地域の資源循環に畜産・酪農はやっぱり必要
生産コスト高騰
酪農危機続く
家族経営でがんばる酪農家
広島 住田博幸さん(67)、佑樹さん(35)
農民連は昨年から畜産・酪農家の「個人要望書」の運動に取り組み、約1700枚におよぶ個人要望書を政府に届けてきましたが、厳しい経営状況は依然として続いています。政府は畜産・酪農緊急対策パッケージを実施していますが、その内容は不十分で生産コストが販売価格を上回る状態が続いています。
家族経営で危機を乗り越え、地域の営農を守ろうと努力を続ける広島県北部、庄原市の酪農家、住田さん親子を紹介します。
農民連の「個人要望書」に思い託して
規模拡大一辺倒の農政は見直しを
庄原市東城町森にある住田牧場は親子3代、約70年酪農を続けています。2代目の住田博幸さんと息子の佑樹さんは家族経営で搾乳牛75頭を管理しています。
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住田牧場の佑樹さん(右)と博幸さん |
住田牧場では以前から自給飼料を生産していましたが、一昨年から続くエサ代の高騰で、牧草生産に更に力を入れています。組合で作る混合飼料(TMR)と自給飼料で搾乳牛と育成牛のエサをほぼまかなっています。
「牧草は昨年5ヘクタール、今年は近所の和牛農家さんと18ヘクタール作っています」と佑樹さんは話します。酪農の専門大学校を出てすぐに実家に戻った佑樹さん。牧草管理責任者として、いま3番草の刈り取りに忙しい日々です。
大規模化せず家族経営を維持
「過去にこんな危機はなかった。赤字をつくりながらの経営は難しい、というのがここ2〜3年の思いだ」と話す博幸さん。コロナ前にクラスター事業で大規模化の話が出ましたが、しませんでした。博幸さんは信念を語ります。「うちの牧場も敷地を拡大し、頭数を増やしてきたが、それはあくまでも家族でやっていける範囲内。いまの75頭が限界かなと思っている。基本は家族経営。今回のことで農水省も方向性を考え直してほしい。農水省の政策は大型経営を目指しすぎた」
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ゆったりくつろぐ牛舎の牛たち |
昨年11月、農民連が取り組む畜産・酪農「個人要望書」に記入をして思いを託した佑樹さん。「地域の同業者たちと民商(民主商工会)に入っていて、そこの集まりで個人要望書がまわってきた。こういうことをやっている人たちがいるんだと思い、少しでも良くなる方向に進めばと思い記入した」と話します。
ふん尿はすべて堆肥化し
水稲農家の稲ワラと交換
地域と自治体で危機乗り越える
庄原市は昨年、飼料高騰対策として1戸あたり最高200万円の助成金を捻出し「とても助かった」と話す博幸さん。今年も対策を要望し、市長や地元の県議と懇談を重ねています。
牧場から出るふん尿は全て再利用し、堆肥化し水稲農家との稲わら交換を続けている住田牧場。「周辺農家の後継者不足は本当に深刻で、5年後にはどうなっているのか。それでも若い就農者が非農家から来てくれる中で、稲わら交換や互いにメリットになる循環がある。地域に酪農・畜産は必要なんです」と力強く語る博幸さん。佑樹さんも「今が底(一番厳しい状況)だと思ってがんばります」と語ってくれました。
広島県農民連の木戸菊雄会長は、「飼料用米、WCS用飼料稲等の水田転作は、引き取り先の畜産がなければ成り立ちません。地域の農業生産を守るために、畜産・酪農と耕種農家は助け合う必要がさらに高まっています」と話します。
(新聞「農民」2023.10.2付)
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