ゲノム編集魚を考える
市民集会in京都
市民・農家・漁民が
遺伝子操作技術にノー
京都では、京都大学のベンチャー企業リージョナルフィッシュ社が、マダイ、トラフグのゲノム編集魚の開発、養殖、販売を行い、宮津市では、ゲノム編集トラフグを「ふるさと納税返礼品」に採用するなど、ゲノム編集魚の開発・養殖が盛んに行われています。
遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン、OKシードプロジェクト、日本消費者連盟、麦のね宙(そら)ふねっとワーク(京都府宮津市)の4団体が呼びかけて9月23日、京都市内で「ゲノム編集魚を考える市民集会」が同実行委員会の主催で開催されました。会場には約230人、オンラインでは約250人が参加しました。
集会に先立ち、参加者は京都駅前で、「未来の食卓」京都アクションに取り組み、ブルーをシンボルカラーに、青いTシャツ、バンダナやスカーフなどを身につけ、オリジナルのメッセージボードも掲げながらアピール行動を行いました。
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京都駅前で「ゲノム編集魚にノー!」とアピールしました |
基調講演
「ゲノム編集食品は未来の食卓をどう変えるのか」
集会では、第1部で「ゲノム編集食品は未来の食卓をどう変えるのか」と題して、安田節子さん(食政策センタービジョン21主宰)が基調講演しました。
要旨を紹介します。
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ゲノム編集技術の一つ、クリスパー・キャス9(ナイン)とは、標的の遺伝子を切断し、遺伝子を欠失させ、これまでにない形質を得ることです。
しかし、この技術は、標的以外の類似の遺伝子を壊す「オフ・ターゲット」が避けられないという決定的欠陥があります。標的外の遺伝子の切断で、その遺伝子による存在するはずのタンパク質が破壊されたり、機能停止しているはずの遺伝子を働かせてしまったりすることもあります。
日本政府は、ゲノム編集技術の応用化を推進。一つは、GABA(ギャバ)高蓄トマト、二つめは、肉厚マダイ、成長の早いトラフグです。農水省は「次世代バイオ農業創造プロジェクト」でゲノム編集を後押しし、作物の開発を推進しています。さらに「みどりの食料システム戦略」でゲノム編集活用の「効率的品種開発」をうたっています。
ここでは、最先端テクノロジーを駆使し、食料問題の解決、気候危機や食料不安の脅威への対応として、グローバル種子農薬企業やIT大手企業がもくろむ農業モデルを示すとともに、ゲノム編集などバイテク食品やフードテック(培養肉、昆虫食)、陸上養殖、植物工場、AI(人工知能)搭載の機械で無人でできる農場経営などを例示しています。
いま世界の食料生産の90%以上は小規模農家、小規模零細漁業が担っています。環境を守り、再生産可能な、地域自給の生業を守ることこそが食料安全保障なのです。
私たちにできることは、自治体条例などでゲノム編集など遺伝子操作食品の生産・流通・販売の禁止・表示義務を求め、行政、議会や企業に市民の声を届けることです。
トークセッション
「ゲノム編集魚の何が問題か」
第2部は、天笠啓祐さん(科学ジャーナリスト)と河田昌東さん(分子生物学者)による「ゲノム編集魚の何が問題か」のテーマでのトークセッション。
ゲノム編集魚は、「政府や企業が海をゴミ捨て場のように考えている」ものだと述べ、福島のトリチウム汚染水問題やマイクロプラスチック問題と同様の問題だという認識を示しました。
さらに、カナダで行われていた遺伝子組み換えサケ(成長を速め、巨大になる)の養殖問題を取り上げ、結果的に開発企業が撤退し、養殖場ではGMO(遺伝子組み換え)から非GMOへの転換がなされたことを報告しました。
しかし、世界的には新ゲノム技術容認の動きがあり、リージョナルフィッシュ社が進めるエピゲノム編集の高温耐性ヒラメの例をあげました。ゲノム編集が特定のDNA配列そのものを改変するのに対して、エピゲノム編集では目的DNA配列の機能に関係する周辺のDNA修飾などを改変するもので直接DNAを壊すものではないと説明。そのねらいが規制逃れのための開発であることを告発しました。
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討論する(右から)天笠さん、安田さん、河田さん、松平さん、NOCOさん、印鑰さん |
パネルディスカッション
「ふるさと納税返礼品取り下げを」
第3部のパネルディスカッションでは、宮津市の「ふるさと納税返礼品にゲノム編集トラフグ」問題について討論。OKシードプロジェクト事務局長の印鑰智哉さんは、バイオテクノロジー技術を推進する手段として、自治体への予算などの支援を告発。一方で、小学校や福祉施設などに無償提供されようとしているゲノム編集トマト苗に対し、受け取りを表明した自治体がゼロであるという成果を示し、「地域から声をあげることが大事」だと激励しました。
AMネット代表理事の松平尚也さんは、日本で1990年代から産官学連携、ベンチャー企業支援の動きが強まり、リージョナルフィッシュ社が2022年から京都大学の農学研究科でゲノム編集育種についての寄付講座を設けたことを報告。
一方、松平さんが在外研究した米カリフォルニア大学サンタクルーズ校は、1980年代に持続可能な農業であるアグロエコロジーのセンターを環境学科に設立し、大学内で有機農業の実践と研究を開始。23年、USDA(アメリカ農務省) から巨額の予算を獲得し次世代の研究者や有機農家育成に取り組んでいることを紹介しました。
麦のね宙ふねっとワーク共同代表で釣り船船長のNOCO(ノコ)さんは、21年12月に宮津市のふるさと納税返礼品にゲノム編集トラフグが出品され、取り下げを求めて署名や請願などに取り組んできた経緯を紹介。
短期間で1万人を超える署名が集まったにもかかわらず、市長からの返答もなく、請願は否決されました。「ゲノム編集魚を食べたくない、地場産品にしてほしくない!作ってほしくない!の声を引き続きあげていきます」と訴えました。
安全・安心な食卓と
豊かな漁場を残そう
漁業者と市民からアピールと宣言
集会では、JCFU全国沿岸漁民連絡協議会の二平章事務局長から「漁民が心配するのは『ゲノム編集魚』が海面養殖業者に提供され、『遺伝子操作された魚』が、海に逃げ出し天然資源や自然生態系に悪い影響を与えないかです。食の安全を守り、自然豊かな日本の水域環境を守るためにも、消費者の皆さんとの協力・協同の輪を広げて行きましょう」とのメッセージが寄せられたほか、NPO法人21世紀の水産を考える会の石井久夫代表理事、三重県の海女さんグループなど、漁業関係者からのアピールが届けられ、読み上げられました。
最後に、「私たちは京都の地に集まり、全国の心ある人々とともに声を上げます。海の生態系を守り、ゲノム編集や新たな遺伝子操作の作物や魚をストップさせます。食卓の安全を守ります」とする「ストップゲノム編集魚」京都宣言が読み上げられて閉会しました。
(新聞「農民」2023.10.30付)
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