「農民」記事データベース20231023-1574-01

農民の種子システム強化が
食と命を守る道

UPOV会議(マレーシア)に参加して
農民連国際部長 岡崎衆史

 種子の育成者権の過剰な強化に歯止めを掛け、農民の種子と食への権利を守るための国際会議が10月4日から6日までマレーシアのクアラルンプールで開かれ、アジア10カ国、欧州、北米の市民・農民団体の代表や学者、政府関係者70人近くが参加しました。国際NGOの第3世界ネットワーク(TWN)などが主催。日本からは、日本消費者連盟の廣内かおりさん、OKシードプロジェクトの印鑰(いんやく)智哉さんと、農民連を代表して私が出席しました。


逆行する日本政府を告発

 育成者権の過剰強化が農民の種子への権利侵害

 会議では、気候危機や貧困などが人類の食への権利を脅かすなかで、農民の種子を中心とする制度を強化することが食への権利を保障する道だと強調されました。育成者権を過剰に強化するUPOV91条約への加盟を押し付ける日本政府には、農民から種子を奪い、人々の食への権利を侵害するとの非難が相次ぎました。

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クアラルンプールで開催されたUPOVに関する国際会議

 TWNのサンギータ・シャシカントさんは、UPOV条約について、72年、78年、91年の改正を通じて「育成者権が強化され続け、種子に関する農民の裁量が狭められてきた」と指摘。WTO(世界貿易機関)のTRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)と比べても「柔軟性を欠く」と批判しました。

 UPOVは、TPP(環太平洋連携協定)などの自由貿易協定を通じて途上国に押し付けられてきたことに加え、日本政府が主導して2007年に設立された東アジア植物品種保護フォーラムを用いて強要されてきました。2006年にUPOVに加盟したベトナムでは、登録品種の価格が6〜8倍となり、野菜の種子の95%を輸入する事態になったといいます。

 一方、農業植物遺伝資源条約(ITPGR)など「農民の種子への権利」を保障し、農民の自家採種、保存、交換、販売を基盤とする種子制度を強化する流れが国際的に主流になっていることが強調されました。

 農民の種子は食への権利を保障し、地域を強化

 ITPGRのンナドジー事務局長がビデオメッセージを寄せ、農民の種子について、食料・栄養保障、生物多様性保全において「多大な貢献をしている」と紹介。ファクリ国連食料への権利特別報告者もビデオメッセージで、「農民の種子制度は多様性に富み、変化に適応し、気候変動に強い」とし、食への権利や生存権を保障し、地域を強くすると述べました。

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ビデオあいさつしたITPGRのンナドジー事務局長

 国際人権法の専門家のカリーン・ペシャードさんは、(1)国連人権規約が保護する人権が「種子への権利」を含むこと、(2)女性差別撤廃委員会の一般勧告で、農村女性の種子への権利の保障を義務付けていること、(3)先住民族の権利宣言が、先住民族の種子への権利を保障していること、(4)農民の権利宣言が、種子への農民の権利を網羅していることを紹介。「種子への権利は国際法に認められており、他の法的枠組みに優先する」と述べました。

 先進国の中では、ノルウェーやニュージーランドがUPOV78年条約にとどまり、EUも、2020年の生物多様性戦略の採択後、農民の伝統・在来種の支援に動いています。

 海外での農民攻撃は国内の農村破壊と同時進行

 日本の状況については印鑰さんが、2001年〜20年までの品種登録の推移をみると、中国、EU、韓国が上昇しているのに対して、日本は減少していることを指摘。逆に日本国内での外国の育成者による登録の割合は激増し、17年の時点で36%に上っていると説明しました。

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印鑰さんが日本の状況についてプレゼンしました

 廣内さんは日本の市民社会の取り組みを紹介しました。

 私は、海外での育成者権の強化は日本で農村と家族農業を破壊し、種子を含む農民の権利を奪い、一部の企業や個人に資源を集中する「農業競争力強化・輸出産業化」の掛け声とともに進められてきたと発言。海外での農民の権利への攻撃は日本での農民・農村つぶしと一体的に行われ、日本の農民・市民はこれとたたかってきたと述べました。

 会議は、UPOV体制を推し進める動きに対してアジアの市民・農民の連帯ネットワークを強め、連携していくことを確認して閉幕しました。

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会議後、マレーシアの農村で自然農園を見学


 UPOV(ユポフ)

 UPOV(植物新品種の保護に関する国際条約)は、1968年発効、91年の改正で育成者権を大幅に強化。78の加盟国・機関のうち、91年条約加盟は61。東・東南アジアの加盟国は日本、韓国、シンガポール、ベトナム。中国は78年条約加盟国。

(新聞「農民」2023.10.23付)
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2023年10月

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