「農民」記事データベース20230925-1570-17

秋田県立大学と島根大学の学生

農民連
長谷川会長の農場でコラボ研修

 「農民連が提案するアグロエコロジーってどんいう農業?」――秋田県立大学生物資源学部の近藤正准教授と学生・院生6人が8月31日、島根県邑南(おうなん)町にある農民連の長谷川敏郎会長の農場を訪ねました。翌日には島根大学法文学部の関耕平教授と法経学科の学生3人も合流し、総勢11人が合同で研修しました。学生たちは、長谷川さんが自力施工した自宅裏の里山の2000メートルあまりの作業道を散策したり、農家ならではの広い座敷で長谷川さんに話を聞いたり、活発にディスカッションしたりして、学びを深めました。


アグロエコロジーってどういう農業?
「有畜複合経営は持続可能な農業」

 長谷川さんの農場では、繁殖和牛2頭を飼い、稲作1・2ヘクタール、牧草地0・2ヘクタールを耕作しています。このほか山林もあって、有畜複合経営と里山の手入れ、自伐型林業で地域資源を合理的に循環させながら、生態系の力を借りる農業を実践しています。

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笑顔いっぱいの学生たちと長谷川さん(前列右から3人目)

 牛の堆厩(きゅう)肥や米ぬか、ウッドボイラーの木灰を田んぼに還元して、30年にわたり化学肥料を使用していません。

 記帳簿で経営分析 小規模の魅力学ぶ

 昨年秋、関先生ら5人の研究者が、長谷川さん宅に保管されている21年分の農民連の記帳簿を使って長谷川農場の経営を分析。また近所の慣行栽培の田んぼとの土壌分析比較も行い、今年6月の日本環境学会でその成果が発表されました。

 長谷川さんはこの資料をもとに、「農業経営だけを見ると、平均で毎年30万円の赤字だが、減価償却費は毎年70万円を積み立てており、トラクターやコンバインなどの農機具も更新できている」と説明。また、化学肥料は30年間使用していないが、農業と林業を複合的に営んでいることで、自らの経営から出てくる資源をあますことなく循環させることができ、経営費が節約できていることも紹介しました。

 「ウッドボイラーのおかげで、ガス代や灯油代も不要。水道は井戸水。記帳簿で経費を経営部分と家事消費分にきちんと按(あん)分することで、結果として農林業が家計を応援している」と話し、小規模家族農業経営の魅力を、いきいきと語りました。

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里山を散策する学生たち

「資源循環が一番いいね」が学生目線

 『提言』パンフで打開策が明確に

 秋田県立大学の学生は、ゼミで事前に農民連の新基本法への『提言』パンフとアグロエコロジー宣言(案)のパンフを学習して参加。院生の近藤尚子さんは、「農畜複合経営がしたい、これが持続可能な農業だね、って学生の中で、はやっています。資源循環が一番いいね、が学生目線」と報告しました。

 学部生の吉田さんは、「大学に入ってから初めてさまざまな農業の制度を学んだが、現在の農村や農業の困難な問題を解決する制度がないと思う。近藤先生と中山間地の田んぼづくりを一緒にやっているが、認定農家とか大規模化が一方的に進められるのは現状に合わないのではないかと、これまでの4年間、解決の道筋が見つけられず悩んできた。農民連のパンフに出会い、明確な打開策を見つけた気がする」と報告しました。

 卒業後は、実家で9ヘクタールの米作りに就農する石井ヒカルさんは、「集落の農地は全部で40ヘクタールあるが、みんな70歳以上で誰も後継者がいない。将来は自分が引き受けてやっていくつもり。規模は違うが家族農業なので、学んだことを生かしたい」と自分の農業の展望を語りました。

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熱心に長谷川さんの話を聞く学生たち。長谷川さんの右隣が近藤先生

 コロナの学生生活「一緒」が楽しい

 この3年間、コロナで学生たちはどこにも行けず、授業もオンラインなど苦労してきました。

 県立大学の武田さんは「みんなで食べるのがおいしかったし、楽しかった! これを消費者も体験してもらうと、農業のことを知って大事にしなければと考えるようになると思う」と感想を述べました。

 ゼミの指導教官である近藤先生は「大変勉強になり、再度アグロエコロジーに展望と確信を持つことができた。古代からハンザケ(※オオサンショウウオのこと)が棲(す)む里で持続型農業を実践されていることにとても勇気をもらった。秋田でもがんばります」と述べ、「秋田に帰ったら、秋田県農民連で研修報告とアグロエコロジーの学習会が計画されている」と語りました。

 研修後、東日本には生息していないオオサンショウウオの学習展示施設「瑞穂(みずほ)ハンザケ自然館」を訪問し、「生きた化石」に感動。学生たちは長谷川さんの田んぼに入って、「カエルや虫がいっぱい!」と大騒ぎしながら、雑草のクサネム取り作業の手伝いをしたり、ドジョウ取りなどをして里山の豊かさを体いっぱいに楽しみました。

(新聞「農民」2023.9.25付)
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2023年9月

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