「農民」記事データベース990802-415-03

国民は「日の丸」「君が代」法制化を断じて許さない

日本人の心をつくりかえる仕掛け

増田れい子(ジャーナリスト)


 日の丸・君が代法案が七月二十二日に衆院通過……と新聞各紙は伝えています。
 自自公が手を組み、“数”にものをいわせて異論の多い法案を次から次へ通してしまういまの国会の様子は誰の目にも異常です。民主主義を自らふみにじっています。国民主権のセンスのかけらもありません。こんな国会に、日本の私のいまと未来をあずけておけません。ただちに国会の解散を求めたい思いです。

 そこで、政府提案の日の丸・君が代法の真の狙いについてです。私は、ふたたび国民……とりわけ若い層めがけて“好戦的”にしたいという狙いがあるものと見ています。

 小渕内閣は、私たちの憲法に即して同意できないという熱い反対の声を無視して米国のはじめる戦争に参加する新ガイドライン法、いわゆる戦争法を成立させてしまいました。
 そして、このあとにはいざ戦争になったとき国民をどう戦争に参加協力させるかを決める有事法制の制定ならびに九条の改正を目ざした改憲へとスケジュールを進めています。
 そういう仕組み(ハード)をつくる一方で日本人の心をつくりかえる仕掛け(ソフト)づくりにも力を入れています。日の丸と君が代はその仕掛けとして、登場しているのです。

 民主主義の社会は、さまざまな考え、さまざまな意見、さまざまな生きかたを尊重してその選択をひとりひとりの理性と経験にゆだね、ひとりひとりが自由に人間らしく生きることを認めあい支えあう社会です。このとき政府、権力といえどもひとりひとりの心の自由、選択、決断といった魂の自由に介入しないどころかそれを守る立場にあります。そしてこういう社会こそもっとも戦争から遠く平和に近い社会として成立するものではないでしょうか。

 戦争というのは、自国が他国民の殺りくを容認するという異常心理をエネルギーとしてはじまります。自国の優位性を極度に高めることが、戦争を起こす要件のひとつになるのです。
 日の丸を国旗として法律で決めてことあるごとに押しつけることで、また君が代を強制することで、日本のため天皇のために死んでもいいという心情、つまり戦争肯定の日本人を大量につくり出す。これが狙いではないでしょうか。一九二九年生まれの私は日の丸・君が代世代のひとりです。だからこそその狙いがわかるのです。


侵略と抑圧の象徴

吉田喜代志(岩手県農民連前委員長・盛岡市在住)

 自自公の三政党は国会多数の暴挙によって民意を無視して新ガイドライン法など、次々に悪法を通しています。この上さらに国会を延長し、国歌・国旗の法制化までも強行しています。

 私は一九二五年、尋常小学校三年の頃の唱歌の試験のことを思い出します。一人ずつ教壇に立ち、オルガンにあわせて順番に「君が代」を歌います。いよいよ自分の番がまわってきたとき、私は口をとんがらせて真っ赤な顔でつっ立ったままでした。先生は「なんだ、タコ入道みたいだ」と言い、それ以来、私は「タコ」のあだ名で通用しました。

 当時の私らには、「君が代」の何たるかは知る由もなく、学校行事のたびに歌わせられる「君が代」に反感を抱きました。この頃は、まだ国歌として強制力はなかったと思います。社会人となっても市民の祭りなどの行事で、「日の丸」「君が代」が使われることはなく、「旗日」と称される祝日よりも地元の神社やお寺の祭、季節行事の方が村や町をあげてにぎわったものでした。

 一九四三年、私は一片の赤紙で天皇の侵略軍に召集されました。「お国のために」「平和のために」と町内総出で日の丸の旗を振りかざし、駅まで見送られた幾多の若者たちが、英霊として無言の帰還をさせられたのです。私は戦後三年間捕虜としてシベリアに抑留され、空腹、厳寒とたたかいながらの生還でした。

 いまその私が、小渕総理の「君」とは象徴天皇であるとの国会答弁に憎悪を禁じえません。第二次大戦で日本国民やアジア、太平洋諸民族の膨大な生命、財産を奪った天皇制日本の罪業の一片も省みない暴言ではないか。戦後民主主義の日本の首相としてまるで適性を欠き、世界の誇る日本国憲法を根底から覆し、歴史の流れに棹さし、日本国民への決定的な背信行為としか思えません。

 「日の丸」「君が代」には絶対反対です。世界平和と民主主義を守る、真の国旗と国歌を、みなさんでじっくり考えようではありませんか。

(新聞「農民」1999.8.2付)
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1999年8月

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