DVD紹介
『出稼ぎの時代から』
山形県白鷹町
出稼ぎの記録映画制作委員会
制作
農民としてどう生きていくのか
集落のこれまでとこれから
ひとりひとりのつながり むずかしさ 計画のうとましさ 生活の忙しさ それらをのりこえて
“冬の間も百姓でいたい”――。
出稼ぎの時代とその後の集落の移り変わりを描いた記録映画「出稼ぎの時代から」の中に出てくる詩の一節です。
1960年代の後半、日本の高度経済成長を支えたのは全国の農村からの出稼ぎ労働者でした。
山形県南部の置賜(おきたま)地方にある白鷹(しらたか)町。当時20歳の青年(本木勝利さん)が、出稼ぎ先の神奈川県川崎市北部の工事現場や飯場で撮りためた写真をもとにしてスライド作品にまとめます。そのフィルムが55年ぶりに町の教育委員会の倉庫から発見されたことがきっかけとなり、この記録映画は制作されました。
映画の前半、復元された本木さんのスライド作品を中心に、当時の集落や出稼ぎ先の詳細な様子が映し出されます。農民の暮らしぶりや出稼ぎに出る理由、集落に残された女性や子どもたちの思いなどが証言や時代背景とともにつづられます。
後半は出稼ぎの時代を経て、その後の白鷹の人々が直面してきた減反政策や農産物の輸入自由化、米価の暴落、酪農経営の危機など現在につながる様子が描かれます。
作品の中で、苦境を跳ね返そうとする農民たちの意思や努力の様子が目を引きます。「出稼ぎをやめて、農民としてどう生きていくか」を懸命に模索する当時の青年団。「こんなに一生懸命働いても、なぜ借金が返せないんだ」と憤る今を生きる酪農家。生産だけでなく、加工・流通まで自分たちで行い、白鷹を豊かにしようと話し合った当時を振り返り、冒頭の詩を詠んだ女性は「農家に自決権があることはすごいことだ」と話します。
市場原理の中に投入され、価格競争を強いられ、規模拡大や先端技術を導入することで生き残りを迫られてきた日本の農業。国の政治に翻弄(ほんろう)され続けた白鷹の農民は映画の終盤、「あの頃の熱意はなくなってきた」「このままでは法人として成り立たない」と漏らします。
いま食料・農業・農村基本法の見直しを進めている国は、おいしいと喜ばれるものを作り続けて暮らしていきたい、という農民の思いをくみ取った議論がされているのか。「出稼ぎ」を主題につくられたこの映画は、日本の農業のこれまでを克明に映し出し、人の営みやこれからの農業の在り方についてを問いかけています。
DVD『出稼ぎの時代から』(2022年)
◆本編 79分+付録6分
◆監督 本木勝利、大野和興
◆撮影 堀純司
◆語り 長谷川勝彦(元NHKアナウンサー)
◆制作 白鷹町出稼ぎの記録映画制作委員会
◆問い合わせ 大野和興 携帯電話 090(4175)4967、メール korural@gmail.com
(新聞「農民」2023.7.3付)
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