「農民」記事データベース990920-420-01

米のエサ用投げ売り

「今年から実施」へ動く

農民と農協関係者の怒りそらす、政府・自民が“変化球”

「過剰対策」口実に新米・古米を複雑操作


 米をエサ用に投げ売りする「構想」は、来年からではなく、今年から動きだすことが確実になりました。
 自民党の松岡利勝米価委員長が九月二日、「需要に見合った数量しか市場に出さないための思い切った対策を早急に検討する」と述べたもの。また「共同通信」(九月一日)は「農水省は生産者団体に対し、主食用米を飼料用として販売するよう促す方針を明らかにした」と伝えました。

 「思い切った対策」とは何か――。「商系アドバイス」(九月六日)によると、自民党と食糧庁は次のような合意をしたといいます。

 (1)今年産米の豊作による“過剰”分(三十万トン)は政府が買い上げる。
 (2)かわりに全農(全国農協連合会)が九五年産政府米(「古古古米」)を購入してエサ用に処分する。
 (3)全農が九五年産米を購入してエサ用に処分する差損(六百億円)は「生産者負担が基本」である。

 これは、新米をストレートに一俵六百円で投げ売りさせることに対する農民と農協関係者の強い怒りにあわてて、自民党・政府が投げた“変化球”です。

 農民連は投げ売り構想が明らかになった七月から、新聞「農民」号外や請願署名用紙を持って、各地の農協・農業関係者と対話し、これまでにない共感を集めてきました。こういう運動の広がりを恐れた政府と自民党が”変化球”をなげざるをえなかった――私たちは、ここまで政府を追い詰めているのです。

「入り口」で買いたたくか出口かの違い

 この“変化球”は、農協関係者の目をくらませる可能性もあります。しかし、いくらごまかしても、正体はエサ用に投げ売りさせること。
 表向きは“過剰米”を一俵一万五千円台の「政府米」で買ったように見せかけ、裏で全農が「政府古米」を一万二千円台で買って、エサ用に六百円〜九百円で売れば、その差額(六百億円)は農民の負担になります。

 いきなり新米を六百円で買いたたく“アッパーカット”で痛い目にあわせるか、“ボディブロー”で、最初は一万五千円で買ったように見せかけて、後からじっくり痛みを与えるかの違いにすぎません。

銀行に60兆円、農民には出さぬ

 全国農協中央会(全中)は、政府に「万全の支援」を求めています。
 しかし自民党幹部は「差損は生産者負担が基本だが、全額負担の拠出に(生産者の)理解を得ることは難しく……政府助成などを要望している。しかし大蔵省の抵抗は強く、農水省の予算を拡大するのは難しい。助成金は農水予算を組み替えて捻出する可能性が高い」と言っています(「商系アドバイス」九月六日)。

 わかりやすく言えば、こういうことです。
 (1)「生産者負担が基本」だが、いきなり全額負担を押しつけると、せっかく変化球を投げた意味はなくなる。
 (2)当面、農民の怒りをなだめるために政府に助成させたいが、銀行に六十兆円出す金はあっても、農民に出す金はない。
 (3)したがって、農業予算を削って助成金を捻出して一部を助成する。
 (4)ただし、助成はほんの一部なので、農協系統に投げ売り処分の農民負担分を主食用とプール計算させて、農民がいったいいくら負担したのか分からなくさせてお茶をにごす。

過剰分買い入れは“恩恵”ではない

 さらに過剰米の政府買い入れを、いかにも“恩恵”であるかのように描きだすこと自体がゴマカシです。

 (1)一九八〇年代までは、政府が自主流通米に回る以外の米を全量買い入れ、三〜四年備蓄したあとに援助用や飼料用に売却してきました。買入価格と売却価格の差額は、当然、政府が全額負担。農民の負担はゼロでした。
 したがって、今後、政府がいくばかの「援助」をするとしても、それは“恩恵”などというものではなく、政府の当然の義務にすぎません。

 (2)新食糧法のもとで、政府の買入は備蓄用に限られることになりましたが、それでも九五年には百六十二万トン、九六年・九七年ともに百十四万トン買い入れてきました(表)。

 しかし、九八年からは、政府米の備蓄数量を減らすために「新たな備蓄運営ルール」を作り、政府買入数量は政府米売却数量の二十五万トン引きということにされました。政府の「試算」によると、七月末現在の政府米売却量が約三十九万トン、マイナス二十五万トンで、政府買入数量は十四万トン。
 これは、外米と古米という不人気商品を売りさばけない“武家(食糧庁)の商法”の責任を棚に上げて、農民の責任をなすりつけるものです。

 第一に、政府備蓄がダブついたのは、要りもしない外米を政府が無責任に輸入し続けたためであり、農民の責任ではありません。
 第二に、政府はもともと七十五万トン買い入れを計画していました(九九年度米管理基本計画)。
 ところが、この計画は忘れたふりをして、「買入可能数量」を十四万トンなどと過小な試算をしたうえで、恩きせがましく三十万トン上乗せするというのです。合計四十四万トンですが、これは計画の七十五万トンに比べれば半分強にすぎません。
 そのうえ、持てあまし気味の「古古古米」は農協と農民の負担で処分できる――これでは、政府にとって一石二鳥、“焼け太り”ではありませんか。

政府米の買入・在庫・輸入状況
単位:1000トン
 95(H7)
年度
96(H8)
年度
97(H9)
年度
95〜97年
累計
98(H10)
年度
99(H11)
年度
政府米買入数量1,6151,1361,1393,8903075
売却数量8193073401,466  
在庫量7968297992,424  
ミニマム・アク
セス米輸入量
3794555311,365608644
  1. 3年間の合計在庫量は242万トンであるが、政府のいう「適正在庫量」(150〜200万トン)を多少オーバーしているに過ぎない。
  2. 一方で、要りもしないミニマム・アクセス米の輸入量は3年間で137万トン、99年までの5年間では262万トンにのぼる。95〜97年分の外米輸入がなければ、在庫量は105万トン(242万トン−137万トン)にすぎなかったはずである。
  3. 「義務」でもないミニマム・アクセス米の輸入をやめれば、農民は史上最高の減反を押しつけられることもなく、消費者は安心して国産の新米を食べることができたのである。
  4. 95〜97年の政府米売却・在庫量は99年7月末現在。98、99年の買入数量、ミニマム・アクセス輸入数量は計画ベース。「米情報委員会資料」(99.8)などから作成。

米価回復させる二つの対策実現を

 政府はインチキ手品でごまかすのをやめ、次の二つの対策を実現すべきです。
 第一に、平年作を超えたら、国産新米の“投売り”処分によって需給を調整するなどという逆立ちしたやり方を改め、要らない外米の輸入をやめるか、エサ用や海外援助に回すべきです。現に隣の韓国では作柄に応じてミニマム・アクセス米の輸入を増減させているではありませんか。

 第二に、米価暴落のもう一つの原因――食管制度を廃止したうえに自主流通米の値幅制限を撤廃して、買いたたきを野放しにする仕組みを作ったこと――をただし、せめてアメリカやEUが続けているような最低限の価格下支えの仕組みを確立すべきです。とくに

 (1)自主流通米入札の値幅制限を復活させ、大資本の買いたたきを制度的におさえること
 (2)米価補てん制度(稲作経営安定対策)は、(a)補てんの基準価格は、下がる一方の「市場価格」を前提にするのではなく、生産費を償う水準にすること、(b)補てん水準は基準価格の八割などというケチなことをやめて全額補てんにすること、(c)補てん掛け金の農民負担をやめること
 (3)「備蓄」の名に値しない「回転備蓄」(一年間備蓄し、翌年以降、古米を主食用に売却する)方式を改め、最低限二〜三年間備蓄し、古米は、加工・援助・飼料用等に売却する「棚上げ備蓄」方式に戻すこと――は急務です。

(新聞「農民」1999.9.20付)
ライン

1999年9月

HOME WTO トピックス&特集 産直・畜産・加工品 農業技術研究
リンク BBS 農民連紹介 新聞「農民」 農とパソコン

農民運動全国連合会(略称:農民連)
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224

本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
Copyright(c)1998-1999, 農民運動全国連合会