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愛媛・野村町にみる(上)

“四つの宝”で町おこしだ

過疎・高齢化のなか農業守る自治体農政

 愛媛県の南西部、肱川(ひじかわ)上流の盆地と段々畑の山間の町・野村町。「ミルクとシルクの町」といわれた同町では、養蚕の衰退とともに野菜や葉たばこをつくる農家がふえてきましたが、価格や天候に左右されて経営は不安定、そして過疎化や高齢化が容赦なく押し寄せる典型的な中山間地の農村です。

 ここでは九年前に三人で再建した農民組合がいま三十五人に増え、組合員が農業生産の中核的な担い手となって活動。その中で農家の様々な要求を取り上げて自治体や農協を動かし、農業破壊を進める自民党の悪政から農家のくらしと経営を守るすぐれた施策を進めています。

 畜産と野菜の地域複合による、(1)土作り(2)町独自の価格保障制度(3)行政による流通支援(4)後継者研修、高齢者農業の援助など“四つの宝”といわれる地域農業再生の自治体農政は、全国的にも注目されています。

 また野村町では、この五月に二百数十人の農家や豆腐屋さんが参加した「百姓百品産直組合」が農民連に団体加盟して全国ネットと結ぶ多様な産直の発展を展望、来年からは四国初の大豆トラスト運動にも取り組もうと、いまから準備に大童です。

(塚平)


野菜と畜産の地域複合で、町独自の「土つくり」「価格保障」

爺ちゃん、婆ちゃんの“出番”つくる

 高知県に接し、標高九十メートルから千四百メートルと起伏に富んだ山沿いの台地に千六百戸の農家が点在する野村町。農業は野菜づくり(五百戸)、酪農・肉牛飼育(二百戸)を中心に、葉たばこ、水稲などを含め農業粗生産高五十億円を上げる農業の町です。
 なかでもキュウリは指定産地となって、ハウス、露地合わせて年四回取りで、十アール当たり百万〜百二十万円、町全体で五億円の出荷高になる特産品。野村のキュウリは「鮮度が良く、タナもちがよい」と関西市場で高い評価を受けています。

 野村町の農業の特徴は、こうした高い生産性と技術を持つ若い専業農家と、集落によっては六十五歳以上の高齢者が四〇%を占め、農業生産から除け者にされてきた“じいちゃん”“ばあちゃん”の出番を作り、この両者を農業再生に結びつけていることです。

「百姓百品産直」組合が元気の源

 この中心になっているのが昨年六月、営農指導センターの音頭で作られた「野村町百姓百品産直組合」(組合長は農民連会員・町議八期の和気忠教さん、組合員は現在、二百六十人)です。
 組合を結成し、県都松山に産直店ができて以来、過疎地では「野菜を作っても、やる人(食べてもらう人)もいない」と嘆いていたお年寄りが、「ものを作れば金になる」と元気をだし、ゲートボールもほどほどに、競って野菜や漬物作りに精をだしています。また専業農家も市場出荷できない規格外の品が産直で売れると喜ばれています。

農民の要求にこたえて総合施設

 この町の農業振興策のもう一つの大きな特徴は、特産の野菜と酪農・畜産の地域複合をはかり、自治体が農民の要求にこたえた総合的な支援策をとっていることです。
 町の農林振興課で営農指導している和気数男営農指導センター長は、「これは地域農業を守る自治体農政の“四つの宝”だ」と評価しています。そして「私は減反割当ても担当しているが、生産を守る活動にも取り組んでいる」と語る和気さんは、産直組合の事務局長もやっています。

年間3千トンの堆肥センター建設

 では、野村町の地域農業守る“四つの宝”の中身を紹介しましょう。
 その第一の柱が、畜産と野菜づくりを地域ごとに結びつけた土作りです。野菜農家にとって年四回も作付け、品質の良いキュウリを出荷するには、良質な有機質堆肥が大量に必要。一方、畜産農家にとっては、ふん尿処理が悩みの種でした。「堆肥センターを作って欲しい」という畜産農家や野菜農家からの要求を町当局が取り上げて、九六年に家畜ふん尿を材料に年産約三千トンを生産する堆肥センターを建設しました。今年からこの堆肥を利用する農家には、町がトン千円、農協が同じく千円を補助してトン五千円したものが三千円で使えるという支援措置を取り、二ヵ月間で堆肥の使用量が二百トンも増えています。

 十アール当たり六トンも有機堆肥を使用する野菜農家は「良質の堆肥が安く使える」と大喜びです。しかし、この堆肥センターで処理される家畜のふん尿はまだ一部分にすぎず、各集落ごとに二、三軒の農家が共同した小規模の推肥センターを町が補助して作ることにも乗り出しています。

喜ばれる「野菜振興基金」制度

 第二の柱は、町独自の野菜価格保障制度の実現です。農業は自然が相手の産業であり、とりわけ野菜は天候に左右されて経営が不安定なのが大きな悩みです。

 農民組合は、野菜農家が中心になっているので、町に対し、独自のキュウリの価格保障制度を作るよう要望。早くから独自の野菜の価格保障制度を行っている高知県西土佐村も見学して、和気忠教町議が町議会で取り上げて質問しました。「農業がつぶれたら町は駄目になる」と賛同が広がり、九四年から五年間の条件つきで価格保障制度(正式には「野菜振興基金制度」)が始まりました。

 この制度は、毎年、町が三百万円、農協が二百万円、生産者が百万円の計六百万円を拠出。これを毎年積み立て、キュウリの出荷期間(一月〜五月、六月〜七月、八月〜十月、十一月〜十二月)ごとの過去三年間の平均価格をだし、それより下回った分を補償するというもの。支払いは一年に一回ですが、ちょうど現金収入がなくなったころ支払われるので、野菜農家からは、「命綱だ」「安心して作れる」と大変喜ばれています。

 五年間の期限つきだったこの制度は、さらに五年間の延長が認められ、九八年からはピーマン農家からの要望もあってピーマンを、九九年からはナスにも適用されることになり、町が五百万円、農協が三百万円、生産者が二百万円の年間千万円の価格保障制度に拡充されています。(つづく

(新聞「農民」1999.9.27付)
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1999年9月

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