豪雪の山里で「野鳥こけし」づくりに励むトキ、キジ、カワセミ…次つぎと見事な農家の主婦の技新潟・松之山町を訪ねて
長野県と接する新潟県の東頚城郡に松之山町がある。多いときは四メートルは積もる豪雪地帯である。最近は“ほくほく線”が開通して北隣の松代(まつだい)駅ができてバスで二十分(役場から)ぐらいで大分便利になったとはいうものの、山村豪雪・交通不便の過疎地であることには変わりない。この町の農家の主婦の内職として始まった“野鳥こけし”にひかれて、東川部落の小野塚順子さんを訪ねた。 熟練した指先「野良着姿のまでいいから、五分でも十分でもお話を聞きたい」とお願いしておいたのだが、仕事を休んで、近所の小野塚ウメさんも来てくれた。土地の人たちが「松之山の鳥」といっているアカショウビンをはじめ、キツツキ、キジ、カワセミ、このごろ人気の佐渡の朱鷺(とき)などのこけしが順子さんのちゃぶ台(仕事机?)の上で賑やかに待っていてくれていた。 農作業のことなどおくびにも出さず、質問に気軽に答えながら、早速こけしの仕上げにとりかかった。
鳥の体の本体は、分業で他の人がチリ紙を糊でどろどろにして型に入れて固めたものである。 鳥の腹に千枚通しで孔をあけて、針金に糸を巻いた脚を差し込んだり、背中に羽を着けたり、頭やくちばしをつけたりする。角度や長さなどかなり微妙な仕事なのに、無造作に差し込んだり、羽をつけたりしている。「始めは何センチ・何ミリと計ったものだが、もうみなカンです」とこともなげに言って、次々と仕上げていく。相当な熟練工だ。 冬場の内職が長い冬の間、男たちを都会に出稼ぎに送って雪下ろしをし、春に先立って苗代を早く作るために灰を撒いて雪を融かし、男たちが帰って来るのを待つ。その長い冬に、この野鳥こけしは作られた。昭和三十六年(一九六一年)頃、植木屋旅館の亡くなったおじいさんが作りはじめ、役場の商工観光課の人が「冬の農家のオカアチャンたちの内職に作って町の特産にしたら…」と呼びかけたのが始まりだという。
機械化されたとはいえ、山間の棚田は小さく、稲刈りは大部分がバインダーだから稲束は担ぎ出して高いハサに架ける。排水のよくない田んぼの仕事、小さい坂でも手で運び、背に負う山の里の農作業…。そんな苦労など少しも感じさせない話だが、作る指の太さはそれを物語って余りある。繊細な作品と、紛れもない農婦の太い指!
この手の混んだ野鳥こけしが千百円なにがしあまりに安いことを思い出して、「工賃は一つでどのくらいに?」と聞くと、 トキの人気で「最近、朱鷺の人工孵化が成功してから、内職センターに佐渡から引き合いが相当にあったようです」「もう教えてくれた人も亡くなり、生き残りは十五人ばかり。冬の講習会には若い人も来るんだから習う気はあるんでしょうが、他の兼業収入などの方がよかったりして…」 「内職とはいえ、売るからには出来はどうでもいいというわけにもいかず、内職センターからもどされることもあるし…。それなりにきびしいし…」 「こんなまだるいことは若い人はやりたがらないんでしょうねえ。でも絶やしたくないねえ」 「これはよく出来た、と思えるのは滅多にないんですよ」 この人たちの中には、農作業と野鳥こけしがさらりと同居している。肩肘張らない勁(つよ)さ、その爽やかさに洗われるような一時間余だった。
(K/新聞「農民」1999.10.11付)
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[1999年10月]
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