「農民」記事データベース990524-406-05

うれしかった! ベコの親愛キス

農のきびしさ、素晴らしさ実感

YAC(ユース・アグリ・クラブ)の学生が8日間 援農体験日記

 突然の後継者の病気入院。牛の世話に加え、田植えの準備も始まり、とっても作業が追いつかない――そんな農家に、ユース・アグリ・クラブ(YAC)の東京の大学生がゴールデンウイーク期間(四月二十八日〜五月五日)福島県の農家へ援農に駆けつけました。農家は「沈みがちな暗い気持ちに明るさを持ってきてくれた」と大歓迎。「こんなやり甲斐を感じたことはなかった」と言う学生たちに、農作業の中で感じたことを日記風にまとめてもらいました。


4月28日 東京農大3年 佐藤圭(あだ名はミン)

 十二時半くらいに相馬駅に着いた。迎えに来てくれた車の中から田園風景を見ながら、私はこれから起きるであろう作業に胸を踊らせていた。しばらくして安部義雄さんの家に到着。安部家は酪農(50頭)と水田(14ヘクタール)が主だ。
 昼ごはんを食べて、いよいよ作業開始。ボカシ肥の袋づめを行った。初めて見るボカシ肥は独特な臭いがして、少々まいりながら作業をこなした。
 夕方から安部牧場の牛舎に入った。驚いたのはほとんど臭わないこと。「マスクでもしないと長くはいられないだろう」くらいに思っていたのに。後でおじちゃんに聞いたら、菌を飼料にまぜると臭わないそうだ。夜は疲れていたので死んだように眠った。

4月29日 東京農大3年 富永康平(あだ名は富ちゃん)

 朝六時半から朝食、すぐ牛舎へ。酪農は朝と夜に仕事があるので大変だ。牛のウンコをコンベアーに落とす作業や、乾燥ワラを牛にあげる作業。一番つらいのがトラックいっぱいのモヤシをトロッコに載せ、スコップで牛に喰わせること。すげえモヤシ重い!腕と腰が痛い…。
 今日の作業は、昨日のボカシ肥や他の肥料をまぜて田んぼに撒く。オレらは、おっちゃんが運転するトラクターを見ていて、無くなったら入れたりした。昼からは、ビニールハウスの苗箱の雑草取り。

命名

 佐藤圭 夕方からまた牛舎へ。三回目ということで、自分たちが何をすればいいのか分かってきて楽しい。今日は子牛にミルクをあげる。黒い頭にハート型の模様と「7」の字が白くある子牛に「ラブ」「セブン」と名付けた。一頭だけあまり餌を食べない牛がいる。心配だなぁ。

4月30日 大脱走

 富永康平 明け方やけに牛舎で犬の声がうるさい。おっちゃんとおばちゃんが向かったので、オレもすかさず現場に直行した。何と!牛のヒモが切れて、他の牛にタックルしたり暴走していた。モヤシを喰わせて、その隙におっちゃんが結んで何とか解決。ミンは気づかず熟睡していた。
 朝の牛作業中、何とまた一頭、ヒモを切りやがった。ミンにおっちゃんを呼んでもらい、おばちゃんとオレで牛を挟み打ち…と思ったら、牛がオレに向かってきてメチャ怖かった。その後、田んぼに行って肥料撒き、昼作業は苗の雑草取り。
 夜の牛作業の時、おっちゃんがモヤシを取りにいってなかなか戻って来ず、牛たちが「モヤシくれー!」って鳴いてすごかった。トラックが来て急いでやった。夜ごはんを食べた後、みんなでコタツでうたた寝。疲れているんだねぇ。

5月1日 歓迎会

 佐藤圭 昼間の作業は、ゆうこ姉ちゃん(都会に出ている安部さんの娘さんが連休に帰ってきてくれた)と少し離れたネギ畑の雑草抜き。ネギはまだ小さくて雑草とほとんど変わらない大きさ。体力より精神力がものをいう作業。こういう地道な作業なしには安全なもの、おいしいものは作れないんだろう。
 今日は夕方の牛作業を休ませてもらって、農民連青年部が開いてくれた歓迎会に行った。前青年部長の三浦さん、酪農の杉さん夫妻、ナシ農家の山崎さん、花卉の根本くん、みんなイキイキとしていて「素敵だな」と思った。若い担い手がどんどん増えていく農政が大切だなと考えていた。富ちゃんはかなり酔っぱらっていた…。

5月2日 腕自慢

 佐藤圭 朝の作業が終えた。今日はたくさんの牛にお尻を舐められちゃった。私たちにだいぶ慣れてきたのかな。今回知ったのだけれど、牛ってとってもデリケート。ちょっとした音でビックリしたり、人見知りもする。牛それぞれの性格も分かってきた。慎重なのや隣のエサがよく見えちゃう牛、もうかわいくってたまらない。
 夜ごはん、おばあちゃん(83歳)が作ってくれるタケノコご飯は最高!魚も太平洋が近いからおいしい。おばちゃんは、二十歳から農業をやっていて、すごい力持ち。食べ終えて、富ちゃんと腕相撲大会が始まった。なんと!おばちゃんの勝ち。働き者の手を見て、私もそうなりたいと思った。富ちゃんは相当ショックを受けた様子…。

 富永康平 おばちゃんが、オレの作業する前とかの「よしッ!」っていう掛け声が気に入って連発するようになった。本当におもしろいし明るいおばちゃんや。今までいろいろ実習に行ったけど、こんなにやりがいのある作業はない。べこ(牛)も気に入ったし、自然は最高だし、将来こんな所に住みたいわ。  

5月3日 食欲!?

 富永康平 昨日の夜、牛が柵を壊して抜け出した。オレらが出したメシが少なかったのかなぁ。
 夕方、今日はモヤシを大盛りにしてやった。すぐ脱走するからな。今日も夕食食べまくった後、体重を計ったら何と五キロも増えていた。ショック―。しかし、寝ようとしていた時もっとショッキングなことが…。
 牛の鳴き声がするので見にいくと、三頭の牛が外に出て隣の畑を走りまわっていた。しかも牛舎の中は、朝のトラブルメーカー牛が暴れているし…。なんか、オレらのエサのあげ方が悪いんじゃないかと本気で心配になってきた。

5月4日 優しい心

 佐藤圭 残り少ないから牛に優しくしようって心がける。そう、食欲がない牛がいたけど、乳房炎にかかっていたらしい。どこかに連れていかれた。
 昼からおばちゃんが相馬観光に連れていってくれ、夜は近くの農民連のおじちゃんたちとバーベキューをやった。農民連らしく、たくさん飲んでいた。産直じゃないと米だけでは食べていくのは難しいと聞いて、農民連の大切さを感じた。
 それと、私がここに来てから毎日のように別の農家が助けに来てくれる。自分だけよければいい、というのでなく困っている人が助け合う。こんなにも素敵なことって他にない。安部さんはもちろん、私もその人たちの優しさに助けられてた気がする。

5月5日 満足感

 佐藤圭 今日は最終日。どの作業をやるのもさみしく感じた。始めのころはつらかったモヤシの作業も牛の喜ぶ顔を見たら満足感で一杯だ。富ちゃんといつまでもここで働きたいねって話しながら作業を終えた。
 温かい家庭のなかで、こんなよい体験ができて私のゴールデンウィークは最高のものになった。おばちゃんは、はじめ元気がなかったけれど、今は車の中で演歌を歌うまでになった。安部さんの家を出るとき「本当に助かったし、楽しくできたよ」って言ってくれて嬉しかった。お土産にもらった十キロのお米を担ぎながら、その米よりはるかに重い何かをもらったように思えた。農業がますます好きになった。


明るさを運んでくれた二人
 安部義雄さん(64)、マサ子(60)さん

 水田二十ヘクタールをめざし面積を徐々に増やし、とくに昨年は作柄が悪かったので今年こそはと思っていた矢先の息子(亨さん、38歳)の入院。牛の世話、田植えの準備など、早朝から作業をしても追いつかない。悲鳴をあげていました。
 そこに、世代もまったく違う若くて明るい二人。腕、肩の筋肉痛に耐えて、最後まで一生懸命がんばってくれました。一週間ありがとう。沈みがちな暗い気持ちに明るさを持ってきてくれ、本当に助かりました。おかげで息子の回復も順調で、浜通り農業を守る会の仲間にも助けてもらい、帰ってくるまで何とか続けられそうです。

(新聞「農民」1999.5.24付)
ライン

1999年5月

HOME WTO トピックス&特集 産直・畜産・加工品 農業技術研究
リンク BBS 農民連紹介 新聞「農民」 農とパソコン

農民運動全国連合会(略称:農民連)
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224

本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
Copyright(c)1998-1999, 農民運動全国連合会