「農民」記事データベース20240311-1592-07

原発推進の実態は「延命」!

龍谷大学 大島堅一教授


原発1基あたり最大1000億円を補助

画像  昨年12月23日に行われた「原発ゼロをめざす全国交流会」で、龍谷大学の大島堅一教授が岸田政権による原発推進政策の実態について講演しました。

 消費者庁の電気料金アドバイザーで、原子力市民委員会の座長、「ノーモア原発公害市民連絡会」発起人の一人でもある大島さんの講演要旨を紹介します。

 2022年7月、岸田政権は原発回帰・推進政策を発表しました。

 11年の福島原発事故以降、政府はエネルギー基本計画で「原発依存のできる限りの低減」、「新たな原発はつくらない」という方針をずっと示し続けていました。しかし22年7月に突然、真逆のことを言い出したのです。それはなぜか。22年6月17日に最高裁が「福島原発事故における東京電力の責任は認めるが、国に責任はない」とした判決を出したからです。

 このときの裁判長は、この年の8月に東電の顧問弁護士事務所に再就職しました。

 そしてたくさんの法律を束ねた、いわゆる「原発推進法」が昨年成立しました。ここにはたくさんの問題があります。特に深刻なのは「原子力基本法」を改定し、「原発推進政策を国の責務」としたことです。同法はこれまで、自主・民主・公開という「原子力の三原則」にのっとった法律でしたが、岸田政権により全く様変わりしました。

 政府は「長期脱炭素電源」に原子力・原発を加えて、これの固定費(建設費や維持費)を国が保証する運用を24年度から始めます。具体的には、原発1基あたり100万キロワット原発で年間最大1000億円を補助するとして、今年から電気料金に上乗せしていきます。それが原則20年続きます。

 電気事業法は、国民福祉や経済の向上が目的です。原発推進が目的ではない。私が経済産業省の審議会(昨年4月)で、電気料金の原価算定の問題点を指摘すると、別の審査員は「政府の方針に従った正当な電気事業だ」と完全に転倒した論理を述べました。

 なぜ政府はここまで優遇するのか。それは、原子力産業が衰退の一途だからです。22年原子力小委員会資料では、国内のプロジェクトは全て延期。海外への輸出案件も全て中止・終了。川崎重工、住友金属などの大手企業の原子力事業からの撤退が相次ぎ、原子炉圧力容器の部材をつくる企業は国内で1社になりました。今後の原発設備の安全対策の劣化が懸念される事態です。

 岸田政権は「原子力を伸ばす」と言って金を投入し、延命させているのです。

 これは気候危機対策としても非常に問題です。多額の金を原子力に使うことで、再生可能エネルギーや省エネの普及を妨げています。過去25年間の世界各国の原子力政策を研究した論文では、原発に熱心な国は再エネ導入率が低い、という結果が出ています。原発と再エネの相互利用は矛盾するのです。

 原発には大きな倫理的欠格があります。被害が甚大で元に戻らないという「不可逆」、被害や影響が不均等に発生する「世代内の不平等」、膨大な時間と手間と金と管理を次世代以降に担わせる「世代を超えた不平等」です。

 そして多くの問題を抱えながら続けられる原子力発電の「無責任の構造」も重大です。過大な目標を立て、達成できなくても原因究明をしない。順調であるように振る舞う。根本的解決策の実施も方針転換も行わない。それらを国が手厚く保護して、国民にツケをまわす構造です。

 岸田自公政権による原子力政策は国民に広く知られていません。この「無責任の構造」をなくすための市民の取り組みが求められています。

(新聞「農民」2024.3.11付)
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2024年3月

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