遺伝子組み換え作物ノー崩れた「安全神話」立ち上がる世界の科学者メイワン・ホー博士と会見して〈上〉 杉田史朗(農の会・理学博士)
勇気ある良心的科学者たち「5・31遺伝子組み換え食品いらない!世界行動デー」のため、イギリスの研究者、メイワン・ホー博士が来日しました。昨年から、欧州、とくに英国で、遺伝子組み換え食品の安全性をめぐる議論が科学者の間で活発になりました。勇気ある良心的な科学者が立ち上がり、遺伝子組み換え作物の使用を凍結させる運動が、世界的に広がり始めました。ホー博士は、運動の中心になっている科学者の一人です。 「5・31集会」の翌日、直接ホー博士にお会いし、意見を交わす機会がありました。遺伝子組み換え食品をめぐる最新の情勢、世界の科学者が日本の農民に期待していることを紹介します。さらに詳しい内容は、杉田史朗のホームページでも紹介しますので、そちらもご参照ください。(http://www2u.biglobe.ne.jp/~sskk/index.html) 実験の結果、EUは表示義務化いま、遺伝子組み換え作物の安全性をめぐる議論が、世界中の科学者の関心を集めています。昨年の八月、イギリスのローウェット研究所のプスタイ(パズダイ)教授が行った実験の結果が、今回の論争に火をつけました。プスタイ教授は、レクチンたんぱく質の遺伝子組み換えジャガイモが、ラット(モルモット)に与える影響を調べました。レクチンとは、糖結合たんぱく質で、ある種の植物が、害虫から身を守るために作るたんぱく質の一種です。 実験は(1)従来のジャガイモ、(2)従来のジャガイモにレクチンを混ぜたもの、(3)レクチンたんぱく質の遺伝子組み換えジャガイモ、以上の三つのえさを使いました。 精密な実験の結果、(3)の遺伝子組み換えジャガイモを食べたラットだけに、免疫力が低下するなどの健康障害が見られるということが明らかになりました。結果が明らかになった翌九月に、EUでは遺伝子組み換え食品の表示が義務づけられました。 環境に深刻な悪影響及ぼすさらに話題になっているのが、アメリカのコーネル大学、ルージー博士らの研究グループの、五月二十日付英国の科学雑誌、ネーチャーに発表した論文です。これは、パイオニア社のBt毒素遺伝子組み換えトウモロコシの実験です。Bt毒素は、土壌微生物の作る殺虫たんぱく質です。このトウモロコシの花粉のついた植物の葉を、オオカバマダラというチョウの幼虫が食べると四四%が死ぬというのです。この虫は、トウモロコシの害虫ではありません。トウワタという植物を食べる昆虫です。遺伝子組み換えトウモロコシの花粉のついた葉を食べると、害虫以外の虫まで死ぬのです。 このトウモロコシは、害虫のメイチュウのみに影響を与え、他の益虫には無害なものだと宣伝されていました。トウモロコシの花粉は、六十メートルほど飛びます。この実験は、遺伝子組み換えトウモロコシの栽培が、環境にも影響を及ぼす可能性があることを示したものです。この論文を受けたEUは、ただちにこのトウモロコシの認可手続きを凍結しました。 世界的権威もつ科学誌が特集遺伝子組み換え食品の問題点を指摘する科学的なデーターが、次々と発表され始めました。ネーチャー誌は、世界で最も権威のある科学雑誌です。古くはダーウィンの時代から、DNAの二重らせん構造の発見など、多くのノーベル賞受賞論文を出しています。ネーチャー誌で最近、遺伝子組み換え食品の特集が組まれました。社説で、「遺伝子組み換え食品問題は、しっかりした科学的裏づけのある議論と同時に、消費者を信頼して判断をゆだねる姿勢も必要だ」としています。アメリカにもサイエンスという科学雑誌があるのですが、英国のネイチャーの方がこの問題を熱心に取り上げています。科学の世界でも、アメリカとヨーロッパの立場の違いが現れています。 WTO協定をめぐり、農産物の市場開放の圧力をかけるアメリカの立場と、自国の農業と環境を守ろうとするヨーロッパの立場が、遺伝子組み換え食品の安全性をめぐる議論に反映しています。ヨーロッパの科学者は、アメリカの農業支配から地球を守るために立ち上がり、アジア諸国の科学者、農民への連帯を呼びかけています。(つづく)
(新聞「農民」1999.6.21付)
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[1999年6月]
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