種子の支配強める
UPOVにノー
在来種、農業・食料守る運動の強化を
農民連、OKシードプロジェクト、家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)、日本消費者連盟は8月8日、オンラインで学習会「基本的人権としてのタネが奪われる〜改正種苗法で加速するUPOV(ユポフ)体制強化への懸念〜」を開きました。
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(上段右から)司会を務めたOKシードの原野好正さん、印鑰さん、齋藤さん、(中段右から)岡崎さん、マーティンさん、廣内さん、(下段)纐纈さん |
UPOVとは、植物の新品種の保護に関する国際条約に基づく国際同盟のこと。この同盟の条約は1978年版と1991年版がありますが、現在加盟できるのは91年版のみ。品種改良した植物品種の無許諾利用を禁止し、種苗の育成者権を国を超えて強化することを目的としています。2023年4月時点での加盟国・地域数は合計78。
UPOV加盟を日本政府が強制
日本消費者連盟共同代表のマーティン・フリッドさんが開会あいさつ。「WTO(世界貿易機関)体制を経て、種子や生命を特許で支配しようとする動きが強まっている」と述べました。
「UPOVと海外の動き」のテーマで日本消費者連盟の廣内かおりさんが報告。UPOV条約が、植物の新品種の保護の対象、保護基準、保護期間などを定めていることを説明し、アジアでの加盟国は日本、中国、韓国、シンガポール、ベトナムであることを紹介しました。
日本政府が、東アジア植物品種保護フォーラムという組織や自由貿易協定などを通して、他のアジア諸国にUPOVへの加盟を強要している実態を告発。UPOVの問題点として、(1)各国の事情にあわせた柔軟性がない、(2)種子の採取、保存等を通して農作物を作ってきた農業者の権利を保護していない、(3)加盟するより前に国内法の整備が求められ、厳しい基準が課せられる――ことをあげました。
国際的には、UPOV91条約、WTOの「TRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」採択、11カ国による環太平洋連携協定(CPTPP)など、多国籍企業による種子への権利・独占を強める動きが進められています。
一方で、生物多様性条約、食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約(ITPGR)、先住民族の権利に関する国連宣言、小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言(農民の権利宣言)など、種子を農民・市民の側からとらえ直す動きも強まっていることを報告しました。
企業に種子事業は任せられない
次に、OKシードプロジェクト事務局長で民間稲作研究所常任理事の印鑰(いんやく)智哉さんが「UPOV条約下で激変した日本の種苗」と題して報告。日本で種苗事業の民営化が本格化したのはUPOV91を批准した98年であり、その後、「国・地方が公的種苗事業をやっていると民間企業の投資意欲をそぐ」として17年に主要農作物種子法(種子法)が廃止され、農業競争力強化支援法が制定されたほか、20年には、種苗法改定が行われ、種苗開発者の育成者権が強化されてきた経緯を述べました。
その結果、外国法人・個人による種苗の新品種登録が年々増え、日本の公的機関(国・地方自治体)の割合10%、外国の割合が43%になったことを紹介。「日本の種子の海外生産、種子の海外依存が決定的になった」と批判しました。
「民間企業に米を任せられるのか?」と問題提起した印鑰さんは、住友化学が開発した米「みつひかり」の供給が停止され、他の品種を混ぜて販売するという種苗法違反を犯していたことを告発。「利潤が得られなければ撤退。食料安全保障の観点からも企業に任せることはできない」と語りました。
世界では、多国籍種子企業による種子の支配が進む一方で、各地で自由に種子を育てる運動が立ち上がっていることも強調。グローバルな種子の押しつけに対して、地域の多様な種子を守る運動の必要性を訴えました。
食料自給率向上
新基本法明記を
農民連常任委員で千葉県船橋市の野菜農家、齋藤敏之さんは、「種取りは農家にとって楽しみであり、醍醐味」だと語り、「畑から見た種苗をとりまく変化と課題」について報告。
種苗法改定後、今までの苗取り専門農家の多くが廃業し、小規模な種苗店にも打撃を与え、品質の安定したさつま芋の苗が、期限通りに届かなくなり、農作業にも支障がでていることを強調。また「みつひかり」問題では、原・原種の生産は「雑穂混入率」を0・01%以下に抑えるため田植えから収穫までに7〜8回の雑穂抜きを行っていますが、この作業を「利益優先の民間企業が完璧に行うことは無理なことを証明した」と、公的管理の必要性を強調しました。
一方で、各地で種子条例制定の運動が広がっていることを述べ、この運動と並行した「オーガニック給食」を実現させる取り組みは、「地域農業、地域の環境や経済をどう守るか、などを課題として、大きな広がりと深まりのある運動に発展している。同時に、国産・地場産利用の運動は、在来種の利用へと向かっている」と述べました。
齋藤さんは、農民連が進めている「生態系を守り、その力を活用する農と食を作る運動」=アグロエコロジーについて、「未来世代に豊かな生態系を残していける持続可能な農業を仲間で探求する社会運動」だと指摘。「生産者、消費者が大いに国民的討論を行い、新しい農業基本法が私たちと次世代の食料の安定確保を保障する法律になり、豊かな生態系と平和な日本になるように力を合わせよう。とくに食料自給率向上を政府の義務にする新農業基本法の実現を求める大運動を」と呼びかけました。
マレーシアでワークショップ
日本消費者連盟事務局長の纐纈美千世さんが、10月にマレーシアでUPOV問題でのワークショップが開かれ、日本から、廣内さん、印鑰さん、農民連国際部長の岡崎衆史さんを派遣することを報告し、「今日聞いたことを共有し、周りに広めてほしい」と閉会あいさつを行いました。
(新聞「農民」2023.9.4付)
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