業を認可したにも関わらず、七年間も作業状況の点検を怠ってきた科学技術庁。“遺伝子組み換え政府”といわれる連立・野合と内閣改造にうつつを抜かし、対策を遅らせた小渕内閣。「この問題を一企業、一個人の問題にわい小化してはならない。原子力行政の全体を見直さなければならない」(東海村・村上村長)と言われる通り、そのどれをとっても責任は重大です。五日の農民連などの申し入れに対し、科学技術庁は全責任をJCOに転嫁し「犯罪的な操作を防ぐ安全管理基準など作りようがない」などと開き直りましたが、こういう態度は許されません。農民組合員で東海村議の永井一郎さんはこう指摘します。「意図的に被害を小さく見せるために、被ばく放射線量を測定する検査をやらなかった科学技術庁こそ犯罪的だ」と。 不安と怒りつのる地元/「目の前にこんな危い会社が…」同時に、「茨城産というだけで買いたたき」「安全性が確認されるまで取引キャンセル」など、農畜産物への風評被害は全県に広がり深刻な状況です。茨城農民連と全国連は、被害の実態把握に努めるとともに、県・国に対して(1)全県的な安全性のチェックと事実の公表、(2)国・県・企業による損害の全額補償などを申し入れました。十月四日、事故から四日経っているのに、JCO工場裏に広がるサツマイモなどの畑には、野良姿はまばら。ニンジンの除草作業をしていた農家は手を休めて事故当日の午後、皮むき作業をしたネギが出荷できず農協の倉庫に眠っていると語ってくれました。そして、「目の前の工場がJCOだとは思わなかった。土壌検査で安全だと言われても買う人はいないだろう。放射線を浴びた体も心配だ」と、不安と怒りが混じった表情で言います。地元のJA直売所の売り上げも半分に減ったそうです。 深刻な農魚などの被害/関係者ら補償を強く要求四日からJR東海駅近くにJCOが開設した相談窓口には、損害賠償を求める農家や自営業者、漁業関係者が詰めかけました。東海村石神外宿の農家は、事故前後の出荷伝票と市場が発行した証明書を見せながら、「事故前、一キロ三百円したネギが、十月一日は七十円〜百二十円に暴落した」と説明します。この後の出荷予定も申出書に事細かに書きこみ、価格が下がった場合の補償を求めると言います。東海村農業委員会と集落転作実践組合は八日、合同会議を開き、全農家を対象に損害額をとりまとめ、十八日に一次分をJCOに提出することを決めました。 茨城県内の各産直センターにも、消費者や取引先からの問い合せ、キャンセルが相次ぎました。阿見町有機農産物供給センターの飯野良治事務局長は、「近くの生協でも県産品の扱いが減っている。安全宣言が出ても消費者の心配は残る。きちんとした情報を伝えることが信頼をかちとるカギ」と言います。 地元JAなどが損害賠償要求へJAひたちなか東海中央支店と東海村役場経済課は六日、出荷を停止したサツマイモ二千三百箱分などをJCOに賠償要求していくことを決めました。また茨城県農協中央会は七日、県内四十二農協の組合長を集め、県産品の風評被害の実態を調査するよう指示しました。
臨界事故で農民連・茨城県連が交渉不誠実、開き直る科技庁農水省には補償など要求茨城県東海村の核燃料工場の臨界事故によって茨城県産の農産物に風評被害が広がっている問題で、農民連と茨城県連は十月五日、農水省、科学技術庁に、事実の徹底究明と補償を求めて要請を行いました。農水省交渉には、農産園芸局農産課などが対応、「農産物のサンプリング調査を行い、安全を確認した。風評被害についても十月二日に安全宣言を発表し、市場などにも冷静に対応するよう文書を出した」と説明しました。しかし農民連からは「実際に現場では出荷の差し止めや買い叩きなどが起きており、被害甚大だ。文書だけでなく、現場に入って指導してほしい」「全県でモニタリング調査をし、事実を明らかにしてほしい」という悲痛な声が出されました。 これに対して農水省は「量販店などの不当な買い叩きがある場合は、ぜひ知らせてほしい。対処する」と明言し、損害補償については「はっきりとは言えない」という立場ながら「何がどう被害にあったのか、損害を細かく記帳しておくことを薦める」と話しました。 臨界事故に中心的な責任を負う科学技術庁は、「事故は民間企業が起こした犯罪とも言えるもので、理解できない」と責任を転嫁、農家が被った損害の補償も「事故を起こしたJCOが”無限責任”を負っており、東海駅前に会社が相談窓口を開いたのでそちらに行ってほしい」と述べ、無責任・不誠実な態度でまったく農家の声に応えようとしませんでした。
農民連からは「風評被害は全県に及んでいるのに、窓口は東海駅前一ヵ所だけなのか」「損害補償の範囲は誰が決めるのか」「設置を許したのも、監督責任も国であり、国は当事者として対応に臨んでほしい」と厳しい抗議が相次ぎました。これには科学技術庁も「国も責任ある。各市町村での窓口設置は検討する」と認めざるを得ませんでした。 国の「安全」過信が露呈/日本科学者会議会員・岩井孝さんの話今回の事故は、遮へいなどの防護壁がなく、制御機構もない「裸の原子炉」が二日間にわたって燃えつづけたようなものです。「裸の原子炉」からは中性子やガンマ線が飛び出しました。中性子は人体への影響も大きいものです。ただ、ストロンチウムやセシウムなどの放射性物質やウラン、プルトニウムなどはほとんど放出されていないので、水や農産物については大丈夫と言っていいと思います。そこで、何をすべきかですが、「放射能漏れ」を想定した表面汚染だけを測定するガイガーカウンターは意味がありません。血液検査も、かなり放射線を浴びないと「被ばく」とは判断されません。今回のような事故の場合、近い人から早急にホールボディカウンター(被ばくによって作られる体内の物質を検出する検査)にかけ、正確な被ばく量を知ること、それが今後の対応の基礎となります。現在の被ばく者は四十九人ですが、実際はもっと多いと考えられます。 それでは、なぜ事故が起きたのか?臨界にさせないために、いくつかの決まりがありますが、今回はそのすべてに違反しています。どうして、そんなことができたのかの解明が必要です。また、これこれの措置で臨界になりませんということを国が安全審査で認めた場合は、検出するための臨界モニ夕も中性子測定器も必要ありません。備えがなくても法律上は何も問題ない。国の安全審査の不備、「重大事故は起こるはずがない」という過信による甘さが露呈した事故だと言えます。
(新聞「農民」1999.10.18付)
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[1999年10月]
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