「農民」記事データベース20230731-1563-06

全国オーガニック給食協議会
視察研究会

学校給食を全量有機米に

千葉 いすみ市の米作りを学ぶ

 全国オーガニック給食協議会は7月13日、学校給食を全量有機米にした千葉県いすみ市を訪れ、視察研修会を実施しました。協議会代表理事・太田洋さん(いすみ市長)が「みんなで技術と情報を交流し、一歩一歩前進しよう」と開会あいさつ。第1部は、いすみ市からの実践報告があり、第2部は、有機の米づくり見学を行いました。報告者の報告要旨を紹介します。


給食への有機米出荷で
地域農業の活性化推進

いすみ市農林課有機農業推進班班長
鮫田 晋さん

 有機栽培農家数
 ゼロから始めて

 2012年にコウノトリの野生復帰に取り組む兵庫県豊岡市をモデルに「生物多様性」と「水稲」の2部門による「自然と共生する里づくり連絡協議会」を設立しました。会長を副市長、副会長をJA組合長、事務局は市農林課が務め、この時点で地域の有機農業者はゼロでした。

 13年は、手探りの水稲無農薬栽培に挑戦するものの失敗し、14年は、民間稲作研究所、県普及指導員、JA、市が連携して、水稲有機栽培の実証事業(3年間)が開始されました。

 15年には、生産された有機米4トンを学校給食に導入。17年に、学校給食の全量にあたる42トンの有機米を提供し、有機JAS認証取得を開始。有機農業の産地形成に大きく貢献しました。

 18年、同協議会に有機野菜部門が設置され、学校給食に向けた有機野菜の生産と産地化の取り組みを開始しました。

 いすみ市の有機米給食の取り組み状況は、学校給食センターでのセンター方式で調理も民間に委託しています。

 有機米の使用量と原料費でみると、2023年度の使用予定量は31トン(学校給食に使用する精白米の全量)で追加的予算は626万円(有機米と普通米との差額分)になります。

 年間での有機米導入日数は23年度で給食予定日数199日のうち160日です。パンの日(週1回)以外はすべて有機米で提供しています。

 いすみ市で有機農産物を学校給食に利用する際の成果をみると、(1)有機農業者ゼロから4年で産地を形成、(2)学校給食における残食の減少、(3)イメージアップと認知度の向上、(4)移住者の増加、(5)農産物のブランド化、(6)農業所得の向上、(7)新規就農希望者の増加などがあげられます。

 学校給食の需要を通して有機米産地をつくることをめざしています。学校給食全量42トンを供給するために、10ヘクタール以上の有機水田が必要であり、10〜15人の有機農家を育成でき、全量達成後は、一人あたり0・5〜1ヘクタール増やすことで20〜40トンを計画増産できます。

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報告する鮫田さん(左)と手塚さん

 給食費転嫁せず一般財源で賄う

 有機農業で環境と経済が両立できます。再生産可能な価格水準を維持し、食の安全・安心志向の高まりから、オーガニック需要は拡大傾向にあります。有機栽培技術の確立と普及、有機米の販路開拓を達成すれば、産地経営は持続的になり、あらゆるまちづくりに生かされ、地域活性化を図ることができます。そのためにも市は2015年、「いすみ生物多様性戦略」を策定しました。

 学校給食全量有機米化に伴う1カ月の給食値上げ分は169円と意外に安いことがわかります。

 給食費の値上げはできないため、子どもたちの健全な育成と産業・地域復興のために差額を補てんする必要があります。地場産有機米の学校給食には自治体独自の財政的支援が必要です。給食費に転嫁せず、一般財源で賄っています。


給食への提供で有機農業に
社会的意義を持たせられた

農事組合法人みねやの里代表理事・有機稲作農家
矢澤喜久雄さん

 私たちの集落は15ヘクタールで山、川に囲まれ、田んぼも60数アールほどで第二種兼業農家の集まりでした。

 2004年に農家22戸が参加する「峰屋営農組合」を立ち上げ、将来のことを考え、16年に「農事組合法人みねやの里」を設立しました。その際に(1)農薬はできるだけ減らす、(2)農業を守るために地域を活性化させる――ことを目標に掲げました。

 08年に農薬はなるべく使わないことを基本に「ちばエコ」(千葉県特別栽培)指定産地となり、12年に「自然と共生する里づくり」として協議会を立ち上げ、コウノトリの野生復帰に取り組む豊岡市に学びました。

 13年に「誰かが一歩踏み出さなければ。失敗しても新たな課題が見つかる」と無農薬栽培に取り組みましたが、1年目は予想を超えて草だらけになりました。

 何とか雑草を克服しなければならないと、民間稲作研究所の稲葉光國さん(故人)を招へいし、抑草技術を学びました。それが成功し、15年は3軒の農家で4トンの有機米を収穫できました。

 有機に農業的価値をもたせるためにも、学校給食に使わせてほしいと申し出ました。学校給食に提供されることで、有機農業が子どもたちの健全な成長に役立つという社会的意義を持たせることができたと思っています。

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ほ場で説明する矢澤さん(中央)


生物多様性を生かして
持続可能なまちづくり

いすみ市自然環境保全・生物多様性連絡部会部会長
手塚幸夫さん

 2008年に「生物多様性ちば県戦略」が策定されました。県民が直接参画することで戦略に反映された視点は、地球温暖化と生物多様性を一体的にとらえることでした。生活となりわいの視点を重視し、伝統的な里山里海の暮らしを見直し、健全な農林漁業を振興することが重要だと指摘しています。

 さらにあらゆる部署で生物多様性の視点を取り入れ、大量生産・大量消費・大量廃棄の暮らしから、循環型社会への転換を促すことです。

 10年に名古屋でCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)が開かれ、そこで「SATOYAMAイニシアチブ」が提唱されました。これに生物多様性の保全と持続可能な利用を、地球規模から身近な生活のレベルまで、さまざまな社会活動・経済活動のなかに組み込んでいく生物多様性を主流化する考え方と「ちば県戦略」とが下敷きになり、「いすみ生物多様性戦略」がつくられたと考えています。

 有機農業推進で持続可能な地域

 いすみ市では、給食で食べているお米がどのような栽培方法でつくられ、どのような環境下で育ち、自分たちの健康にとって大切であるかを知る「教育ファーム」の役割は重要です。食育(有機給食)、農業体験(有機稲作)、環境教育(生きもの調査)を一体的に学ぶことができます。

 生物多様性は単なる自然保護の概念ではなく、農林漁業、幕らしと地域経済、環境問題、種の保全などに関わる諸課題を一体的に捉え、その上で持続可能な地域づくりに取り組むための基本概念でもあります。有機農業と生物多様性は支えあう関係にあり、有機農業は生物多様性を育みますが、同時に、生物多様性によって、支えられる農業が有機農業なのです。

 有機農業の推進は今後も地域課題を解決するためのきっかけを提供するでしょう。

(新聞「農民」2023.7.31付)
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2023年7月

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