「農民」記事データベース990927-421-02

関東農政局の「文書」

請願運動に干渉

韓国の米輸入量めぐって「輸入は義務」と強弁


 関東農政局は九月三日、農民連が全国で進めている請願に反論する「事務連絡」文書を管轄の九都県に流しました。農民連関東ブロック協議会の抗議に対し、関東農政局は「請願に対する干渉ではない」という趣旨の「再連絡文書」を出すと言明しました(別掲)。
 農民連の請願運動に対し政府がこれほど真正面から言い訳し、妨害に乗り出したことは初めて。逆に言うと農民連の請願書の中身が政府の痛いところを、どれほど正確に突いたかを示したといえるでしょう。
 「文書」のゴマカシは三つあります。

韓国は作柄によってMA米輸入量を調整している

 一つは「韓国においてもミニマム・アクセス機会の全量を輸入していると承知しており『韓国が実施しているように、豊作になったら、外米の輸入をやめればいい』……は事実誤認である」とのべていること。
 しかし「事実誤認」は政府の方です。

 韓国の米輸入量をめぐっては(1)韓国政府のWTOへの通報(輸入契約量)、(2)韓国「通関統計」、(3)アメリカ農務省の統計――の三種類の数字があります()。(2)(3)は韓国が豊作・不作の変動に合わせて輸入量を変動させ、ミニマム・アクセス約束量をはるかに下回る量しか輸入していないことを示しています。農水省はひたすら(1)をとりあげて、韓国もミニマム・アクセス数量を全量輸入していることの「証明」にし、何がなんでもミニマム・アクセス米の輸入を減らすことはできないという日本政府の頑迷な態度を合理化する根拠にしています。

 しかし、関税を徴収し、密輸を防ぐために、実際の輸入量を日々チェックしているのは各国の通関当局であり、一国の貿易統計として最も正確で権威があるのは「通関統計」です。これは世界の常識です。
 逆に日本共産党の中林よし子衆議院議員の質問(三月九日)にあわてて、韓国政府に問い合わせた「通報」なるものは、輸入契約量にすぎません。しかも韓国の「通報」は、九五〜九七年のいずれも約束数量と契約量がぴったり一致しています。

 しかも、農水省は農民連に対し「韓国政府から非公式に教えてもらった数字だから資料は公表できない」と、資料の公開を拒否してきました(六月十日の交渉で)。“内緒だから公表できない”という数字と、韓国の通関当局が公に明らかにしている統計とどっちが信用に足るものか、明らかではないでしょうか。

ミニマム・アクセスは「輸入義務」ではない!

 二つめは“ミニマム・アクセス=輸入義務”という議論の蒸し返しです。WTO協定のどの条文を見ても「輸入義務」などとは書いておらず、日本政府が勝手な解釈(政府統一見解)で「輸入義務だ」と言い張っているにすぎないことは、国会論戦で決着がついた問題です。

 ところが「文書」は、論破済みの「政府統一見解」を再び持ち出して「我が国の国内事情のみをもってミニマム・アクセス米の輸入を減らすことは国際約束にも反することとなり適当でない」と繰り返すだけです。
 “蛙の面に小便”というべきか、ナントカの一つ覚えというべきか……。

「生産者団体の意向踏まえ」という言い訳と私たちの運動

 三つめは、米の投げ売り方針を「事実無根」「生産者団体の意向を踏まえずに国の方から飼料用としての販売を求めていくつもりもない」と、とぼけ通していること。
 しかし、本紙が繰り返し明らかにしてきた通り、全中に「生産者の意向」を踏みにじった方針をまとめさせ、これを「生産者団体の意向」と称して投げ売りを強行させるという筋書きは見え見えです。

 同時に、悪政製造マシーンと化した政府・自民党でさえ、米一俵六百円という暴政を力ずくで押しつけることはできず、生産者団体に「納得」してもらうために「変化球」を投げざるをえなかったことも、しっかり見ておく必要があります。
 いま、一つ一つの単位農協が組合員の意見をよく聞き、本当に米価の回復に役立つ対策を求めることこそが大切であり、農民連はその先頭に立つ決意です。

韓国は作柄にって米輸入量を調整している
豊作の翌年はミニマム・アクセス数量の3分の1前後!
(単位:トン)
 95年96年97年98年
生産量6,892,0006,386,0007,123,0007,365,000
ミニマム・アクセス数量(a)51,30764,13476,96189,787
輸入契約量(韓国政府の「WTO通報」)51,30764,13476,961
実輸入量(韓国政府統計)(b)700120,00024,00061,632
(b)/(a)1.4%188%31%69%
実輸入量(アメリカ農務省)13,00083,00028,00086,000
  1. 「輸入契約量」は、農水省が韓国政府から聞き取った「WTO通報」結果であり、食糧庁企画課によると「契約数量」である。ミニマム・アクセス約束数量とピッタリ一致している。
  2. 実輸入量(通関統計)は、韓国政府『通関統計』(95〜98年版)から。
  3. 実輸入量(アメリカ農務省)は、アメリカ農務省資料から。
  4. 生産量は前年のデータ(アメリカ農務省資料)
  5. 韓国のミニマム・アクセス約束数量の4年間の合計は28万2089トン。一方、実輸入量は20万6332トン(アメリカ農務省統計では21万トン)。ほぼ丸1年分を輸入していないことになる。「通関統計」と「WTOへの通報」の数字の違いは、年次のとり方の違いでは説明できない。食糧庁の言う通りに「契約数量」だとすれば、契約を履行していないことになる。


「干渉しない、補助文書出す」

農政局側、農民連の強い抗議で

 農民連は地方自治体や農業委員会などに「米の投げ売り強要をやめ、食料自給率引き上げを求める」請願・陳情書を提出、各地で可決されていますが、農水省関東農政局がこの請願に不当な言いがかりをつけて憲法で保障された国民の請願権を妨害する「行政指導」文書を九月三日付で管内の一都九県の担当者に出していたことが明らかになりました。

 農民連関東ブロック協議会の代表約二十人は九月十三日、関東農政局長あてに抗議と撤回を求める申し入れを行うとともに、農産普及課長らと交渉。その結果、課長は「請願行動をしばるものではないという補足の文書を出す」と約束しました。

 問題の文書は「最近、一部の県・市町村において、余剰米の処理に関連した請願・陳情が行われており、(1)MA(ミニマム・アクセス)数量の輸入は義務ではないのではないか、(2)韓国ではMAどおり米を輸入していないのではないか、との質問が寄せられており……」として、農民連の請願に的をしぼって反論したもの。

 この文書によって、茨城県友部町の農政担当課長が請願の紹介議員に「事実が違う」として請願の取り下げを促すなど、請願権に干渉する事態も発生しています。同席した日本共産党の中路雅弘衆院議員は「行政が請願の権利を抑えることは絶対に許せない。重大な問題だ」と指摘しました。

 参加者は「請願をねらい打ちにして、事実に反する行政文書を出すとは、なにごとか」「請願への干渉行為も現に起きている」などと、請願の権利を踏みにじる「行政指導」の責任を追及。文書を流した担当係長は「本省が作成した資料をそのまま流しただけ」と釈明しつつ、「みなさんの運動をじゃますることに使われたことについてはお詫びする」と言明しました。

 農水省本省作成の資料は、ミニマム・アクセス米がWTO協定の義務であり、韓国が豊作・不作に関係なくMA米を輸入しているという国会で論破済みの議論をむし返したもの。

(新聞「農民」1999.9.27付)
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1999年9月

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