中山間地域直接支払交付金の減額
わずか2億円
1%の予算確保ができない!?
農水省の対応は全く無責任だ
緊急に農水省に説明を要求
生産条件不利地域で農業生産活動を支援する制度として2000年から実施されている「中山間地域直接支払交付金」。予算不足から交付金が2023年度に減額される事態が各地から報告されています。
この問題で農民連は8月28日に農水省に説明を要求。担当課は、「今年度予算では261億円を確保していたが、必要額の調査を行った結果、予算額を2億円超過することとなった」と述べました。
説明によると、5つある加算措置のうち「集落協定広域化加算」「集落機能強化加算」「生産性向上加算」を減額するなどというもの。
日本農業支えてきた中山間地域
中山間地域直接支払交付金制度は、WTO(世界貿易機関)農業協定を口実に価格支持政策を廃止する一方で、EU(欧州連合)が実施していた条件不利地対策の直接支払制度をモデルに導入されました。(ただし、「日本型」として、ずいぶんケチケチした直接支払いになりました)
1995年には耕地面積・農家戸数・就業人口・農業粗生産額で中山間地域は約4割を占めていました。
現行基本法制定に向けた検討のために設置された「食料・農業・農村基本問題調査会」(首相の諮問機関)の答申では、「河川上流に位置する中山間地域等の多面的機能によって、下流域の国民の生命・財産が守られていることを認識すべきであり、公益的な諸価値を守る観点から、公的支援策を講じることが必要」としっかり指摘しています。
あわせて、中山間地域等への直接支払いについて、「新たな公的支援策として有効な手法の一つである」旨が明記され、食料・農業・農村基本法にも「農業の生産条件に関する不利を補正するための支援を行う」と規定されました。
中山間地対策が日本農業にとって重要なものであることは政府自身が認めてきたことです。
予算カットは中山間地の苦労に冷や水
制度と予算の運営は、中山間地域の集落等を単位に農地等を維持・管理するための「協定」を地域で締結し、これに基づいて農業生産活動を行う場合に一定の面積に応じて交付金が支払われる仕組みとなっています。
また、5年間生産活動を継続する農業者が対象であり、「協定」とは別に協定の対象になる農地の将来像(6年〜10年を想定)を構想した「集落戦略」を策定しなければ100%の交付額になりません。
このように集落などの実施主体は5年間の計画策定や地域での合意形成をしたうえで、条件不利地域での農地維持管理など困難な状況のもとで取り組んできているのです。
農水省は予算確保に全力を
計画は5年ですが、予算執行は1年ごとで、現在は20〜24年度の第5期対策の4年目。予算不足はわずか2億円、総額の1%程度にすぎません。
支払われるはずだった加算額を前提に機械設備等の購入を行った地域では、加算措置が減額されれば、実施主体によっては数十万円〜100万円の減額となり、事態は深刻です。
わずか2億円の不足を予備費で手当てすることもせずに、交付金をバッサリ削る農水省の無策と冷たさはまったく無責任です。
引き続き各地で実態の把握を行い、「削減した穴埋めをせよ」「補正予算も含めて必要額を確保せよ」という要求を強め、政府・農水省の方針を改めさせましょう。
機械・資材の維持・管理に
資金繰りのめど立たず
島根県農民連会長・奥出雲町 田食道弘さん
島根県農林水産部は7月に県下の市町村に対して、中山間地域等直接支払制度の3つの加算金を昨年までの3割減とすることを通知しています。
島根県奥出雲町は、県内で最高額の交付金を受けてきました。
協定数は集落と個人を合わせ124、今年の交付金所要額は4億円余です。このうち減額の対象となるのは3分の1の41協定、金額にして716万円余です。なかでも生産性向上加算の減額は38協定で506万円余となっています。
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中山間地の維持に交付金は欠かせません(奥出雲町) |
奥出雲町では、担当課が協定代表者を集めた説明会で、「5年間の計画の4年目にいきなり減額することには納得できない」「すでに今年の事業は計画を立て実行しているものもある。資金手当ては簡単にできない。ありえない話だ」など怒りの声が続出しました。
奥出雲町内で最も減額される協定では今回、広域化加算で60万円、共同活動加算で60万円の計120万円もの交付金減となります。地域全体の水稲防除のために導入したドローンの維持・修繕費や大型機械のリース料支払いの財源に加算金を充てていたので、資金繰りのめどが立ちません。
ブランド米「仁多(にた)米」の産地である奥出雲町でも、直接支払交付金なしには農業を持続することが不可能になっています。
奥出雲町議会では9月初めの一般質問でこの問題を私と保守系議員との2人の議員が取り上げ、糸原保町長に対し国・県へ強く抗議し、全額交付を要請するよう求めました。
9月28日の9月定例会本会議最終日には政府、衆参両院議長らへの意見書の提出を議決する見込みです。
減額に驚き
水路の管理、獣害対策に切実な課題
滋賀県農民連・集落協定代表 宮川一男さん(米原市)
私は集落協定の代表者を務めて3期(13年)目になります。集落は霊峰伊吹山のすそ野の広大な畑地と28ヘクタールの圃(ほ)場整備がされた田を抱え、畑地はどんどん不耕作地化が進んでいます。
1期目から集落協定に採択され、5期にいたる23年間に圃場整備区域を協定農地として活動を継続しています。4期までの基本部分(水路や柵の修繕など)の交付金では、全域の獣害防止柵設置と維持管理、区域全体の用排水路と散在するため池の維持修繕を、できるだけ直営施工で作業参加者に労務費を支払い、地域へ交付金を還元するよう活動してきました。
獣害柵の設置により、イノシシによる獣害はほぼなくなり、農家からは大変喜ばれています。水路の漏水もほぼ直営で修繕を行ってきました。高齢化と農家の激減によって田んぼの日常管理に苦慮しています。
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獣害対策は切実な課題です。防止柵の設置は不可欠(米原市) |
集落全体で非農家も含めて取り組んでいる、まるごと保全活動にも、参加できる人数が減少していくことが予想されていました。現在の5期では生産性向上加算を採択してもらいました。それを原資に、まるごと(草刈り)活動の参加人数と活動時間の削減を目標として、多機能の機械を初年度に購入しました。
初年度に資金を他から借用して購入し、5年間で返済する予定で早期に目標を達成すべく取り組んで、ほぼ目標を達成しています。加算金3割減額で驚き困っています。5年間の加算をあてにして原資とし、活動を進めてきましたが、このまま減額されれば基本部分から減額分をねん出して返済し、水路や獣害防止柵の維持・修繕や、協定区域外周の管理作業を縮小せざるをえないのではと心配しています。
(新聞「農民」2023.9.25付)
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