「農民」記事データベース990823-418-01

どうなる老人介護

義母の介護つづけて19年……

農家の嫁に新たな不安――「介護制度」

待ったなしの現状/福島県下にみる


 介護保険制度が来年四月の実施まで八カ月となり、農村でも高い保険料を支払っても、介護サービスは従来通り受けられるのかどうかなど、不安や心配の声があがっています。農民連会員が寝たきりのおばあちゃんを介護しているという話を聞き、福島県北の桑折(こおり)町を訪ねました。

 同町には現在百十人の寝たきりの高齢者がおり、町には福島市と伊達郡九町で運営している特養老人施設(五十床)がありますが、同施設には十人しか入れず、他の施設に四十人が入所中です。入所している人たちは、来年四月から一割の利用料(月三万五千円ほど)を払わなければならなくなります。また、施設に入れない六十五歳以上の高齢者は町の担当者によると、二千四百円弱から二千五百円の介護保険料を支払う見込みになると語っています。

長女出産2ヵ月目のある日…

 「保険あって介護なし」という状況が桑折町でも起きかねません。こうしたなかで、八十三歳のおばあちゃん(義母)を十九年以上も介護しているのが加賀三枝子さん(48)。
 「熱いでしょう」と明るく声をかけて顔や首をタオルで手際よく拭く三枝子さん。失語症で声を発することのできないおばあちゃんのトシエさんは、左手をあげて感謝の意を表します。話を聞くと、堰を切ったように思いのたけを語る三枝子さん。明るく話すのです。

 いまから十九年前にトシエさんが六十三歳で脳こうそくで倒れ、右半身不随に。婿とりのトシエさんは頑張り屋で家を新築して四年後のことでした。倒れる前、トシエさんはナメコ、イチゴ、キノコなどを出荷するために早朝から夜遅くまで働き続けてきました。
 トシエさんが倒れた時、三枝子さんは長女を出産した二カ月後のこと。「隣町の農家の三女で、両親も丈夫だったので介護などまったく知らなかった」と当時二十八歳の三枝子さん。

入退院、回復の兆しも見えたが

 最初に倒れた時は、動かすこともできず、二週間後にやっと病院へ入院。リハビリに努力して歩けるまでに快復しましたが、三カ月後に再び倒れ、植物人間になるかもしれないと医師に言われながらも手術をしました。それ以来、失語症になり、左手を動かせるだけの状態になりました。

 入院生活を送りましたが、「これ以上治らない」と言われ、退院。三枝子さんが自宅で介護を始めました。「おはようございます」「いただきます」「ごちそうさま」と毎日、反応がなくても声をかけ続けました。ある日突然、トシエさんが「おそまつさま」と声をだしたのです。喜びいさんで家族に知らせた時、おばあちゃんが声を出すなんてと、誰も信用しませんでした。医師もびっくりしたほど、三枝子さんの働きかけによって声を出すまでになりました。
 童謡を歌ったり、数字の歌を数えたりするうちに、数字も言えるようになり、車イスでも動けるようになりました。

 しかし、夜中に外に這い出していったり、ゴミを集めてマッチで燃やそうとしたり、おむつをはずしたりと、目を離せない時期もありました。夏の暑い日には、いまは亡きおじいちゃんにトシエさんの背中を押さえてもらい、子どもを負ぶって体を洗うこともしました。息の抜けない介護が九年間も続きました。その後はトシエさんは寝たきりの状態になります。

家計にもズッシリ重い負担

 「夫の給料が月十二〜十三万円の時に病院に検査に行くにも、寝たきりの人のためのタクシーを一回利用すると一万円もかかった。家のローンも払わなければならず、お金は一円もたまらず経済的には本当に大変だった」と言い、「二人の子どもたちには何もしてやれなかったのが心残りです」と話す三枝子さん。
 現在、月におむつ代二万円、入浴代(月三回利用)六千円、往診代一回に二千〜三千円かかっています。町からはおむつ代として年二万円、寝たきりの介護者への助成として三万円の支給を受けているだけです。

明るく前向きにがんばって

 いつも明るく前向きにをモットーに介護していますが、「一番いま不安なのは、おばあちゃんにも介護保険料がかかってくること。私が介護料をもらいたいくらい」と話します。
 三年前から県北農民連桑折町支部に入り、介護の合間をみて、野菜を作り、生協などに出荷しています。「畑に行っても一時間ほどでおばあちゃんの様子を見るために家に帰ってくる。でも、自分でお金を稼ぐことができ、すごくプラスになり助かっている。働き甲斐もある」と、三枝子さんはきょうも介護に農作業に頑張っています。
(西村)


介護保険・国保問題で学習検討会開く

福島/社保協、農民連など4団体

「介護保険の見直し・改善要求と結んで国保の減免・改善めざす共同の運動を」――八月四日、福島県二本松市で学習・運動検討会が開かれました。主催は福島県社会保障推進協議会、県農民連、県商工団体連合会、県生活と健康を守る会連合会で、四十一人が参加しました。

 学習・検討会では、介護保険と国保問題、国保をめぐる自治体動向、国保の減免・改善をめざす運動について報告され、討議。介護保険をめぐる情勢や国保問題が浮き彫りにされました。

 福島市は六月議会で大幅に国保料を引き上げ、十月からは滞納世帯に通常一〜二年の交付期間を一カ月、三カ月と短くする短期被保険証にしたり、来年四月からは保険証を取り上げ、資格証明書を発行しようとしています。この資格証明書を医療機関に持っていっても保険からの給付は受けられず、全額自己負担しなければならなくなります。
 福島市では年収二百万円以下の国保世帯が六割余もおり、国保世帯の五軒のうち一軒が国保料を払えないという実態です。福商連の会員でも約三割が国保料を滞納という調査結果もでています。国保料も払えないところに、介護保険料が上乗せされたら、さらに医療を受けられない人が続出する状況も明らかにされました。

 同時に、国保料の減免を求める県内の取り組みも紹介されました。浅川町では、「貧困により生活のために公私の扶助を受ける者」という項目を条例に入れさせ、減免の範囲を広げさせた活動が報告されました。
 国保料と介護保険料の減免は各市町村が条例をつくればできるので、市町村への働きかけが重要であることも報告されました。

(西村/新聞「農民」1999.8.23付)
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1999年8月

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