いま注目
オーガニック給食
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「オーガニック給食の日」
高校生の発案で実現
学校初の試みは生徒の探求から
東京都杉並区にある文化学園大学杉並中学・高等学校(以下、文大杉並)で1月25日、「オーガニック給食の日」として有機農産物を使った献立メニューが給食で出されました。学校給食を実施する同校の中学生約390人を対象に実施。
学校初の試みは、高校生たちの「持続可能な農業とは」という探求から始まりました。
文大杉並では生徒主導の課外授業活動が積極的に取り組まれています。「持続可能な農業について学びを深めたい」と久保田乃々子さん(この春に高校3年生)は1年生時に友人を誘って活動を始めます。
都市型農業を営む都内の農園や、最先端農業の実証実験を進める企業施設などを訪問。様々な農業の可能性を調べ、そこで得た気付きは「有機農業が今後の農業を支えるに違いない」でした。
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高校生チームの皆さん(右から南陽菜さん、石川葉菜さん、久保田乃々子さん、浅沼悠果さん、大園さくらさん)と染谷先生 |
課外プロジェクトで
有機農家を直接訪問
協議会を発足 国の事業も活用
作物本来の栄養価が高く、つくる人も食べる人も健康で生態系にやさしい農業。久保田さんたちは学びを深め、「自分たちは給食はないけど、中学生に有機農産物を使った給食を食べてもらいたい!」と話し合います。
農学部出身の理科教諭、染谷昌亮(よしあき)先生に相談したことで、プロジェクトは発展していきます。
染谷先生のつながりから、NPO法人「こどもと農がつながる給食だんだん」、日販連(日本販売農業協同団体連合会)、NPO法人「メダカのがっこう」がこの趣旨に賛同。そして助言・相談者として卒業生、文大杉並の給食調理の委託会社も加わり、高校生、調理委託会社、流通団体、市民団体による協議会が発足しました。
久保田さんたちは「食材を提供してくれる生産者に会いたい」と昨年の冬休み、茨城県の米農家やネギ・ダイコン農家、熊本県のみかん農家などを訪問。生産者から直接聞いた栽培にかける思い、食べてもらう人への思いを事前に中学生に伝えました。
今回のプロジェクトでは、農水省の「有機農業推進総合対策緊急事業」を活用。これは有機農産物の販売・市場拡大を支援するもので、食材として新規で取り扱う際の掛かり増し経費補助や、生産者の状況を確認するための旅費などを補助するものです。
食や自分の体を大切にする
価値観を育てていきたい
「農家の言葉を伝えたかった」
迎えた「オーガニック給食の日」当日。中学生たちは思い思いに味わいました。食材を提供した生産者の皆さんからの動画も各教室で流され、「自分が食べるものが、どんなふうに作られているのかを少しでも考えてもらえればうれしい」「できれば食べた感想を教えてください」などのメッセージが伝えられました。
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有機給食を味わった中学生の皆さん |
食べた感想で多く聞かれたのは「甘い」でした。米やニンジン、キャベツ、それぞれが「いつもよりも甘くておいしい」。高校生チームのメンバーは「皆が味わって食べてくれてよかった」と安堵(あんど)の表情に。久保田さんは「農家さんが言っていた『体は食べたものでできている』の言葉を中学生に一番伝えたかった。これからも大切にしたい」と話してくれました。
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この日の献立で使用された有機食材 |
染谷先生は「オーガニック給食を通じて、生徒たちが食や自分の体を大切にする価値観を今後も育てていきたい」と意欲を示しました。
農産物・加工品の流通を手配し、現場でも取り組みを支えた日販連の中塚敏春会長は「私たちとしても勉強になった」と振り返ります。「今回、調理を担当された皆さんが相当ご苦労された。有機野菜の規格、量、下処理など給食現場の要望に対応できる専門的な納品体制、給食プラットフォームが必要です」と話しました。
文大杉並では来年度以降もこの取り組みを継続していく、としています。次号で高校生たちが訪れた「渥美どろんこ村」小笠原弘さんの声を紹介します。
(つづく)
(新聞「農民」2024.3.4付)
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