マイペース酪農が
日韓環境賞を受賞
北海道
循環型・低投入評価され
草地酪農という家族農業で、
生態系生かした牛飼いの営み
良い堆肥をつくり、良い土、草をつくる。あまり穀物を与えず、牛が健康で、人もゆとりある生活ができる。そして環境への負荷も小さい。それがマイペース酪農です――。
北海道の根釧(根室・釧路)地域を中心に、低投入で循環型の酪農を実践する「マイペース酪農交流会」がこのたび、第29回日韓国際環境賞を受賞しました。
風土・自然が与えてくれる
10月26日、4年ぶりとなる日韓合同表彰式が都内で行われ、北海道からマイペース酪農の提唱者の三友(みとも)盛行さん・由美子さん夫妻(中標津町)や獣医師の岡井健さんら8人が参加。農民連会員で、マイペース酪農を実践する酪農家、岩崎春江さん(別海町)、下元朋子さん(浜中町)、石澤元勝さん(厚岸町)、森高哲夫さん(別海町、交流会事務局長)と獣医師の高橋昭夫さんが参加しました。
表彰式で三友盛行さんは「人が食べられない草を牛が食べて、ミルクと肉をつくり、ふん尿を生産してくれる。この自然・風土が与えてくれる循環を第一に考えた酪農の実践を評価してもらえたと思う」と述べました。
これもアグロエコロジーだよね
マイペース酪農という呼び名は「農政に振り回されず、自分の頭で考え営農を進めよう」という考えから生れました。1986年に「酪農の未来を考える学習会」が発足。その4年後に三友夫妻と出会い、今に続く営農形態が育まれます。
根釧地域では、草地1ヘクタールで成牛1頭を適正規模として、夏季は昼夜放牧、冬季は乾草中心の牛飼いをします。化学肥料や穀物飼料を最小限にとどめる、牛にも人にも優しい、家族による“草地酪農”の営みです。
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交流会では訪問した牧場の工夫やアイデアを学びます |
繊維分の多い乾草を食べた牛のふんはよく発酵し、完熟堆肥になります。これを草地にまくことで、腐植という形で土壌中に炭素を固定し、大気中のCO2を減らすことにつながります。15年前に化学肥料の使用をやめた石澤さんは「地域に根差した酪農。これもアグロエコロジーだよね」と笑みをこぼします。
森高さんは「月例の交流会では、参加者全員が失敗談や成功談を率直に話し、土・草・牛、そして風土から学んだことを語り合ってきた」と振り返ります。1年間の月例交流会をまとめた「年次酪農交流会」では、酪農家、新規就農希望者、研究者、市民団体や消費者など様々な分野の人々と意見を交わし、活動を深めてきました。若い世代の定着や後継者の育成にも力を入れています。
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交流会で土を掘って皆で観察をする様子。人なつっこい牛たちが寄ってきます |
乳量減っても経営成り立つ
「30年前まで多頭飼いで穀物をたくさん与えて、牛の病気も多かった」と話す下元さん。岩崎さんも「わが家も同じ。三友さん夫婦と出会って考えが180度変わった。でも牛を減らしても経営は成り立つ。乳量は減っても、購入していたものが減るから。ここが大事なんです」と強調します。
三友由美子さんは「交流会では女性も活発に発言し、生活している者同士の絆も深まります。夫婦で同じ仕事をしているんだから」と微笑みます。「私たち夫婦は理想とする酪農をしてきたけど、農民連の目指す社会とマイペース酪農が一致して、活動を大きくしてくれたと思います」と語ってくれました。
日韓国際環境賞
東アジア地域で環境保護などの活動に優れた貢献をした個人・団体を毎年、日本と韓国からそれぞれ選考する。主催は毎日新聞社と朝鮮日報社。
(新聞「農民」2023.11.13付)
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