新鮮な有機野菜を毎週届ける
「くまっこ農園」
宮城県仙台市 渡辺重貴さん
消費者とともに地産地消を
宮城県仙台市太白区秋保(たいはくく・あきう)にある「くまっこ農園」は露地とハウス合わせて1・6ヘクタールで農薬・化学肥料不使用の野菜を年間通して作っています。
1年中野菜を配達できるよう
渡辺重貴さんは17年前にこの地で有機農業をスタートさせ、現在スタッフ1人、研修生1人と宅配を中心に年間80品目、100種類を超える野菜を栽培・出荷しています。
「11品の野菜を毎週、1年中届けられるように体制をつくっています。冬は雪が積もる前にダイコンを土に埋めて、イモ類やカボチャは倉庫に保管、葉物はハウスで作る。意外と冬は大丈夫で、4〜5月が一番苦しい時期かな」と話す渡辺さん。
有機農業の実践について、「地域に立派な有機農家さんたちがいる中で、うちは基本的にノーガード戦法(笑い)。野菜本来の生命力を生かす農法を心がけているんです」と微笑みますが、おいしい野菜を作り続けるための努力と工夫があちこちに。
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渡辺さん(奥)の取り組みを嶺岸若夫県連会長(手前)と平間さん(中央)が聞きました |
土づくりと輪作 生命力を支える
病害虫については、畑を5カ所に分けて、ある程度の面積の中での多品目栽培が、リスクを分散させると話します。
「例えば、西の畑のユキナは虫がついているから、離れた畑の小松菜を今週は野菜セットに入れよう、という感じ。調子がいい野菜を収穫しているうちに、3週ほど経つと虫もいなくなり復活してくる。野菜の生命力には感動します」
風通しをよくするために株間、うね間を広めにとり、そして連作はしない、というのも大事だと言います。アブラナ科は同じ場所では4年に1度。たくさん作るニンジンやジャガイモは畑を細めにローテーションさせます。
土づくりは土壌分析を実施しながら様々試してきました。「牛ふん堆肥中心の土壌改良から、今は鶏ふん、魚かす、キノコ工場で廃棄される廃菌床なども使っている」。研究熱心な渡辺さんは、使用する肥料の成分分析の依頼先を探す中で農民連食品分析センターを知り、県連役員の平間徹也県青年部部長ともつながりました。
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色鮮やかな野菜。10月下旬の週の宅配11品 |
農家が種もっていることが大事
2018年の種子法廃止の前後で、種の重要性に気付いた、という渡辺さん。
「調べてみたら日本の野菜の種の9割が輸入?何かあったら野菜作れないじゃん!と思い自家採種を始めました」。地元の伝統野菜の仙台バショウ菜など、いま10種類以上の種取りを行っています。「農家の手元に種があることが大事。少しずつ種取りを増やしていて、固定種や在来種も意識的に作るようになった」と話します。
非農家出身の渡辺さんは大学卒業後、国際協力を行う民間団体に入り、インドネシアでの有機農業の普及に携わり、農業と出会います。
「そこに住む人が、そこにある物資を使って作物を作り続けるのが有機農業だと学んだ。定植用のポットをバナナの皮で作ったり、面白い!と思ったし、自分のフィーリングにぴったり合った」
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7月下旬、助っ人の皆さんとジャガイモ72ケースを収穫しました |
地域の人たちに届けたい
仙台に戻り、念願の就農後は順調に宅配会員を増やしてきましたが、震災後の原発事故で会員が激減。「これでもう農業はできないかもしれない」と思う中で、地元の直売所に支えられます。「あの時のありがたさが『地域の人たちに食べてもらいたい』というより強い思いになりました」。そしてコロナ以降、宅配の95%が県内、地元の会員に。農園での農業体験などを通じて地域の人々や会員との交流を大切にしています。
コロナを経て有機への需要は高まり続け、いま宅配会員は定員いっぱいの状態が続いていると言います。「戦争や国際情勢の影響もあるのか、消費者の皆さんにも地産地消の意識が強まっていると感じる」
気候変動はここ3〜4年で激しさを増し、悪さをする虫の種類も変わったと言います。サルやイノシシとの知恵比べが続く中で渡辺さんは信念を語ります。
「やっぱり自分自身が土いじり、野菜づくりが何より好きなんです。法人化して規模拡大も考えましたけど、それじゃあ自分が農作業できない!と思ってやめました」(笑い)
(新聞「農民」2023.12.11付)
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