「農民」記事データベース20231204-1580-01

「誰一人ひもじい思いをしない」
国づくりを

寄稿
(一社)長野県農協地域開発機構
研究所長 岡山大学名誉教授
小松泰信さん

 農民連がいま取り組んでいる「食料自給率向上を政府の法的義務とすることを求める請願」署名について、岡山大学名誉教授の小松泰信さんに寄稿してもらいました。


食料自給率向上を政府の義務に

画像  2022年度のわが国の食料自給率は38%。850キロカロリー(国産供給熱量)を2260(供給熱量)で割って算出したこの自給率は、国民の基礎代謝量(生命維持のために最低限必要なエネルギー)すら自給できていないことを意味しています。

 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によれば、普通の生活をしている30歳以上49歳以下の男性の1日当たり基礎代謝量は1530キロカロリー、女性は1160キロカロリー。「850キロカロリーという国産供給熱量がなんと少ないことか」と、驚くのはまだ早い。国産供給熱量で基礎代謝量を充足できているのは、3歳以上5歳以下の女性(840キロカロリー)、1歳以上2歳以下の男性(700キロカロリー)と女性(660キロカロリー)だけです。

 ほとんどの国民の生命維持エネルギーすら自国で賄うことのできない国ニッポン。文字通り、致命的な自給状況。いつ「兵糧攻め」にあってもおかしくないこの国の、どこがG7(主要7カ国)ですか。まさに噴飯もの。これは、自民党長期政権の不作為の結果です。

 この危機的な状況を早急に打破していこうとする姿勢が現政権にもないことは、現在検討中の「食料・農業・農村基本法」改正案において、食料自給率の位置付けを低くし、影の薄いものにしようとすることからも明らかです。

 政権に首根っこをつかまれている農林水産省にもJAグループにも、自給率向上に向けた意欲的姿勢をうかがうことはできません。悲しいかな、当事者である国民の中にも危機意識は高まっておらず、票につながらないことからか、選挙の争点にすらなりません。

 ちなみに、民間シンクタンクの紀尾井町戦略研究所の調査(10月13日、全国の18歳以上の男女1000人を対象)によれば、政府が2030年度までに目標とする食料自給率45%を、72・3%が「達成できない」としています。

国民の中に向上への気運が
高まることを期待

 このような状況を打破するために、今回農民連が企図している「食料自給率向上を政府の法的義務とすることを求める請願」署名は意義深いものです。

 署名活動を通じて、国民の中に食料自給率向上に向けた気運が高まることを心から願っています。

 「誰一人ひもじい思いをしない」国づくりを目指して。

(新聞「農民」2023.12.4付)
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2023年12月

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