いま注目
オーガニック給食
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東京・東久留米市 第九小学校栄養教諭
松本恭子さん
東京都の栄養教諭、松本恭子さん(東久留米市第九小学校に勤務)は学校給食の重要性を考える中で、積極的に地場産や有機農産物を給食に取り入れています。学校給食の在り方を「教育」「産業」「福祉」それぞれの分野から取り組む松本先生に話を聞きました。
栄養教諭として
教育現場と農業に向き合う
松本先生を訪ねて第九小学校に行くと、子どもたちが堆肥づくりをしていました。4年生の社会科「ごみの授業」から始まった取り組みです。
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栄養士になる前から産地訪問を続けている松本先生。「個人的な趣味でもあるんです」 |
自分たちの学校からどんなごみが出るのか。給食室から出る調理済みの野菜くずや給食の食べ残しが多くあることを知った子どもたち。それを減らすにはどうすればいいのか。近所の農家に授業に来てもらい、野菜くずが栄養のある土に変わることを学び、「自分たちでやってみたい!」と話し合いました。松本先生のアイデアです。
「子どもたちとしては、身近な問題を解決していく取り組みです。野菜くずと食べ残しが毎日どのくらい出るのかを計測した4年生は食べ残しが激減しました。意識するだけでも大切です」。学校給食を「教育」として授業に組み込む工夫を語る松本先生。
学年や専科の先生たちと話し合い、カリキュラムにそった授業の中で食育を進めます。4年生は来年、地域の第一次産業について学びます。「そのとき、堆肥づくりを経験した子どもたちは『自分たちがやっていたことが有機農業なんだ!』と実感してもらう壮大な計画です」と笑みをこぼします。
学校給食の
豊かな可能性を求めて
昨年の春、前任の目黒区から東久留米市に赴任しました。「産業」として学校給食への食材導入の実践を続けています。
「給食に卸すのは難しいことだ、と思われる農家さんも多いです。もちろん課題もありますが、直接お話することで互いの理解が深まります」
地元の農家とのつながりを大事にする松本先生ですが、目黒区ではそれは難しく、学校の宿泊体験授業を受け入れている山梨県北杜市の有機栽培農家とつながります。
その農家と通年での産直契約を結び、さらに区の栄養士の会議で働きかけます。
「“顔の見える野菜”“文章で習うだけじゃない安心・安全”、有機野菜を給食で使う意義を伝え、物量が増えればコストも下がる。皆で買いませんか、と呼びかけました」。松本先生の趣旨に賛同し、今も区内7つの小学校が通年での取引を続けています。
産業として地域に根付く給食を
一方、現在赴任している東久留米市には200戸以上の農家がいます。堆肥づくりの授業を引き受けてくれた有機農家との契約を足掛かりに、いま地元農家との関係づくりを進めています。「近所に農家さんがいるのに、外と契約するのは違うと思っています。だから慣行農法の方たちともつながりたい。まず地場産を増やす。学校や子どもたちとのつながりの先に、有機への転換もあると思うんです」
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堆肥づくりを進める4年生の皆さん |
都内23区は学校ごとに食材発注をし、自校調理を行う公立小中学校がほとんどです。松本先生の勤める第九小学校は、隣の小学校の給食と合わせて1200食をつくっています。
食材選定や発注業務を担う栄養士の役割を松本先生は、「大げさでなく、日本の農業を変えていく可能性を秘めている」と話し、栄養士の勉強会や産地訪問を積極的に企画して情報共有を強めています。
有機農産物規格の課題も
課題にも向き合います。集荷と納品の体制づくりを行政やJAにも働きかけています。また、有機農産物の給食導入の大きな壁となるのは規格です。大きさや形の異なるものが給食室に届くと、限られた時間の中で調理をするのは大変で、出荷の段階で農家が選別をかけることで価格も上がります。
「有機を本気で進めるなら、下処理施設をつくり、無選別でそこに届け、前日処理した野菜を翌朝学校に納品するシステムが必要です」。すでに実施している韓国に視察に行った松本先生は、日本でもその必要性を強く感じています。北杜市の有機農家が「規格がなければ、今の10倍は供給が可能」と話したことも大きいと言います。
給食費無償化は教育としてこそ
給食でしか栄養を取れない子どもが多い。これまでの経験で給食の「福祉」としての役割も大切にしています。「しっかりとした食事を提供する大切さをコロナ禍では特に強く感じた」
いま、都内でも全国でも進む学校給食費の無償化。松本先生は「教育としての無償化を実現していかないといけない」と話します。
「経済的負担の軽減のための無償化に偏れば、自治体内で均一的な給食運営になることも懸念されます。栄養士が学校からいなくなり、質や栄養価が低いものが提供されると、給食の価値は激減してしまいます」
将来おとなになる子どもたち、未来の子どもたちを思い、理想を掲げ実践する松本先生。
「よりよい学校給食を皆でつくっていきたい」
(新聞「農民」2024.3.18付)
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