「農民」記事データベース20231009-1572-02

基本法見直し
食料自給率を上げる転換期に


6つの生協が合同学習会開く

 「いま国内でがんばっている農家を国全体で支えることが、自分たちの命を守る。それが安全保障だ」―。

 昨年から議論が進められている「食料・農業・農村基本法」見直しについて、「国内農業を守り、食料自給率向上にむけた6つの生活協同組合による合同学習会」が9月22日に都内をメイン会場にオンライン併用で行われ、合わせて700人を超える参加がありました。

 主催は、パルシステム生活協同組合連合会、生活クラブ事業連合生活協同組合連合会、生活協同組合連合会コープ自然派事業連合、生活協同組合連合会アイチョイス、グリーンコープ生活協同組合連合会、東都生活協同組合。

 主催者あいさつで東都生協の風間与司治理事長は「昨今の農業経営の危機は、私たちの買い支えだけでは解決できないほど厳しさが増している」と強調。「基本法改正の議論を通じて、生協の事業体を超えた連帯と連携で農政や消費者意識を変えていく大きな力にするために学習会を企画した」と話しました。

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(左上から時計回りに)東都生協の風間理事長、「くまもと有機の会」の田中さん、JAやさとの廣澤さん、生活クラブ生協の村上会長、東京大学大学院の鈴木教授、農水省の小坂参事官

 農水省は自給率の扱いを格下げ

 農林水産省で基本法の改正を担当している大臣官房の小坂伸行参事官が「基本法の検証・見直しに関する最終とりまとめ」と題して報告。この9月に審議会から出された「答申」の中身を説明しました。

 現行基本法のもとで5年ごとに定められる基本計画で、食料自給率の数値目標を掲げ毎年自給率が発表されています。

 しかし答申では、食料安全保障の観点から「食料自給率という指標1つで考えるのは不十分で他の指標も加えるべき」としました。これについて小坂氏は「例えば肥料やエネルギーも農業生産には必要だが、食料自給率の計算には全く反映されていない。農地面積や労働力も同じことが言える。これらにも対応できる施策を出すための判断」と説明しました。

 政府が財政出動し国内農業守れ

 しかし、小坂氏の後に「基本法改正の社会的意義について」と題して講演した東京大学大学院の鈴木宣弘教授はこれについて「そうではない」と指摘。肥料や種子を食料自給率の計算に入れて、より深刻な実態を国民と共有した上で「何をしなければいけないのか、を考えないといけない。他の指標と合わせて考えると言って、食料自給率を“格下げ”してはいけない」と強く述べました。

 鈴木教授は基本法改正議論の背景として、日本の食料安全保障がなぜここまで厳しい状況になったかについて「アメリカ言いなりの食料政策、経済構造が根本的な要因」とし、農水省も苦労している農業予算の少なさの問題と軍事費の拡大を指摘。「政府が自ら財政出動して国産の農産物を増やさないと食料安全保障は守れない」と述べました。

 さらに基本法改正議論よりも先に着手すべきとして、輸入義務ではない米や乳製品を海外から買い続けている問題を指摘。「これをやめれば国内の田んぼをつぶしたり、牛を殺す必要もない」と指摘しました。

 目先の経済より長期的な視野で

 生協の産直事業と結びついて有機農業など先進的な取り組みを地域で実践している生産者が会場から発言。

 「くまもと有機の会」専務取締役の田中誠さんは「有機栽培の技術や理論が確立してきて、肥料やエネルギーを海外に依存する農業から地域循環型の農業に転換できるようになってきた。今回の改正議論では、目先の経済よりも長期的な視野に立った法案になるようにしてもらいたい」と話しました。

 茨城県石岡市のJAやさと専務理事の廣澤和善さんは、持続可能な食料システムの開発と普及に向けて、それぞれの地域に適合した環境調和型農業の推進、地域の資源を利用した循環型農業の取り組み、義務教育の早い段階から食料の自給と国内農業への理解を進める教育の推進などを提起しました。

 防衛力に偏った安全保障変える

 最後に6生協からのアピールが行われ、まとめで壇上にあがった生活クラブ連合会の村上彰一会長は「農業は一産業として競争にさらされるものではない、という認識に気付かされた学習会となった。安全保障という考え方が防衛力に偏りすぎている今の日本で、この基本法改正議論の中で食料の安全保障こそ大事なんだ、という認識を広げていこう」と呼びかけました。

 この学習会での6つの生協の意見をまとめたものを農水省や国会議員に提出し、基本法や基本計画に反映させることを確認して閉会しました。

(新聞「農民」2023.10.9付)
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2023年10月

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